7 ダンジョンマスター現る!
私は爆弾が作った隙間から隠し通路の中に忍び込んだ。
誰でも気づくことだが、明らかに通路の材質がダンジョンと違う。大理石に近いような美しい材質の石で、神殿や高級ホテルみたいな雰囲気がある。
しばらく通路を歩くと、左右に木製のドアみたいなのがついていた。中に気配がないか確認してから開ける。
トイレだった……。
もう一歩のドアは脱衣所らしきスペースで、その先に浴槽……。
明らかに居住スペースだ。その先はドアも何もなしに台所らしき場所がある。こんなところで火を使って換気は大丈夫なのかと思うが、空気窓のようなものがいくつか開いていて冷たい風が吹き込んでくる。おそらくこれで換気しているんだろう。
通路の先はドアがついていたが、押しても開かない。でも、少しは動くので、どうやらテーブルか何かでふさいでるらしい。
「Sランク探索者を舐めないでください!」
私は強引にドアを押した。
ドアが開いて、奥から「わあああっ!」というかわいい悲鳴が聞こえた。
そこには白いワンピース状の服を着た金髪の女子がひっくり返っていた。おおかた15歳ぐらいか。
「わっ! わっ! わわわっ! 侵入者だ! なんで侵入者が来るわけ? そんなの聞いてないって!」
その女子は部屋の隅に避難した。まあ、同じ部屋だから避難にはなってないけども。
そんなことより室内が気になる。その部屋は低いちゃぶ台みたいなテーブル、部屋の角にあるタンス、それと前世の週刊漫画ぐらいのサイズの石板ぐらいしかない。床はどうも畳みたいなもので覆われていて、その女子も靴を履いてなかった。
なんか和風っぽいな。タンスの上には招き猫に似た神獣の像みたいなものもあるし。
「あなた、何者ですか?」
私は率直に聞いてみた。
「むしろ、こっちが聞きたいよ! 探索者がわたしのプライベート空間に入ってくるなんて聞いてないって! 探索者がこっち側に来るのなんてルール違反もいいところだよ!」
「『こっち側』ってどっち側? ダンジョンを作成している側ってことでしょうか?」
引っかかる言葉があったので私は聞いてみた。
「……そ、そうだけど」
ゆっくりとその女子はうなずいた。
私は静かに彼女に近づく。
「ひゃっ……。な、何……? な、なんか言ってよ……」
私はその女子の元に一気に接近する。
すごいことがわかってしまった!
「ダンジョン作成側! ダンジョンマスター! 略してダンマス! ついに出会えました!」
「わわわっ! こ、殺される! た、助けて!」
「そんなことするわけないです!」
私はダンジョンマスター様の前に正座して、頭を下げた。
「ははーっ! ダンジョンマスター様! お初にお目にかかります! 探索者のキララと申します!」
「え? なんでそんなにへりくだってるの? ドMだったりする?」
「いえ、別にドMではありません」
頭を下げすぎると会話がしづらいので、ちょっと顔を上げた。
「私は探索者にして迷宮偏愛者――つまりダンジョンが好きすぎるマニアです。好きが高じて今ではこの世界で一応トップの探索者ということになっています」
「トップの探索者! 無茶苦茶偉いじゃん!」
「恐縮です。ですが、私が探索者を続けられるのも、そもそもダンジョンがあるからです。ダンジョンを作ってくださる方はまさに造物主なのです。これまで造物主がいるという派閥とそんなものいなくて勝手にダンジョンが湧いてくるんだという派閥に分かれていましたが、私はずっとダンジョンは造物主がいると信じておりました」
しゃべってるうちに気づいたが、これでダンジョンが生まれた理由の論争も終止符が打たれる。まあ、おおやけに発表していい情報かどうか謎だけど。
「なので、あなたは神なのです。神の前にへりくだるのは当たり前。むしろ、へりくだらなければ不敬です。いえ、不敬どころか自分の信仰を自分で否定する行為ですから、自爆もいいところです」
「……ええと、キララだっけ? まあ、君がダンジョンマスターを大切に思ってくれてることは伝わった。にしても、まさかダンジョンマスター側の空間に入ってこられるなんて……。やっぱり異空間で遠隔操作してるほうが安全だったか……」
異空間でダンジョンは作ってるのか。絶対に忘れないようにしよう。この空間を出たら、ここにいた記憶を失うとかいった効果があっても、強引に覚えておこう。
「そのお言葉だと、あなた様以外にもダンジョンマスター様はいらっしゃるのですね?」
「そうだよ。といってもほかのダンジョンを探しても出会えないよ。普通はわたしたちの住む別の世界から遠隔で作ってるから。わたしは新人で反応を近くで見たくて、こっちの世界に移動してきた特殊事例なんだ。まあ、作業がわからないことだらけで、更新の手が止まってるけど……」
このダンジョンが無茶苦茶だった理由がわかった。
答えは新人ダンジョンマスターが作っていたから。だから、意図が謎の罠があったり、モンスターのパワーバランスが無茶苦茶だったり、そもそも何もないフロアがあったりしたのだ。
「講師が『最初は地下5階ぐらいまでのシンプルなやつをやって慣れていくほうがいい。いきなり巨大ダンジョンを作ろうとすると、ぐだぐだになる』って言ってたけど、あれ、本当だったんだね……」
ダンジョンの講師もいるのか。そりゃ、思うままに自由にダンジョンを作っていいんだったら、入った瞬間に即死するような意地悪でしかないダンジョンがもっとありそうなものだよな。
大半のダンジョンは努力次第でどうにかなるような難易度に設計されてる気がしてたが、絶対攻略できないような難易度のものは作ってはいけないんだろう。
「わたしの名前はアルテ。ここで最初のダンジョンを作ろうとして……」
アルテと名乗ったダンジョンマスター様は恥ずかしそうに顔を横に向けて、こう続けた。
「見たら、わかるよね……。行き詰まってる。完全に途中で止まってる。これなら一回封鎖したほうがいいかな……」
心が折れかけてるな。
でもその気持ち自体はわかる。モノ作りって実行に移してはじめてその難しさに気づくのだ。
理論だけだとなんか余裕でできる気がするんだけど、理論だけでどうにかなるなら、そもそも失敗などこの世界に存在しない。実際には、理論派の人でも多数の失敗の中で、これだとまだダメージが小さいかなという方法を見つけたりする。
「あのさ、悪いんだけど、帰ってくれない? ここは探索者が入っていい場所じゃないし」
「嫌です」
あれ、口が勝手に……。
「えっ? 嫌?」
ここであっさり戻るには、この場所は特別すぎる。
「こんな興味深い空間を知ってしまった以上は帰れませんよ。むしろ、協力させてくれませんか? ダンジョンのことなら、割と詳しいのでいいダンジョンを作るお手伝いができると思います」
「お手伝い?」
「アルテ様、私にダンジョンマスターの助手をやらせてください」
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