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君と僕の壊れかけの世界  作者: 蒼井青
第1話 記憶喪失の語り部と祓い手
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3章(1) 休日-1

三章―Ⅰ

 携帯のアラームの音が聞こえ、僕は目を開ける。寝惚けながらも音楽を止めようと携帯に手を伸ばそうとした所で動きを止める。

―――というか動けなかった。

「さて、確かに今回は昨日と違って僕から言い出したことだし、仕様がないんだけど…やっぱ、朝から金縛りは正直きついわ!」

 自分の置かれている立場をはっきりと認識したことで目が覚める。目線だけで隣を見るととても幸せそうな寝顔をした雪燈が寝ていた。

 つーか、顔近っ!!

「ほ、ほら起きろよ。朝だぞ。早く起きてこの状況をどうにかしてくれ」

「お腹一杯だー」

「…なんでいつも飯食ってる夢なんだよ。」

 まったく。と苦笑してしまう。

 普段、そんなに良く見ないからあれだけど、こうやって改めて見るとやっぱこいつ綺麗な顔してるよなー。まぁ、性格さえよければ生きてりゃ、モデルとかになれたんじゃないのか。

 『生きてたら』。

「はぁ。馬鹿なこと考えるなよ」

 自分で想像したことを振り切るように呟く。

 彼女の寝顔を見ながら物思いに耽っていると、視界の隅に光るものが入る。なんだ?と思い彼女の口元辺りへと視線を動かす。

それは彼女の口元から伸び、ベッドの上をに広がり、僕の顔のすぐ近くまで来ていた。

「うわっ!よだれ?ヨダレ!?涎!!」

 慌てて頭を動かそうにも動かない。

 ん?この場合、こいつの涎って僕に直接的な被害あるのか?そういえば今まで考えてこなかったけど、直接的な干渉で言えば、こいつと僕ってどのレベルまで存在するんだ?

「って、暢気に考えてる場合じゃない!例え直接的に僕に被害がないとしても、この状況はなんか僕の小さなプライドが許さない!雪燈、頼むから起きてくれ!」

 案外とても重要なことの様な気がするが、取り敢えず目先の問題を解決することを優先し、僕は思考することを放棄し叫んだ。

「うぅん。ほへ?あぁ、良平君お早うございます」

 一度、子供のように目蓋を擦り、目を開けすぐ隣にある僕の顔を見て、満面の笑顔で朝の挨拶をしてくる。もちろん、今も彼女の口元からは涎が絶賛大放出中だ。

「あぁ、お早う。それじゃあ、取り敢えずヨダレ拭け、そして離れろ」

 一瞬、彼女の笑顔を真近に見て、思考が止まりかけるが踏み止まり、切り捨てるように言葉を続ける―――別に照れ隠しとかではない。

その後、彼女の起床と共に僕もベッドから起き、寝巻きからラフな部屋着へと着替え、リビングへと降りる。カーテンを開け、朝の日差しを室内へと招き入れる。

「伊織はもう起きているのか」

 いつもは僕の方が起きるのは早いのだが、テーブルの上にある飲みかけのコップと、流しに溜まった食器類から彼女がもう起きていることがわかる。どうやら今朝は雪燈のおかげで少し遅い起床になったらしい。

 自分も冷蔵庫から飲み物を取り出し、コップに注ぎ口元へと運ぶ。

「さて、折角の休日だし、お客さんも来ることだし、今日は家の大掃除と洒落込みますか」

 飲み終えた空のコップを流しに置き、一度体を伸ばし、今日の予定を考える。

「まずは掃除機をかけて、窓も拭いて、風呂掃除とトイレ掃除もしときたいな…おっと、先に洗濯機を回しておかなきゃ」

「良平君って、基本的に家事好きだよね」

 段取りを口にしていると呆れたような声で雪燈がつっこむ。

「別に好きでやってるわけじゃないよ。それに最初からやってた訳じゃないさ。どこかにいった馬鹿両親の不在中、妹はそーゆうの全くむいてなかったし、僕がやるしかなかったってだけだよ」

