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Aの種子

 サンディが言う【HAARP】とは、High Frequency Active Research Program(高周波発生オーロラ調査プログラム)と呼ばれているもの。これはアラスカ州ランゲル・エライアス国立公園にアメリカ国防総省と国防高等研究計画局により設立されていると噂されている、核を超えた破壊力を持つと言われている兵器で、超圧縮された高周波を上空の電離層や地層に照射することで、その周辺に大きな影響を与えるものと考えられている。


 HAARPは地震兵器としての効果が有名だが、その他電離層に地球規模のシールドを張ったり、巡航ミサイルの軌道を狂わせる効果もあると考えられていて、その起動時には周辺にオーロラのような怪光が発生する。そのことから地震の際にオーロラ現象が見られた場合には、それがアメリカによる軍事実験ではないかという疑惑も持たれている。


「いずれにせよ代案は無いんだ。もう2日以内に【SEED・A】が地球に到達する。【SEED・A】に巡航ミサイルの類は通用しないことは既知の事実だし、HAARPによる電離層のシールドで遮るしか方法は無い。」

「もし到達してしまったら?」

「おいおいサンディ。弱気で頭が回らなくなったか?そこからの決定権はアメリカ大統領にある。我々は大統領の命に従い、ただ任務を遂行するだけだ。」

「いや、そういうことを言ってるんじゃ無い。大統領の命に従うことは私も同意見だが、私が言いたいのは【SEED・A】が地球に到達した時に、本当に有効な打開策があるかということだ。」


 マーセルはサンディの言葉に絶句してしまった。

 おそらくサンディの言うことには同意しなければならない部分があるのだろう。今まで少し冷静とも言える受け答えをしていた彼が、すっかり返答に困っている。

 するとサンディはマーセルに背中を向けると、自分のデスクの鍵のかかった引き出しのロックを外し、中から1冊の本を取り出した。本はおそらく1世紀以上前の著作物らしく、その表紙の色は茶色く褪せ、閉じられた背表紙にいくつもの修復の跡が見られる。


「マーセル。これは私が手に入れた【A】についての数少ない情報について1919年に書かれたものだ。まさかアメリカの深宇宙探査システムが今のレベルに到達する前から【A】についての情報があったというのは驚きだが、この本の中に書かれた【A】の脅威の度合いは、我々の持つ情報を大きく凌駕しているようにも思われる。残念ながら我々の持つ情報はそうは多くは無いが、それでもその一片の脅威ですら数値化できないほどに巨大だ。それならば今のこの装備で、果たして【SEED・A】を退けることができるだろうか?私には少なくとも、例え最も理想的な回避が行われたとしても、その代償は計り知れないものになるような気がしてならない。」

「君の言う事はもっともだ。私も【A】の存在を知った時には、背筋が凍る思いをしたものだ。その種子である【SEED・A】ですら、きっちり回避できる確証など何も無い。しかし今の我々にはHAARP以外に頼るものが無い以上、それを越える不安を繰り返し訴えても仕方が無いんじゃ無いか?現に最もその存在について詳しく書かれているはずのネクロノミコンにさえも、【A】に関しての情報はほとんど無いようだし。」

「いや、そのことなんだが・・・。」


 するとサンディはふっとマーセルの顔を見ると、先ほどまでの心配に固まったような表情を崩し、少し奇妙な含みの意をにじませた。そこには何かマーセルの知らない秘密があるように思え、彼は固唾を呑むようにサンディの目を凝視し、次の言葉を待った。


「マーセル。以前に私の父のジェームズが暴走を起こした際に、その解決に関与した人物の事を知っているか?」

「ああ。確認は取れてはいないが、君の亡くなった妹のロイド・シーナ・バークナー准将が、なんらかの方法を取ってハスターの降臨を回避したという話だったが。」

「うむ。シーナが取った方法は、かつて日本で【A】と同種の深宇宙の異界生物を封じることに長けた家系の子孫の能力を借りて、ハスターの降臨を退けたということだったらしい。」

「家系?」

「日本語では『寵』と呼ばれる陰陽師の子孫の血筋という所まではシーナから聞いた。」

「それで?」

「いや、そこから先の情報は持ってはいない。」

「なんだ。結局どうにもならないじゃないか。」

「いや、私が言いたいのはな・・・。」


 サンディは傍にあった白地図を引き寄せると、その中に赤いバツ印で示された点を指した。


「【SEED・A】の落下予測ポイントは、確か東経130度〜140度付近。北緯30度〜34度付近ということだったな。」

「ああ。予測落下ポイントはもっと正確に出ているはずだが、資料を寄せるか?」

「いや。私は【SEED・A】が日本に落下する可能性があるということを言いたかっただけだ。」

「言われてみれば、そのようだな。」


「なあマーセル。考えてみてくれ。以前のウォーカーフィールド事件。そして今回の【SEED・A】の接近。いや、情報としては多くは無いが、それでも深宇宙の異界生物【グレート・オルド・ワン】についての事件には日本人が絡んでいることが多すぎる。それも一部の日本人だけだ。もしこれが何かの運命なのだとしたら、もう我々がどうあがこうとも、結局結末は決まっているんじゃないか?」


 そしてサンディはそこで言葉をつぐみ、先ほどまで手にしていた本をデスクの上に置いた。

 本の表紙には粗末な文字で、『Azathoth and Other Horrors』(アザトースとその他の恐怖)と書かれていた。


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