コンビニの神様 〜静かな巡回〜
この物語は、魔法の話ではありません。
夜の街にひっそりと光るコンビニの灯りのように、
小さな言葉や思いが、人の心をそっと支える瞬間を描いています。
深夜二時の静けさの中で、誰かが誰かを思いやること。
それは大きな奇跡ではなくても、確かに意味のあることです。
今日も、深夜のコンビニには、静かな光が守られています。
深夜二時。
外は雨に濡れたアスファルトが、街灯に淡く反射していた。
街は静まり返り、時折通る車のライトだけが暗闇を切り裂く。
店内の蛍光灯の光は、そんな夜を柔らかく包み込む。
俺はレジに立ち、手元の百円玉を整えながら、ただ時間をやり過ごしていた。
あの子が来なくなってから、心にぽっかり穴が空いたままだ。
百円玉を並べることだけが、少しでも秩序を取り戻す行為だった。
あの夜のこと、手術を終えて笑ったあの子の顔――
思い出すたびに胸がぎゅっと痛む。
ウィン、と自動ドアが開く。
警察官だった。深夜巡回の途中らしい。
制服は整っていて、光るバッジや帽子が目に入る。
でも背中には、昼間とは違う疲労と孤独が滲んでいた。
「こんばんは。夜回りで立ち寄りました」
落ち着いた声だったが、どこか重みがあった。
俺の胸に小さな緊張が走る。
夜中に一人で立つ自分と、あの子のことを思い出すからだ。
警察官は店内を軽く見回し、レジ前に立った。
視線は百円玉や商品棚、床の濡れた痕まで、注意深く観察している。
その視線に、俺は少し心を許す。
誰かに見られるだけで、孤独が少し薄れる瞬間がある。
「大丈夫ですか? 疲れていませんか」
その一言に、胸がぎゅっと締め付けられる。
疲れているのは体だけじゃない。
心もずっと重かったことを、改めて思い知らされる。
「……はい。大丈夫です」
正直、半分は本当、半分はごまかしだ。
でも、その目線に小さな安堵を感じる。
警察官もまた、夜の街を巡回する孤独を抱えているのだろう。
人々を守る仕事は感謝されることも少なく、自分の心の疲れと向き合う時間ばかりだ。
しばらくの沈黙のあと、警察官は小さく笑った。
その笑顔は、守る側の優しさと、夜を共に歩む覚悟が混ざっていた。
そして、静かに言う。
「こんな夜でも、灯りを守っている人がいるんですね」
その一言で、胸の奥がじんわりと温かくなる。
百円玉や蛍光灯の光、レジ周りの小さな秩序――
それらは奇跡じゃない。
でも、誰かのために立つことは、確かに意味がある。
俺は店内を見回しながら、過去の夜を思い返す。
あの子の笑顔、手術後の小さな安心、
店に置かれた百円玉や、一言の「大丈夫」が人の心を支えることを思い出す。
警察官は、再び視線を俺に向け、こう言った。
「どんなに小さくても、守ることには意味があります」
その言葉は、深夜の静寂の中で、確かに響いた。
俺も少し微笑む。
失ったものの痛みは消えない。
でも、誰かと心を交わす瞬間は、静かに光を放つ。
やがて警察官は去っていく。
その背中に、疲労だけでなく優しさが滲んでいたことを俺は見逃さなかった。
店内は再び静かになる。
百円玉の光は、小さな希望の象徴として揺れ続ける。
救いは永遠ではない。
別れは必ず来る。
でも、巡ることはある。
小さな言葉、静かな心遣い、灯りの光――
それらは、確かに次の夜へつながっていく。
深夜二時のコンビニは今日も静かに光を守る。
誰かの夜に、ほんの少しだけ希望を届けながら。
救いは永遠ではありません。
別れは必ず来ます。
それでも、小さな言葉や行動が、誰かの夜を少しだけ変えることがあります。
百円玉の光や、誰かの優しい一言のように、
静かに巡るものは、確かに人の心に届きます。
深夜二時のコンビニで交わされる、ほんの小さなやり取りも、
誰かの夜にそっと希望を残しています。