 別に主夫になる気はさらさら無いし、やってる内にいつの間にか当たり前になってしまっただけだ。ちゃんと働いて家庭を支える大黒柱になることが僕の人生計画だ…といっても何に成りたいとかはまだ漠然としてるんだよなー。

 久世探偵事務所で働く未来だけはあり得ないな。

ま、いっか。と思考を止め、大掃除を始めるため脱衣所に向かうと、ちょうど伊織が慌てて下に降りて来た。

「あ、おにーちゃん!今日、昼過ぎくらいに友達来るから宜しくね!それで、その前にその子と今から駅で待ち合わせしてて、ちょっと買い物してから、そのまま一緒に帰ってくるから!」

 僕を見るなり、早口で捲くし立て、そのままの勢いで玄関に向かい、勢い良く外に飛び出して行った。

「はいはい。まったく忙しいこって。しかし、妹の友達が来るからって、僕が何かするわけじゃないし…。まぁ、おやつの一つくらいは作っといてやるか。何がいいかなぁー。久しぶりにクッキーでも焼いてみるか」

「本当に仕方なくやってんのかなぁー」

 後ろからなんかつっこみが入ったような気がするが、気にしない気にしない。

その後、サクサクと掃除を進めていき(途中、暇すぎる!放置するな!構って!と雪燈の叫びを無視しつつ)一段落ついた所でキッチンに戻りクッキーの下拵えをしていると、玄関からただいまー。と妹の声が聞こえてきた。続いてトタトタと廊下の方から足音が聞こえ、リビングの扉を開け、妹が入ってきた。

「いやー、今日も外は暑いね!部屋の中は涼しくて極楽だよー」

 帰ってくるなり騒がしい奴だな。

「お、お邪魔します」

 部屋に入り、そのままドカッとソファーに飛び込んだ妹に呆れていると、入り口の方から小さな声がしたので、そちらを見ると伊織と同じくらい長い真っ黒な髪をツインテールにした背の小さな少女がリビングに恐る恐る入ってくる所だった。

 この子が伊織の友達か。お転婆なあいつによくこんな大人しそうな子が友達になったな。まぁ、なんだ。兄として最初が肝心だよな、うん。

「いらっしゃい。暑い中良く来たね。まぁ、何も無いところだけど寛いでって」

 変なところで兄として、年上としての威厳―――まぁ単純に良い格好を見せたいだけなんだけど。そんなもんを見せようと挨拶をすると、ソファーでだらしない格好をしてる妹を見ていた少女はびくっと反応し、こちらを見ると慌てて頭を下げる。 

「お、お久しぶりです!」

「うわぁー、お兄ちゃんキャラ作ってる」

 とりあえず、妹の妄言は置いといて、少女のその第一声に僕の取れたリアクションは極めて単純だった。

「へ?」

 唯のアホ面を晒すだけだった。

 最初の爽やかスマイルが台無しだ!

「ど、どこの女です!?」

 何でお前も食い付く!ちょっと頭混乱しそうだから黙っててくれ!

「あれ?前にどっかであったっけ?」

「あ…すみません!いきなりそんなこと言われたらわからないですよね。それに私のことなんか覚えてないですよね」

「うわぁー、お兄ちゃんひっどーい」

 一瞬泣きそうな顔になった彼女はもう一度頭を下げる。

ま、まずい!中学生を泣かしてしまう!思い出せ!妹の友達ということは僕が中学時代に会ったってことか?くそっ!こんな可愛い後輩と知り合っているのなら、この僕が忘れるわけないのに!記憶にないぞ!

