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君と僕の壊れかけの世界  作者: 蒼井青
第1話 記憶喪失の語り部と祓い手
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3章(5) 始動

三章―Ⅴ

「杏子ちゃんが校門の前にお兄ちゃんがいるって言って、走り出したから追いかけてたんだけど、見失っちゃって…それで、探し回ってたら、中庭から大きな音が聞こえたから――」

 そう泣きながら伊織は震える声であの時のことを話す。

 今は中学校から椎名家のリビングと場所を移している。

 あれから意識を失った浩市を担ぎ、応急処置をするために僕らの家へと場所を移した次第だ。

 道中、僕も伊織も一言も発することなく、家に着き僕の部屋で浩市を寝かせた。

 そのあと、リビングに降り彼女が座っているソファーの正面に僕も腰を据えるとせきを切ったように話し出したのだった。

「一体あれはどういうことなの?浩市さんのことをいきなり殴り飛ばすし、杏子ちゃんはどうしちゃったの?」

 くそっ!どうする。何て言えばいい!

 悪霊に憑りつかれた。なんて荒唐無稽な話を信じさせなければならないことよりも、このままでは妹を此方側に引き込んでしまうという事実に言葉が詰まる。

「ねぇ!お兄ちゃん!」

「詳しいことは話せない。ただ、彼女を助ける最大限の努力はする」

「そんなんじゃ、わかんないよ!」

 妹を巻き込みたくない気持ちが僕の思考に枷をつけ、この場を乗り切るための案が何一つ出てこない。

「取り敢えず、待っててくれ。今はまだそれだけしか言えない」

 空気に耐えれなくなり、堪らず座っていたソファーから立ち上がる。

何か彼女を安心させるようなことを言わなければならないことはわかっているのだが、それからも逃げ出すようにそのまま足をドアへと向ける。

「彼女見つかるよね?戻ってくるよね?だって、なんもしてないんだよ?」

「そこにいたから。そんな理不尽なことが平気で理由になるんだよ」

 言葉が背中に圧し掛かる。

彼女の救いを求める言葉を僕は振り切るように自分の口が自分の物で無いかのように、己が最も嫌悪する言葉を吐き出し、逃げるように外に出た。

「くそっ!僕は僕で救い様がないな」

 外部に出ると救いを求めるためなのか、はたまた単純に苛立ちを抑えるためなのか、自分でもわからない感情のままに力任せに塀を殴る。

勿論、超人と言う訳ではなく、唯の一般人。殴った塀はビクともせず、握り締めたその手からはポタリと血が落ちる。

「落ち着け。今回は私にも落ち度がある」

「いや、僕の責任だ」

 懺悔をする様に壁に額を押付ける。

 あの日、しっかりと除霊できたのか確認しとけば。

 あの時、パニックにならずに、速やかに少女を救う努力をすれば。

 取りとめない後悔が襲う。

―――ただ…

まだ、終われない。

「よぉ、気分はどうよ?」

 突然の呼びかけに後ろを振り向くと、浩市が玄関のドアにもたれ掛かりながらこちらを見ていた。口元に苦笑を浮かべて。

 恥ずかしい所を見られたな。

「起きたのか。体は大丈夫か?」

「まぁ、ぼちぼちだな。伊達に鍛えちゃいねーよ。んで、どうするんだよ?」

 そう言うと首の骨を鳴らしながら僕の目の前までゆっくりと歩いてくる。

そんな浩市の顔を正面から見ることができず、下を向く。

「このままじゃ、終われない…いや、終わらせちゃいけないんだ」

「私もこのままでは少々寝覚めが悪いな」

 目線は地面を向き、吐き出すようにそう応えると背中からも僕の言葉に重ねる様に応えがある。

「んじゃあ、話ははえーや。行くんだろ?あの人のとこ」

「あぁ、ちょっと聞きたいこともあるしな」

「で、近接戦闘が全く使い物になんないお前にちょうどいい、フォワードがここにいるんだけど、お客さんどうよ?」

 その言葉に顔を上げると浩市が自分の拳を僕の顔の前に突き出していた。

子供の様な笑顔を浮かべて。

その拳が、その顔が、『やってやろうぜ』と僕の事を後押ししてくれている気がした。

「ありがとう」

 まったく、僕は良い友人を持ったよ。

 僕はそれだけ言うと彼の拳に自分の拳を軽く打ち付け、その上から照れ臭そうな顔して雪燈が手を重ねる。

「さぁ、リベンジだ」

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