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第1話 という夢を見たんだ

 「次で最後の封印か・・・」


 彼女の中から感じていた邪悪なる力は徐々にではあるが薄まっていき、もう殆ど感じることもない。時折ではあるが彼女も寝言のような小さな声を発するようになり、いつ目覚めてもおかしくないような状態だ。

 この旅ももうすぐ終わる、そう思って次の目的地へ旅立とうとしたところで、俺は倒れてしまった。

 俺を心配してくれる仲間達に、邪神の封印後目覚めるであろう彼女には病死したと伝えるよう頼み、勝手ではあるが 信託と魂のことを仲間へ告げ、封印を引き継いで貰えないか話したところで女神が現れた。

 事情を知った仲間達は女神を責める。そんな仲間達の責めを一身に浴び、今にも泣き出しそうな女神に語りかける。

 

 「本当にアナタはいつも泣きそうな顔だな」


 その一言で仲間達は理解してくれた。俺の性格は面倒だと思う、そんな俺に本当によくしてくれた気のおけない素晴らしい仲間達だ。

 

 女神を責めないでやってくれ。そいつすら俺の中では笑っていて欲しい存在なんだ。


 ボロボロと涙を流しながら全員が笑う。ああ、幸せだな。未だ深く眠っている彼女の笑顔が見れなかったのは残念だが。

 妻も子も許してくれるかな。精一杯頑張ったつもりだが、笑顔で迎えてくれるかな。











 という夢を見た。夢だよな?ここは科学と平和が跋扈する現代だよな?

 えらくリアルな夢だったなぁ。あ、なんか涙の跡が。

 何だったんだ、あれは…前世?まさか、魔王とは言えあんな完璧超人が俺の前世なわけがない。

 そんなことを仰向けになったまま呆けっと考えながら微睡んでいたら、部屋のドアが突然勢いよく開けられた。


 「真央兄様、朝です!」


 おう、朝から元気だな昨日会ったばかりのお嬢さん。


 「ああ、起きてるよ。今から着替えるとこだ」

 「じゃあ下で待ってるね、買い物いっぱいあるんだから早くね」

 「わかったわかった」

 

 そう答えると鼻歌でも歌いそうなターンを決めて、階段を下って行く足音がリズムを奏でる。


 彼女の名前は 法胤 優希 この春から俺の通う学校の中等部へ通うらしい。ちなみに俺は高等部の2年になる。

 我が家の本家がお世話になっている地元名主のお子さんで、とある事情から遠く離れた我が家で暮らしながら学校へ通うそうだ。

  

 らしいとかそうだとか、どこか外聞めいた言い回しなのは俺が事態にまだ順応できていないからだろう。

 地元名主様御一行は昨日突然訪れてきたのだ。いや、俺以外はみんな知っていたようですが。


 ざっくり説明するとだ。我が家の本家様の地元では、未だ戦国や貴族のような風習が根付いており、優希も風習通り許嫁を選定しようと爺様達が動き始めた。

 しかし今のご時世そんな風習に縛られるのは可愛そうだと、両親は優希を遠方へ避難させることにした。

 だが言っても中学生を一人暮らしさせることもできず、寮のある学校を探していたが、そんなのは概ねお嬢様系でとても優希が耐えられそうにない。

 そこで、親友であるうちの親父が登場したそうだ。実際寮では連れ戻される可能性もあるが、我が家なら家同士の柵もありおいそれとはいかない。

 力関係では絶対的に我が家不利だが、一応本家もそこそこの名家ではあるので、詳しい話は知らなかったことにしておけばいい、という結論に至ったそうだ。


 何故俺だけ、こんな大事な話から除け者にされていたかと言うと、3学期終了から部活の合宿で一昨日帰り、そのまま泥のように眠っていたからだ。

 兄と姉はもっと前から知っていたみたいだけど、俺はきっと部活で忙しかったから、うん。

 で、寝ぼけ眼のスウェット姿でご対面。雰囲気云々はともかくとして、とても衝撃的な出会いとして記憶に刻み込まれたことだろう。


 出会いからして最悪なものだと思われた雰囲気の中、そういった事情で彼女がここに住むと説明され、挨拶が終わったところで奴が爆弾を落とした。


 「お父様、ボク、この人と結婚する」

 何言ってだこいつは、いやボクっ娘かよ、確かにショートヘアによく日に焼けた肌は健康優良男児っぽくもああ違う。結婚ってなんだよ。

 「優希、もうお転婆を演じて許嫁がつかないようする心配も低い。これからは女の子らしくして良いんだよ。」

 なんて優しい、そして哀しい笑顔なんだろう、娘に悪い虫がつかないよう男の子のように育てていたのか。苦労してんだな名主とやらも。

 「そうよ優希、ボクなんて男の子みたいにしていたら、婚約者の真央君に嫌われてしまうわよ?」

 「いやいや、うちの愚息には勿体無いお話だ。誠心誠意お嬢さんを幸せにするんだぞ?」


 お前らちょっと待て。


 確かに優希は凄く可愛い。今現在も男の子のような衣服ではあるが、誰が見ても美少女だと答えるだろう。

 だが、俺にその趣味はない。

 「誰も今すぐ結婚しろなんて言ってないわよ?それに今手を出したら…」

 お姉様、やめて。兄も声を殺して涙を流さないで。名主両親は責任さえ、とか口走らないで。


 もう何を言ってもダメだと思い、条件を出して話を終わらせる。

 この家に住む間は、兄と呼ぶこと、一人称はボクのままで今まで通りで生活すること。

 これは、出会ったばかりで恋愛感情もないのだから兄弟として過ごせば恋愛対象として見れなくなるだろうという狙いと、男っぽく育てば俺自身興味をもたないという保険だ。

 優希は笑顔で了承したが、その場の誰もが「こんな特殊な性癖があったなんて…」と自称将来の嫁両親を交えての家族会議が開かれていた。

 一方優希は「お兄ちゃん?真央兄?まーにー?」等とぶつぶつ呪文を唱え始めていた。

 ああ、俺にこんな主人公ご都合展開が起こるとは。





 そんなこんなで、本日学校での準備等を含めて、買い出しと相成ったわけである。

 名主両親は爺様達と戦う準備は出来た!とその日のうちにスキップで帰っていった。嫌な予感しかしない。


 しかしまぁ、なぜか俺は昨日、優希に会ったばかりとは思えない親近感を感じていた。もっと小さい時に会ったことがあるのだろうか。そう言えばあの夢に出てきた勇者に似ているようないないような。


 とりあえずお姫様のご機嫌が傾かないうちに、さっさと出かけるとしますかね。

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