「お兄ちゃん、卒業式のこと覚えてないの?」

「え?卒業式?」

「杏子ちゃんに第二ボタンあげたじゃん。本当に覚えてないの?」

「な、な、そんな簡単にボタンをあげたんですか!?」

 あんなのただのボタンじゃん。

 焦りながらも頭の中はフルスピードで回転する。

なるほど、覚えてないのも当たり前だ。思い出せないようになってるのだから。“あの日”にそんなことがあったのか…・。しかし、このままだと最悪、僕が記憶喪失であることがばれてしまう。

怪訝な顔をした妹と顔を真っ赤にして俯いてしまった少女を交互に見て、この状況をいかに切り抜けるか考える。

「あぁ、そうだそうだ。ごめん!その後みんなに揉みくちゃにされてボタンを全部捕られたり、色々とあったからちょっと忘れてたけど、ちゃんと思い出したよ。うん。久しぶり、杏子ちゃん」

 決まった。我ながら完璧な演技だ、うん。

記憶を無くし雪燈との協同生活が始まったたあと、浩市に問いただされ、其の時に卒業式のあの日のことはあいつから聞いていたんだけど―――あの野郎!肝心なとこだけ伝えてねーぞ!絶対に故意的に話さなかったな!

とまたまた意味の無い思考に陥っていると今度は彼女の方が呆けた顔で此方を見た。

「え?」

 あれ?なんか可笑しかったか?ま、まさかあの野郎、全くデタラメなことを僕に話したのか!?

「うわぁ、卒業式の時は五和さんって上の名前で、しかもさん付けで呼んでたのに、なんか慣れ慣れしー」

 そ、そういうことか。確かに普通に考えたら、僕の性格で初めて話すであろう女の子に対して、いきなり下の名前で呼ぶはずがないな。

 まぁ、これで彼女のフルネームがわかったことだし、結果オーライってことでいいか。

「あ、ごめん!つい、下の名前で呼んじゃった。嫌だよな、そんなに知らない男から下の名前で呼ばれるの」

「い、嫌じゃないです!そっちでお願いします!」

 俯き加減だった顔を凄い勢いでこちらに向ける。

 この子大きな声出せるじゃん。

「そ、そっか。じゃあ、今度こそ久しぶり杏子ちゃん」

「お、お久しぶりです」

 うまく話が纏まったと思い、再度彼女に再会の言葉を掛けるが、またまた俯き小さな声の返事となってしまった。

 うーん。最近の中学生と話すのはなんとも難しいなぁ。と自分も去年まで中学生だったという事実を棚に上げて物思いに耽っていると、彼女の口元から呪文のようにブツブツと言葉が紡ぎ出されているのが微かに聞こえてくる。

 な、なんだ?

 さらに耳を澄ませる。

「杏子ちゃん、杏子ちゃん。うふふふ。杏子ちゃん、杏子ちゃん…」

軽くトリップしている少女の隣で妹が「おーい。もしもーし。戻ってこーい」と呼び掛けている。

 そ、そんなに気に入ったのかなぁ…別に伊織も同じ呼び方なのに―――ま、いっか。

でもなんかどことなく雪燈に雰囲気が似ているなぁ…。もちろん昼間のだけど。

「りょ、良平君!この子敵だよ!敵!」

 二人の光景を見ながら、不意にそんなことを思っていると当の本人が上擦った声で喚き出した。

「なわけ無いだろ。どこからも霊的なものは感じないぞ」

「そうじゃなくて!うー、そーゆうのじゃないんだけど…。と、とにかく敵なんだよ!私の!だからこの子には気をつけて!」

 はい?

 こんな良い子そうな子を捕まえて“敵”なんて呼ぶとか、全く意味がわからんわ。

取り敢えず、浩市の馬鹿を殴ることだけは決まったけどね。

さてさて、連休も終わりですが休みもなくぶっ続けで馬車馬の如く、働かされたので、少し旅にでようと思います。

なので、投稿が少しあくかもしれません。

宜しくお願いします。

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