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君と僕の壊れかけの世界  作者: 蒼井青
第1話 記憶喪失の語り部と祓い手
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2章(5) 報告-1

二章―Ⅴ

街が昼の顔から夜の顔へと変化した頃、通いなれた廃ビルへと辿り着く。その足取りは重たい。何故かと言うと―――

「さて、行きますかね」

「私はどうもアイツが好かんのでな、さっさと終わらして帰るぞ」

「はいはい。別に事後報告だけだし、すぐに終わるだろう」

 駅前で時間を潰し、雪燈が入れ替わった所で事務所に向かいだしたのだが、その道なりで、散々久世さんへの愚痴を聞かされたからだ。

 何故だかわからないけど、久世さんと夜の時の雪燈は仲が悪い。まぁ、一方的に雪燈のほうが嫌っているという表現が正しいのだけれども、今回みたいな時はやはり実際に戦った、今の時間の彼女でなければ意味がない。

 階段を上り、錆びれたドアをノックも無しに開ける。

「やぁ、いらっしゃい。久しぶりだね」

 いつもの様に毎度の如く、自称探偵久世暁良は椅子に深く身体を預け、煙草を口に咥えながら、第一印象としては最悪であろうにやけ面で僕を迎えた。

 この人いつも僕が来る時は必ず事務所にいるよな。仕事してないんじゃないのか。

まぁ、この人の連絡先なんて知らないから、居てくれなきゃ困るのは僕なんだけどね。

「久しぶりって、一昨日会ったばかりじゃないですか」

「いやいや、男子三日会わざれば刮目して見よって言葉もあるじゃないか」

「だから、最後に会ったのは一昨日ですって。三日前じゃないでしょ!」

「あれ?そうだっけ?」

 まったくこの人との会話は本当に疲れるよ。

「まぁ、細かいことはいいじゃないか。それで今日はどうしたんだい?」

「この前の依頼の事後報告に来たんですよ」

「あぁ、君の母校の校長からの依頼だっけ?なんだ、もう解決したのかい?」

「えぇ、ちょうど一昨日ここを出た後、悪霊に憑かれた少女と偶然鉢合わせになったんですよ…なんだって、別に早く解決して悪いことはないでしょう?」

「それはそれは。本当に偶然なのかな。全く君は霊達から見たらご馳走にしか見えないんじゃないかい?」

「気味悪いこと言わないで―――」

「これは私のだ」

 僕の言葉を遮り、きっぱりとした口調で空気をぶった切った相手は、僕の隣でとても冷たい視線で久世さんのことを見ていた―――いや、これでもかってくらいに睨んでいた。

だから何故にそんな喧嘩腰なんだよ!

「あ、あぁ。それは失言だったね。ごめんごめん。椎名君は雪燈ちゃんの物だったね」

「おい!僕の意見とかはないのか!というか人を物みたいに言うな!」

 いきなりの彼女の言葉に流石の久世さんも驚いたのか一瞬言葉に詰まるが、すぐに僕の人権を無視した発言をしだした。

「まったく。昼の雪燈はともかく今のお前は僕のことなんだと思ってるんだ。もう少し僕に優しさというものをだな―――」

「お前ごときにくれる優しさなど持ち合わせていないわ!」

 ぐっ!こいつやっぱ僕のこと嫌いなんじゃないのか。扱いが人以下な気がするぞ。

「やっぱり昼と夜とでギャップが激しすぎるぞ、お前!はぁー。もう、いいや。二日間ぶっ倒れるは朝から金縛りに会うわ、最近の僕に対して世界は冷たいよ」

「金縛り?」

「あぁ、僕が意識を失って倒れてる間ずっと心配してくれて傍にいてくれたらしいんだけど、疲れちゃって、昨日の夜そのまま僕の上で寝ちゃったらしく、そのまま朝起きたら金縛りになってたんですよ」

 昼の方が僕に対して優しいよなーと一人感傷に耽っていると久世さんが急に笑い出した。

「どうしたんですか?」

「いやー。ごめん。でも、椎名君気づいてないの?」

「何を?」

「夜中に寝て朝起きたらその状態だったってことは今の雪燈ちゃんの人格で君の上に寝たってことになるのに。いやー、なんだよ雪燈ちゃんも可愛いとこあるじゃない」

「ちょっと待てくださいよ。つまりどうゆう―――」

「貴様!その口を閉じろ!二度と喋られない様にするぞ!」

「うわ、いきなりどうした!落ち着け雪燈!勝手に僕の身体を使うな!」

 久世さんの言葉に急に雪燈が慌てだし、勝手に僕に憑依し、久世さんに向かって襲い掛かった―――つーか、霊圧が一昨日の比じゃないぞ!雪燈のやつマジで久世さんを殺す気だ!

「だからー、昼の雪燈ちゃんも夜の雪燈ちゃんも同じ存在なんだよ。二重人格に近いのかな。だから、表面的な性格が異なっていたとしても根っ子の部分では同じなんだよ。ということは―――」

「うわぁあぁぁーー!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!」

 久世さんも器用に僕(彼女)の腕から右へ左へと逃げながら話を続ける。それとともに何故か雪燈の怒りもヒートアップし僕の身体を動かす速度を上げる。たまに久世さんの張る障壁とぶつかる感触が僕の腕に伝わる。

 や、やばい!僕の腕が壊れる!

「馬鹿!これ以上は僕の身体が限界だ!いったいなんなんだよ!さっきから意味わからないし、なんの嫌がらせだよ、これ!」

 軋み出す身体に限界を感じ、投げやりに叫ぶ。すると嘘みたいにピタッと自分の身体が止まる。

「と、止まった」

 そのまま床に座り込み、激しく乱れた息を整える。そして、周りを見ると僕から憑依を解いた雪燈と先ほどまで人間離れした動きを見せていた久世さんがこちらを見ていた。

どちらも呆れた視線で。

あれ?僕なんか間違ったこと言ったのか。

「はぁー。何というか―――今、ちょっと雪燈ちゃんのこと同情しちゃったよ」

「それ以上何も言うな」

 先ほどまで殺し合い―――雪燈の一方的なものだったけど。を繰り広げていたというのに何故か久世さんが彼女のことを慰めだしていた。

まったくなんなんだ?


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