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プロローグ2 それでも世界を救いたい

 亜人を奴隷にすることで繁栄した人類。しかし、亜人を奴隷にするための様々な法呪は影響力を弱め、繁栄のもとに堕落した人類に綻びを繕える者も少なかった。

 結果として亜人を抑える術のない辺境から亜人による反乱が起きた。

 人亜戦争時には種族毎でしか協力しなかった亜人が、一人のリーダーの下で結束し始めた。

 やがて、小さな種火は大きな炎になった。


 亜人の反乱から数年が経ち、勢力図的には五分五分となった頃、人側に勇者が生まれた。


 この世界には、女神がいる。偶像でも象徴でも神話でもなく実在する。目に見える形で神がいるため、その女神こそが唯一神だ。


 勇者として選ばれた少女は、数ある国の中のひとつの小国の貴族として育った。

 少女が5歳になろうとした頃、教会でいつものように祈りを捧げる少女の前に女神が現れた。

 女神は少女にだけ何かを語り、少女がそれに頷くと、勇者として神託を授けたと宣言した。


 小国ではあったが、貴族として何一つ不自由なく育った少女は、大人達の魔王の悪評を信じたまま成長した。

 しかし、少女が12歳になった頃、戦争の激化により少女は勇者として旅発ち、旅をしながら見聞を広める中で魔王の悪評に疑いを持つようになる。


 ひとつは、亜人は殆どが友好的、とまではいかないが一部の種族を除いては戦闘を好まなかった。

 ひとつは、襲って来るのは殆どが魔物と呼ばれる部類で、むしろ亜人種達は少女を救ってくれたこともあった。

 魔王が本当に大人達が云う様に邪悪な存在なら、人類の最終兵器ともいえる自分に何故亜人達はこれほど普通に接してくれるのか。

 

 少女が旅に出て3年、終に少女は魔王と対峙した。

 魔王の拠点で対峙した勇者と魔王の間に過酷な戦闘は無かった。

 むしろ人類側の数々の国同様、いやそれ以上に礼節をもって迎えられ、穏やかな会談となった。

 そこで少女は歴史の真実を知る。

 人類が亜人に対して行ってきた奴隷制度、肥沃な大地を得るための虐殺行為ー。


 少女は人類の様々な汚点、いや一部の人類の醜悪な振る舞いを語る魔王と呼ばれる亜人の声を、もはや顔を上げることもできず、ただ聞いていた。

 普通に考えれば敵方の王と呼ばれる存在の話など、信じるに値しない。

 だが少女が今まで見聞きした世界を説明するには、少女が育った国で教育された話より、魔王の話のほうが説得力があった。


 では、これからどうすれば良いのか。

 女神様はあの日、この世界を救って欲しい、そう言っていた。

 救いとはなんだろう。

 誰かにとっての善は、誰かにとっての悪になりうる。

 誰かにとっての救いは、誰かにとってはこの上ない絶望となるだろう。


 少女がここで魔王の側へくだれば、残された人類はどうなってしまうのだろう。


 魔王は会談の最初から、静かに、淡々と、時に穏やかに語りかけている。

 人はなるべく殺すまい。

 奴隷にもせず、むしろ奴隷を良しとしないのであれば、生活は今まで通り何も変わらない。

 優れた者ならば、国を治めるのも良いだろう。

 唯殺す、唯虐げる、そんなものは俺達の復讐ではないのだ。


 少女が魔王とともにあれば、世界は私を裏切り者と罵るだろう。

 だがそんなことはどうでも良いと少女は思った。

 誰もが笑える世界。

 御伽噺のような理想郷、それはまさに全てにとって救いではないか。

 本当にそんなことが叶うのならば、自分も魔王と呼ばれても良い、そんな風に思った。



 勇者と魔王が手を組んだ結果、戦況は圧倒的だった。

 今まで亜人側は殺戮を良しとしない魔王の指揮の下、徐々に侵略を進めてきた。

 徐々にしか進まない進行に、人類側はまだ戦えると錯覚したが、そもそも亜人側は殺さない前提で戦っていた。

 それでも亜人側は勝利してきたのだ、いくら人類側が戦いを仕掛けても一度も勝てることはなかった。

 戦績でいえば、亜人側から仕掛けた戦いの方が圧倒的に敗戦率が高い。

 戦ったうえで敗者も笑っていなければならない。

 そんな難しい戦いを行ってきた亜人側の最大の戦略的要素に勇者が加わったのだ。

 もはや奴隷制度を強いてまで、戦う必要はない、そう多くの人類が考え始めていた。


 もう間もなく奴隷は全て解放され、全ての生き物が笑う世界が訪れる。

 

 そんな矢先に悪夢は起こった。



 この世界には女神がいる。

 それは人々の、亜人達の信仰によるものだった。

 信仰とは浄い心、慈しみの心。

 その信仰によって女神は顕現していた。


 では、追い詰められた欲に塗れる人類の心にそんな心があったか。

 答えは否だ。醜く権力に縋り、自分達だけの幸せを願う心。

 女神に向けられなくなった心が向かった先-。

 そうして邪神は産声をあげた。

 国一つを飲み込み、邪気を垂れ流し、その地を不毛の大地へ変える産声を。



 人類は奴隷を解放し、全面的に負けを認めた。魔王は一切の条件などつけず、降伏を受け入れた。

 それから人と亜人は互いに協力し、邪神を倒そうとする。

 先頭に立つのはもちろん魔王と勇者で、亜人も人々も二人の姿を追い、親交を深め、より結束していった。

 そんな折に勇者と呼ばれる少女の前に再び女神が訪れる。


 女神は哀しみを押し込めて少女に謝罪する。

 ごめんなさい。

 こんなはずじゃなかったのに。

 

 少女は笑って答えた。

 だって最初からわかっていた事じゃない、女神様は悪くないわ。


 だが女神は涙を浮かべて続ける。

 私の力が弱かったから。

 でも、今貴女が勇者の力を、神託を放棄することを望むのなら最初の契約通りに-。


 女神の言葉を抑えるように少女は笑って話す。

 何度も言うわ、全て納得済みなのよ。

 私に出来る救いなんて、よくわからなかった。

 大丈夫よ、あの日魔王の話を聞いて、それは私の希望になった、私の成すべき救いになった。

 だから何も後悔していない、この救いを世界に届けたいって思ったの。

 このまま契約を続ければどうなるかはきちんと理解しているの。それでも世界を救いたい、なんて思っちゃったのよ。

 だから、ね、大丈夫。女神様も笑ってくれないと私達の希望は叶わないわ。


 女神は何も言えず、それでも少女の為に懸命に笑顔を作る。


 少女は続ける。

 ありがとう、女神様。

 叶うなら、魔王のことをよろしくね。

 あの人も笑っててくれないと、ね。


 女神が少女の前に再び現れた翌年、終に少女は、少女達は邪神を倒した。

 邪神を倒した直後、少女は深い眠りについた。


 深く深く。

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