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治癒と破壊

 七海の言葉は震えていた。そしてそれはおそらく自動車事故に対してのものでは無く、あの不自然に地面から突き出した大岩のことを指しているのだろうということは、輝蘭にはすぐに理解ができた。

 あの時。いかに状況が不自然だったとは言え、彼女たちを救ったのは紛れも無くあの大岩の存在である。そしてその岩に何かの働きかけをしたというような意識は輝蘭には無いし、神酒にもその気配は無かった。しかしこの七海の発言は、彼女の意識のどこかに自覚があることを意味していて、しかもあの瞬間、七海の額から異様な光が発せられたのを輝蘭も神酒も目撃している。

 輝蘭は確信に近いものを持って、あの岩を動かした張本人が七海ではないかと感づいたのである。

 

 そしてそれは、神酒も同様だった。実は彼女が以前から気になっていたことだが、まだ神酒が地上に戻る前の事。ある事件を境に、神酒・瞬・シンディに続く、もう一つの【切り出された星の銘版】の能力を、七海自身が地底世界クンヤンの底に棲む旧支配者ツァトゥグァより授けられていた。それは七海が気を失っている際に判明したことで、それを彼女が気付いているかどうかは神酒には判らない。そしてこの【切り出された星の銘版】がどのような影響を七海に与えるも不明だが、先程の一連の出来事は、きっとそれに関係があると神酒は気付いていた。


「ナミ・・・。自分で、もう気付いているよね。」

「え?」


 七海は力の抜けたような表情で神酒を見た。神酒にはこれから言うことを七海が薄々感付いるように見えたが、同時にどこかに、それを否定して欲しいような意思も見えるような気がしている。しかしそれはこのような事件が起きた今、【銘版】の所持者として、その真実を受け入れなければならないこともまた事実である。


「ナミ。ナミにもあるんだ。【切り出された星の銘版】が。あたしやシュンと同じものがね。」

 神酒の顔を、七海も輝蘭も驚いて見つめている。


「2人とも、憶えているでしょ?前に海猫ヶ浜で、ナミが【ツァトゥグァ】っていう旧支配者に逢ったこと。あの時、もしかしたらって思ったけど、やっぱりナミにもあったんだ。」

 七海の表情は、驚きを越えて蒼白としたものとなっていた。

 あの海猫ヶ浜での事件からの奇妙な感覚、そして大岩の突出について、もしかしたら自分に何かが起きているという自覚が全く無いというわけでは無い。

 しかし彼女は、どこかでそれを否定したいと思っていた。そのような恐ろしいものが彼女の内側に潜んでいることに、触れたくは無い大きな恐怖感を持っていたのだ。だから神酒の言葉へのショックは大きく、七海の瞳からは真実を受け入れ難い意思を示すように、恐怖に怯える涙が流れていた。


「本当に・・・あたしに?」

「・・・うん。」

「やっぱりあれをしたのは・・・あたしだったの?」

「・・・うん・・・多分。」


「・・・そんな・・・要らないよ、そんなもの・・・」


 七海は懇願するように神酒の手をつかみ、その顔を見つめた。

「いや!あたし、そんな恐ろしい力なんかいらない!!」

「ナミ・・・。」

「どうして!?どうしてあたしにそんなものが!?」

「落ち着いてよ!ナミ!」

「あの車を壊したのはあたしだったの!?あんなに恐ろしいことをしたのが、あたしなの!?」

「ナミ!」


 そして七海は崩れるように床に座り込むと、まるで力が抜けるように肩を落とし、両手で顔を覆い泣き出していた。


「いらないよ・・・。そんな怖い力・・・。」


 七海のショックを心配した輝蘭は、彼女に駆け寄ると肩を優しく抱いたが、その目は神酒の方を向いていた。

 輝蘭は七海に優しい言葉を掛けた後に、神酒にある彼女の疑問を投げかけたが、それはこれからの神酒の意思に大きく関わる重大な疑問で、神酒は輝蘭の投げかけに答えを出すことは出来ない。

 神酒はしばらくうずくまり泣きじゃくる七海を見て、ただ無言で2人の様子を見守ることしかできないでいた・・・。

 

「ミキさん。セラエノ断章にも書かれていたことですが、この【破壊】の能力が本来の旧支配者による【切り出された星の銘版】の力のようです。ナミさんには辛い結果になってしまいましたが、それでもミキさんは自分の持っている【治癒】と【再生】の能力が、本当にクトゥルーのものだと断言できますか?」


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