6 不自然すぎるダンジョン
アークデーモンはゆっくりと私に近づいてくる。
少なくとも戦うつもりではあるらしい。
じゃあ、話は早い。私ももちろん戦うつもりだからだ。
「来たらいいですよ。実力の違い、見せつけてあげますから!」
鎌が振り下ろされた時には、私はアークデーモンのふところに入り込んでいた。
「盗賊のスキル、【疾風】! 接近はこっちの十八番です!」
そして、首元を狙ってナイフを突きつける。
青紙系の炭素鋼の超優秀なナイフ。これだけはいまだに日本時代のものを使っている。攻撃力だけだったらもっといいのがこの世界にもあるけど、結局これが手になじんでいるのだ。
「グガアアアアアッ!」
アークデーモンはまさしく断末魔の叫びだなという絶叫とともに倒れた。
「残念でしたね。私にとったらアークデーモンもザコと同程度の意味合いなんですよ」
本来ならアークデーモンはBランクの探索者グループでようやくどうにか対処できる難敵だ。攻撃力もさることながら、翼で飛行もできるので、背後にもあっさり回り込まれる。火炎系と爆発系の攻撃魔法も使用したはずだし、まさにボスと言っていい強敵だ。
とはいえ、人間に近い見た目をしてるってことは弱点もそれに近いってことだ。首を狙えばあっさり致命傷を与えられる。
まあ、それはいいとして――
「にしても、なんで地下9階でこんなのが出るんですかね……。あまりにも非常識じゃないですか……。私が事前に探索してよかったものの……」
バランスを無視して急に強すぎる敵が出てきたので私は困惑していた。
ダンジョンは何が起きるかわからない場所ではある。でも、先に進めば進むほどだんだん難しくなっていくという不文律は存在する。いきなりアークデーモンが出てきたら準備も何もできない。
「ここから大物ラッシュってことでしょうか? 念のため、相手を混乱させるスクロールを用意しとくか。それと自分のほうも状態異常を防ぐ指輪をつけてと……」
アークデーモンより強い敵となると、シルバードラゴンとかギガントゴーレムとか文句なしのボスクラスの奴になってくる。勝てるとは思うが、準備はしてから挑みたい。
これまでの定石から外れすぎているが、地下20階より下で出てくるようなアークデーモンが出現する時点で何が起きても不思議はない。ある意味、これまでの知識や経験が生かせないのは探索者の醍醐味とも言える。
地下10階には大サソリがいた。
私を見るとあわてて逃げていった。
「なんだこりゃ! バランス無茶苦茶すぎますって!」
ダンジョンで叫んだせいで声が反響した。
どういう生態系なんだ。なんでアークデーモンの次がビギナーの探索者でも倒せる大サソリ? 餌用にでも飼育してるのか?
私は出入口が一箇所だけの小部屋に入ると、その場に座り込んだ。
疲れてはいなくても5階ごとに休憩はとる。これが私のルーティンだ。それこそ、想定外の強敵が急に現れることもあるから体力は万全にしておく。
それに――
「ゴブー! ゴブ、ゴブ、ゴブ!」
部屋に入ってきたゴブリンがすぐに引き返して逃げていった。このフロアは敵が弱すぎるので、休憩にもなんら問題がない。
「ここまでいいかげんなダンジョンは初めてですね……。本当に『新種』と呼んでいいレベル……」
たんに簡単なダンジョンや敵も入手できるアイテムもしょうもないダンジョンは無数にあるが、いいかげんという感想を持ったダンジョンはこれまでなかった。
「ダンジョン内生態系も強い敵の階の下に弱い敵の階があったりしておかしいし……どうしてこうなったんでしょう……」
なんとなく人為的なものを感じる。
この世界では探索者の多くは、ダンジョンは自然発生する生き物みたいなものだと思っている。つまり「自然発生」説のほうが極めて優勢だ。
特定の誰かがダンジョンを設計しているという「意思」説を考える奴はほぼいない。神がダンジョンを作ってると考えている探索者はいるが、そういう探索者も神の考えていることは常人からはわからないとして、意思を読み取る発想は持っていない。
「でも、このダンジョンなんて『意思』説の証明みたいなものだと思うんですけどね」
偶然、無駄な罠が発生する可能性はあっても、モンスターの配置がぐちゃぐちゃなんてことは起きないだろう。あと、小部屋が無意味に並びまくってるとかも、いかにも練習用に作って、そのまま放置してるって感じがあるんだよな。
探索者用のチュートリアルダンジョンならぬ、設計者側の練習ダンジョンっていうか。
そう考えると、急にやる気が湧いて来た。
「じゃあ、その設計者――ダンジョンマスターにどこかでニアミスできるのでは?」
言うまでもなく、ダンジョンの設計者などに出会ったことはない。「意思」説を否定する人間は設計者を見た人間が誰もいないという点を根拠にしている。
逆に言えば、ダンジョンを作った者――ダンジョンマスターを見つけてしまえば、「意思」説は証明される。
やるぞ!
目標ができると、足取りも軽くなる。
私は一気に進んで、地下17階まで到達した。
一人で地下17階に到達するというのはなかなか大変なことだが、モンスターの強さもマップも雑なので、体感ではずっと楽だった。アークデーモンみたいなのが出てくるフロアがなかったというのも大きい。
それに、小さい部屋が3部屋あるだけのフロアもあったしな。しかもモンスターもいなかったので3分ぐらいでフロアの探査が終わってしまった。
そして地下17階はもっとひどくて、部屋が一つだけだった。モンスターの姿もない。
「下に降りる階段はなし……と」
一歩一歩確かめるように部屋の中を歩いていく。
下へ落下する落とし穴とかがないかの確認だ。
この程度のことは探索者なら誰でもやる。まして私のジョブは盗賊。この程度の確認は義務みたいなものである。
「床は異常なし。続いて、壁」
壁に罠が設置してあるのもよくあることだ。壁にボタンのようなものが隠れていることも珍しくない。
「たとえ、変哲ない土壁に見えても、手は抜きませんよ。見落としがあったらSランク冒険者の恥ですからね……」
そして、壁に変な場所を見つけた。
よく見ると、壁と壁の間に細い隙間のようなものがある。
地面に耳をつける。はしたないが、なにせジョブは盗賊なのだ。罠を探るのが自分の仕事だ。
風が壁のほうから吹いているのを感じた。
「これ、何かの入り口だ」
私は威力の小さい爆弾を火炎(小)の魔法で点火する。魔法使いのジョブでなくても、サバイバルに必要な最低限の魔法は盗賊も習得できる。
爆弾を怪しい場所の前に置いた。
ドガアァーッ!
爆発音を仕掛けた場所には穴が空いていて、先に通路らしきものが続いていた。
「大当たりですね。私をたばかろうとするのは無理ですよ。あと……部屋が一つだったら誰だって調べるから隠せないと思います」
慣れた探索者なら必ず、本当に終点かどうかは調べる。これは探索者の修正だ。とくに隠し通路の先なんかにはレアアイテムがある確率も高い。
もっとも、レアアイテムの期待どころではなくなった。
「わあっ! なんか壊れてるー!」
通路の先からそんなあわてた声が聞こえてきたからだ。
夜も更新する予定です!
お読みいただき、ありがとうございます!
もし、
「面白い!」「この先が気になる!」
と思ってくださいましたら、
広告の下↓のところの【☆☆☆☆☆】をタップして、
【★★★★★】にしていただけますと、すごくうれしいです! すごく励みになります!
評価が上がると、ものすごく続きを書くぞというパワー・燃料になります!
どうか、よろしくお願いいたします!




