七海の覚醒
神酒と七海、そして輝蘭の3人が過ごしたフェニックスガーデンでの一日は、本当に楽しいものだった。
本来の買い物の目的は七海のアンダーシャツにあったが、その後3人はゲームセンターに行ったり、カラオケに行ったりしながらさらに交流を深めていった。最近は輝蘭が勉強漬けであまり一緒に遊ぶ機会も無かったため、今日は普段会えなかったうっぷんを晴らすかのように、そしてこれからまた会えない場合にも備えて娯楽体験を貯蓄するかのように、テンションをどこまでも上げてはしゃぎまわって過ごしたのである。
そして、もう夕方の3時を過ぎるかという頃。輝蘭がそろそろ家に帰らなければならないという時間を見計らって、3人は帰宅のためのバス停に向かった。神酒たちは少し買い過ぎぐらいにショッピングを楽しんでいたので、3人の両手は荷物でいっぱいになっている。
普段からハイテンションで買い物をし過ぎた経験があまり無い輝蘭は、両手の荷物とにらめっこをしながら、自分にもこのような一面があることに驚きながらも、無計画な散財に少し後悔していた。
「ああ〜・・、ミキさんとナミさんに乗せられて、買い過ぎてしまいましたよ!」
「あたしの責任じゃ無いからね〜☆ミキのせいかな?」
「なんであたしのせい?」
「アハハ・・。でもあたし、キララがぬいぐるみ買うところなんて、初めて見た!」
「あたしも!キララ、そういう趣味あったの!?」
「ありませんよ!私もどうして買ってしまったのか、今不思議で不思議で・・。」
「キララ〜。今日からそのブタさんと一緒に寝なよ☆」
「そうそう♪これは命令だ!」
「イヤです。どうして私が・・・。」
「一緒に寝ないと、リコに『キララがブタさんのぬいぐるみ買っていたよ〜。』ってばらすからね〜☆」
「あー!!脅迫!!」
楽しかった時間の余韻は、どこまでも続いていく。
そして3人はバスステーションに付くとベンチに腰を下ろし、取り留めの無い話題で盛り上がりながらバスを待っていたが・・・。
その時3人に、思いも寄らない災難が降りかかることになってしまった。
それは、神酒がベンチの後ろから響いた車の急ブレーキの音に気付いたところから始まった。3人が座るベンチの後ろには、4車線道路からフェニックスガーデンの駐車場に入る進入路があるのだが、おそらくそこで数台の車が接触事故を起こしたのだろう。一台の制御不能となった自動車がスリップを起こし、神酒たちの居るベンチへ突っ込んできたのである。
それは本当に一瞬の事で、3人には逃げ出すどころか、その場に立ち上がる暇さえ与えないような惨事だった。神酒も七海も輝蘭も呆然とし、ただ目の前に迫る巨大な車の残骸に、一切の成す術を持たない状況だったのである。
彼女たちに出来たことは、ただ悲鳴を上げることだけ。しかしその悲鳴と轟音の中に、神酒と輝蘭はある光景を目撃してしまった。
それはおそらく、七海の恐怖への感情の爆発が引き金となったのだろう。
不意に七海の額が輝いたかと思うと、急に3人の目前の地面から無骨で巨大な岩石がせり上がり、迫る車を下から突き飛ばしてしまったのである。そして車はちょうど神酒たち頭の上を越え、彼女たちの背後に落下していった。
「え・・・?」
ほんのわずかな時間に、考えられないような光景が重なり、3人は呆然としてしまった。しかしそれは現実に起きた事で、神酒たちの頭上には小さな車の破片や土が、ぽつぽつと当たってくる。そしてすぐに跳ね飛ばされた車は爆発を起こし、黒い煙を上げ炎上を始めたのである。
この惨事にはすぐに周辺の客たちも気付き、多くの野次馬が集まってきた。幸い神酒たちは突き出した岩石のお陰で無事ではあったが、あまりにも信じられない光景だったために体が硬直したように言う事を聞かない。やがてフェニックスガーデンの職員や警察官たちも集まってきて、神酒たちを安全な場所まで避難させたが、その最中も3人は言葉を発することも出来ず、お互い目を合わせることすらままならない状況だった。
そして、とりあえず気持ちが落ち着くようにとの配慮からショッピングモールの一室に通され、静かな中に3人がポツンと置かれた状況になってからのことだった。ようやく最初の一言が、七海の口から小さく発せられた。
「あたし・・・、いったい何をしたの?」