16 ダンジョン飲食店開店!
魔族的な女子はぽかんとした顔で私とアルテちゃんの顔を見ている。
魔族がこの世界にいるのかはわからないが、いわゆる魔族的な存在であることは間違いないだろう。
「え、ええと……あなた方が両親に当たる方……ですか?」
この質問にどう答えたらいいか迷ったけど、大きく間違ってもないか。
「似たようなものです。私の名前はキララ・シバ。こちらはアルテちゃんです。あなたは自分が何者かはわかりますか?」
「はい、ええと……モンスターの立場で探索者という存在と戦うものなんだって意識はなんとなくあるんですけど……ここ、明らかにそういう場所じゃないですよね……。楽屋裏みたいな空間ですか……?」
「正直に話しますと、あなたにはお店をやってもらいたいんです」
横でこくこくとアルテちゃんがうなずく。
「もし、やってみてこんなの嫌だー! ってことになったら言ってよ。第二の人生をこっちでできるだけサポートするから」
「は、はあ……。お店をやる? それってモンスターの仕事なんですか?」
「モンスターの仕事ではないです。少なくとも、私たちはあなたをモンスターとして扱うつもりはありません。強いて言えば、人の権利を持つ従業員として考えています」
「ねえ、師匠、正しくはあるけど、従業員ってやや冷たくない?」
「そうですか? でも、いきなり家族として考えていますってほうが重くないですか? じゃあ家族に最初から働けって強制できるのかってことにもなりますし」
人間並みの知性の存在をいきなり生み出す技術なんて、この世界で認知されてないから、 何が正しいとかは本当に誰にもわからないと思う。目の前の店員ちゃん(仮)が納得できるように話を進めていくだけだ。
「と、とにかく、自分の役割を、ええと……しっかり果たそうと思います! よろしくお願いいたします!」
従業員候補の女子は模範的なぐらいやる気を見せてくれた。
「ありがとうございます。では、今からお仕事の手順を教えますね。あっ……そうか、これは決めたほうがいいか」
「師匠、決めるって何を?」
「彼女の名前です。彼女の立場をどうするかは別としても名前は絶対に必要です。あの、ご本人から希望とかあります?」
しばらく彼女は迷っていたが、こう言った。
「では、カイハでお願いします」
「カイハですね。では、これからよろしくお願いいたします、カイハさん!」
◇
このあと、私とアルテちゃんはカイハさんにお店の回し方をレクチャーした。
といっても、商品の数は少ないし、最初のうちはお客さんの探索者もほぼいないはずなので、大きな問題はないはずだ。
「わからないことがあれば、この護符型のアーティファクトに話しかけてください。それで通信ができますから。ダンジョン内でのやりとりしかできませんが、店舗もダンジョンにあるので問題ありません」
「はい、よろしくお願いします!」
「まあ、接客や応対にはあまり心配していません。どっちかというと、通常のお店では起きないトラブルですね」
「と言いますと?」
「もし、あなたをモンスターとして討伐しようとする探索者がいたら、この看板を見せてください。『Sランク冒険者認定店』と書いてあります。これでも攻撃してくるようであれば……正当防衛で足か腕だけを攻撃してください」
「足か腕だけ?」
「はっきり言ってカイハさんは攻撃されて死なないように無茶苦茶強く設定されてます。ただ、不届き者とはいえ、探索者が死ぬと困りますんでね……」
そう、強盗みたいな探索者に襲撃されるリスクも私とアルテちゃんは考えた。
で、そうやすやすとやられないステータスをカイハさんに与えたのだ。
だが、それはそれでリスクがある。客の生殺与奪は店主側次第ということと同じなのだ。
「ぶっちゃけ、客を支配しまくるみたいなことになると怖いなって思ってたんだよね。でも、カイハさんの様子だと大丈夫そうで安心した」
アルテちゃんがお店用の椅子を並べながら言った。
店舗は岩壁をくり抜いたようなところに長いカウンターを置いて、通路側に椅子を並べた形だ。食材などはバックヤード側に置いてある。
実はバックヤード側に小さな小部屋があって、営業時間外はそこで休憩したりできるようにもなっていた。
「しっかり働きますね!」
「まあ、最初のうちはものすごく暇だと思うので、その間は何か暇つぶし用のものを用意してください。要望があれば持ってきます。あと、探索者が店舗のある地下5階層に全然近づいてなかったり、ダンジョンにいなかったりすれば、地下17階層で休んでてもらっていいです」
こうして、史上初と思われるダンジョン内の飲食店はオープンした。
最初の探索者は20代の男性探索者。やや、どぎまぎしながら注文をしてくれた。
「ええと……この『香ばしいお茶』と『お菓子っぽいあつあつパン』を一つずつくれ」
「少しお待ちください!」
元気よくカイハさんが応対する。
私は後ろの小部屋に隠れて、接客などをうかがっていた。
とくに問題などは見当たらない。これは上手く口コミが機能すれば有名なダンジョンになるのではないか。王都から少し遠いことは難点だけど……探索者は時間に追われている職業ではないから、上手く回ってくれれば……。
最初のうちは一日に一人、よくて三人といったお店(これはそもそもダンジョンに来る探索者がそんなものだからしょうがない)も、二か月後には1日15人、三か月後には50人が来るような店舗に成長した。
まさに探索者内での口コミが機能したのだ。
「おお、これが有名なパンか! たしかにおやつっぽい!」
「このダンジョンの店に来るために、遠い町からやってきたよ!」
「ほかのダンジョンにもこんな店、開店してほしいな」
評判も上々だ。カイハさんもこれぐらいのにぎわいのほうが張り合いがあるらしく、てきぱき働いている。
さっと一般探索者の雰囲気で店の横を通りかかった私は、カイハさんに目で「グッジョブです」と合図して、地下17階層に戻った。
「アルテちゃん、現在、王都近辺のダンジョンで最も有名なのはここです。大成功ですよ!」
「全部師匠のおかげだよ。最初のダンジョンからすごく人が来てくれて本当にうれしい!」
私たちは地下17階層で抱き合った。




