コンビニの神様
コンビニは、何でも売っている場所だ。
食べ物も、飲み物も、生活用品も。
たいていのものは、棚に並んでいる。
でも、売っていないものもある。
安心とか、希望とか、
「大丈夫」という確証のない言葉とか。
それでもきっと、
誰かがどうしようもなく不安な夜、
コンビニの灯りは少しだけ神様に近い。
これは、
神様になれなかった誰かの話であり、
それでも誰かにとっては神様だったかもしれない、
そんな夜の物語です。
コンビニの神様
深夜二時のコンビニは、世界から切り離されたみたいに静かだ。
俺はレジに立ちながら、何も起きない時間をやり過ごしていた。
ウィン、と自動ドアが開く。
入ってきたのは、パジャマ姿の小さな女の子だった。
「いらっしゃいませ」
条件反射で言う。
女の子はまっすぐ俺を見て言った。
「神様、いますか?」
「……は?」
「このコンビニ、神様いるんでしょ」
いない。少なくとも時給千二百円で雇われている神様は聞いたことがない。
「いないよ」
「うそ。ここ、願いが叶う場所だって聞いたもん」
困った客だなと思いながら、俺は棚を整えるふりをする。
「何を叶えたいんだよ」
女の子は少し考えてから言った。
「お父さんを、元気にしてください」
その声は、妙に真っ直ぐだった。
「病院にいるの。明日、手術なの」
俺は言葉を失う。
「神様いないなら、代わりでいいです」
「代わり?」
「お兄さん、お願い」
そう言って、百円玉を一枚、レジに置いた。
「これで、お願いします」
お釣りもいらないと言うみたいに、女の子は深く頭を下げた。
困る。
俺は神様じゃない。
でも。
「……分かった」
何が分かったのか、自分でも分からないまま言った。
「絶対元気になる。大丈夫」
ただの言葉だ。保証なんてない。
それでも女の子は、ぱっと笑った。
「ありがとう、神様」
そう言って帰っていった。
静かになる店内。
レジの上に、百円玉が残っている。
翌日も、その翌日も、女の子は来なかった。
三日後の深夜。
またウィン、とドアが開く。
同じパジャマ姿。
でも今日は、笑っている。
「お父さん、目、覚ましたよ」
俺はほっと息を吐いた。
「それは……よかったな」
「やっぱり神様いた」
女の子は百円玉をもう一枚置いた。
「お礼」
「いらないよ」
「だめ。神様はタダじゃだめなの」
そう言って走って帰っていった。
店内はまた静かになる。
レジの中には、売上とは別に、二枚の百円玉。
俺はそれを触りながら思う。
神様なんていない。
でも、誰かの「大丈夫」になれる瞬間があるなら。
深夜二時のコンビニも、悪くない。
この物語には、本物の神様は出てきません。
奇跡も、超能力も、運命の演出もない。
あるのは、
不器用な大人の「大丈夫」と、
それを信じた小さな心だけです。
誰かの言葉に救われたことはありますか。
根拠なんてなくても、
ただ言ってほしかった「大丈夫」。
もしかしたら私たちは、
知らないうちに誰かの神様になっていて、
知らないうちに誰かに救われているのかもしれません。
深夜二時のコンビニの灯りのように、
この物語が、誰かの夜を少しだけあたためられたなら嬉しいです。
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