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コンビニの神様  作者: なつめ


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3/12

コンビニの神様 〜誰にも言えない願い〜

夜は、ときどき長すぎる。


昼間はうまくやれているふりができても、

深夜二時になると、心の奥にしまっていた言葉が顔を出す。


「消えたい」


それは、声に出せない願いだ。

誰にも言えず、どこにも置けず、ただ胸の中で重くなる。


この物語は、誰かを救う話ではありません。


ただ、夜を越えるための話です。


消えてしまうのではなく、

ほんの一日だけ、延期するための。


深夜二時のコンビニは、

今日も静かに灯りをつけています。


深夜二時のコンビニは、今日も静かだ。


 冷蔵庫の低い音だけが、店内に流れている。


 ウィン、と自動ドアが開く。


 長いコートの女性が入ってくる。ほとんど毎晩来る人だ。決まってカフェオレと菓子パンを一つ。無言で会計をして、無言で帰る。


 その夜、袋を差し出したとき、彼女が口を開いた。


「……ここ、神様いるんですよね」


 久しぶりに聞く言葉だった。


「いませんよ」


 いつもの答え。


 彼女は小さく笑う。


「じゃあ、聞くだけ」


 少しの沈黙。


「消えたいって思うの、だめですか」


 手が止まった。


 今まで、いろんな願いを預かってきた。命が助かりますように。謝れますように。でもこれは、種類が違う。


 レジの引き出しの百円玉が、急に軽く見えた。


「……分からないです」


 気づけば、そう言っていた。


「だめとも、いいとも、言えません」


 神様なら、迷わないはずなのに。


 彼女は目を伏せた。


「やっぱり、いないんですね」


「いないです」


 少し間を置いて、俺は続けた。


「俺も、思ったことあります」


 彼女の視線が上がる。


「消えたいって」


 夜勤ばかりの生活。何者にもなれなかった時間。連絡を取らなくなった友達。諦めた夢。


「いなくなっても、誰も困らないかなって」


 声がわずかに震える。


 神様が弱音を吐いている。


「でも、コンビニは開けてるんです」


「……なんで」


「誰かが来るかもしれないから」


 自分でも、うまく説明できない。


「消えたいって思うの、だめじゃないです」


 ゆっくり言う。


「でも、消えなくていい理由が、今ここにあります」


「理由?」


「あなたが、今ここに立ってること」


 彼女の目に、光がにじむ。


「消えたい人は、神様なんて探しに来ません」


 静かな涙が落ちた。


 俺は何もできない。ただレジの向こうに立っているだけだ。


「今日だけでいいです」


「……」


「今日だけ、延期にしませんか」


 長い沈黙。


 やがて彼女は、ポケットから百円玉を取り出した。


 カチリ、と音がする。


「……明日も営業してますか」


「二十四時間」


「じゃあ、明日も来ます」


 ウィン、とドアが開く。夜風が一瞬だけ入り込む。


 レジの引き出しには、四枚目の百円玉。


 神様なんていない。


 それでも。


 消えたい夜を、一日だけ延ばすことはできる。


 深夜二時のコンビニは、今夜も灯りを消さない。


「消えたい」と思う気持ちは、

弱さだけではないのかもしれません。


それだけ苦しかった証拠であり、

それでも誰かに聞いてほしかった証でもある。


この物語の神様は、奇跡を起こしません。

正解も持っていません。


ただ、否定せずに立ち続けるだけです。


もしかすると、本当に必要なのは

答えではなく、そこに誰かがいることなのかもしれません。


もしあなたが長い夜の途中にいるなら、

どうか今日だけは延期してみてください。


コンビニの灯りのように、

朝は、思っているよりもちゃんと来ます。




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