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コンビニの神様  作者: なつめ


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5/12

コンビニの神様 〜帰ってきた言葉〜

人は、誰かを支えるとき、

自分は大丈夫だと思い込もうとします。


強くなければいけない。

弱さを見せてはいけない。


そんなふうに、

知らないうちに自分を後回しにしてしまう夜があります。


でも、どんな人にも、

レジの向こう側に立つ時間があります。


この物語は、

神様が奇跡を起こす話ではありません。


言葉を渡してきた人が、

初めてその言葉を受け取る夜の話です。


深夜二時。

静かな光の下で、

今夜は立場が、少しだけ入れ替わります。


深夜二時。


 いつもと同じ光。

 同じ冷蔵庫の音。

 同じ、何も起きない時間。


 けれど今夜は、少しだけ違った。


 レジの中に並ぶ百円玉を、俺は取り出して机に置く。


 祈り。

 謝罪。

 延期。

 覚悟。


 いつの間にか、増えている。


 神様なんていない。


 そう言い続けてきたのに。


「……なにやってんだろ」


 小さく笑う。


 深夜勤務も三年目。


 昼の世界から少し離れたまま、時間だけが進んだ。


 やりたかったことは、あった。


 なりたかった自分も、たぶん。


 でも今は、レジの向こう側だ。


 ウィン、とドアが開く。


 驚くほど明るい声が響く。


「こんばんは、神様」


 あの女の子だった。


 少し背が伸びている。


「こんな時間にどうした」


「眠れなくて」


 手には、宿題らしいノート。


「お父さん、今はちゃんと働いてるよ」


「そっか」


「でもね」


 少しだけ声が落ちる。


「今度は、わたしが怖いの」


 俺は黙る。


「友達とうまくいかなくて。嫌われてるかもって思うと、学校行きたくなくなる」


 深夜二時は、子どもも正直だ。


「神様、どうしたらいい?」


 その問いに、即答できない。


 今までみたいに、うまいことは言えなかった。


「俺もな」


 気づけば言っていた。


「最近、怖い」


「神様も?」


「うん」


 女の子は、真顔で聞く。


「このまま、ここで終わるんじゃないかって」


 コンビニの光は、夜を照らす。

 でも、自分の先までは照らしてくれない。


「でも、やめないんでしょ?」


 女の子が言う。


「え」


「前に言ってたもん。選んだ道を、後悔より長く続けるって」


 言った。


 確かに言った。


 俺は、笑う。


「覚えてるのか」


「神様の言葉だもん」


 レジの上に、百円玉が置かれる。


「今日は、わたしのじゃないよ」


「え?」


「神様の分」


 意味が分からず、固まる。


「怖いって言ったから」


 そう言って、彼女は続ける。


「大丈夫」


 たった一言。


 何度も他人に渡してきた言葉。


 それが、胸の奥に落ちる。


「神様も、間違えていいんだよ」


 ウィン、とドアが開く。


 彼女は振り返る。


「また来るね」


 店内は、静かになる。


 レジの上には、新しい百円玉。


 今度は、俺の分。


 神様なんていない。


 でも。


 言葉は、巡る。


 渡したはずの「大丈夫」が、

 形を変えて戻ってくる。


 深夜二時のコンビニは、

 今日も世界から少しだけ離れている。


 それでも。


 レジの向こうの夜も、

 ちゃんと、誰かに支えられている。


 俺は百円玉を引き出しに戻す。


 朝は、まだ遠い。


 でも。


 悪くない。


「大丈夫」と言える人ほど、

本当は誰かにそう言ってほしいのかもしれません。


支える側と、支えられる側。

励ます人と、励まされる人。


その境界は、思っているより曖昧です。


あなたは今、どちらの側に立っていますか。


そして、

誰かに「大丈夫」を渡したあと、

自分には何と言っていますか。


言葉は、巡ります。


優しさも、不安も、覚悟も。


もし、あなたが誰かを支えているのなら、

どうか忘れないでください。


あなたもまた、

支えられていい存在だということを。


深夜二時のコンビニは、

今日も静かに灯っています。


その光は、

外に向いているようでいて、

もしかしたら、あなたの内側を照らしているのかもしれません。


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― 新着の感想 ―
面白い試みの作品ですね。 神様という言葉を印象付けながらも日常を切り取った、不思議な雰囲気のある短編集。 相談しに来る人達の言葉や彼によって起こされた救いが、一つの線になる日が楽しみになります。
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