表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コンビニの神様  作者: なつめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/12

コンビニの神様 〜神様になれなかった男〜

これは、奇跡の話ではありません。


誰かの願いが叶う瞬間よりも、

叶わなかった夜のほうが、

人の心に長く残ることがあります。


神様と呼ばれた男は、

本当は自分のことすら救えなかった人間です。


それでも、夜のコンビニに立ち続けています。


なぜなのか。


その理由を、今回は書きました。


静かな話です。

でも、もしあなたの中にも

“あの夜”があるのなら、

きっとどこかで重なると思います。


 神様、と呼ばれるたびに思う。


 俺は、自分すら救えなかった。


 


 深夜二時。


 冷蔵ケースの低い音が続く。


 レジ横の小さな皿には、百円玉が並んでいる。


 最初は、あの女の子だった。


「お父さんが助かりますように」


 不安でいっぱいの目。


 俺は言った。


「絶対大丈夫」


 根拠なんてない。


 あのとき俺は、まだ自分のほうが壊れかけていた。


 


 昼の世界で働いていた頃。


 期待されることが誇りだった。


 弱音を吐くのは甘えだと思っていた。


「大丈夫です」


 それが口癖だった。


 本当は、夜眠れなくなっていた。


 朝になるのが怖くなっていた。


 胸が痛くても、笑った。


 


 壊れたのは、静かな会議室だった。


 立ち上がろうとして、足が動かなかった。


 息が吸えなくなった。


 誰かが言った。


「責任感が足りない」


 


 違う。


 背負いすぎて、潰れただけだ。


 


 でも、説明できなかった。


 会社を辞めた。


 家族の前で、情けなかった。


 自分が空っぽになった気がした。


 


 あの夜。


 ひとりで部屋に座っていた。


 電気もつけずに。


 消えたいと思った。


 本気で。


 


 でも何もできなかった。


 怖かった。


 死ぬ勇気もなかった。


 


 あれが、俺の“救えなかった夜”だ。


 あのとき俺は、自分に何も言えなかった。


「大丈夫」も言えなかった。


 


 夜勤を選んだのは、逃げだった。


 昼の光が怖かった。


 誰にも期待されない場所に行きたかった。


 


 それなのに。


 あの女の子が来た。


 百円玉を置いて、願った。


 


 俺は言った。


「絶対大丈夫」


 


 自分には言えなかった言葉を、

 他人には言えた。


 


 数日後、父親は助かった。


 あの子は笑った。


 俺は、少しだけ泣きそうになった。


 


 それから百円玉は増えた。



 謝りたい男。


「娘に、ちゃんと謝れる勇気、くれない?」


 


 進路に迷う高校生。


 「間違えない選択、ください」




 大丈夫と言ってくれた女の子。


 「神様も、間違えていいんだよ」




 家出してきた少女。


「全部、自分が悪いんですか」


 


 震える母親。


「夫が手術なんです」


 


 ふざけ半分の若者。


「フォロワー増えますように」


 


 いろんな夜があった。


 でも、どの夜も共通していた。


 みんな、誰かに「大丈夫」と言ってほしかっただけだ。


 


 俺は神様じゃない。


 願いを叶える力なんてない。


 医者でもない。


 カウンセラーでもない。


 


 それでも、ここに立っている。


 


 あの夜、自分に何も言えなかったから。


 


 消えたいと思った自分に、

 誰も「大丈夫」と言ってくれなかったから。


 


 百円玉を見るたびに思う。


 これは祈りじゃない。


 “助けて”だ。


 


 俺は今も怖い。


 また壊れるかもしれない。


 踏み込みすぎて潰れるかもしれない。


 


 でも。


 あの暗い部屋にいた自分を思い出す。


 あのとき、誰かが一言くれたら、

 少し違ったかもしれない。


 


 だから今、百円玉が置かれたら言う。


「どうした」


 


 完璧じゃない。


 救える保証もない。


 


 それでも。


 


 深夜二時。


 ウィン、とドアが開く。


 


 俺はレジから一歩出る。


 


 神様じゃない。


 なれなかった。


 

 でも、壊れた夜の続きを

 ここで生きている。


 

 誰かの夜が、あの部屋みたいに

 真っ暗にならないように。


 

 それだけでいい。

人は、壊れたことをなかったことにはできません。


消えたいと思った夜も、

声が出なかった瞬間も、

ちゃんと残っています。


でも不思議なことに、

その傷があるからこそ、

誰かの痛みに気づけることもある。


神様にはなれなくてもいい。


完璧じゃなくていい。


救えなかった過去があっても、

それでも今日、誰かの前に立てたなら。


それはもう、

逃げ続けた夜の続きではないのかもしれません。


この物語が、

あなたの“壊れた夜”を責めるものではなく、

そっと隣に置いておけるものになれたなら。


それだけで、十分です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