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迷宮偏愛者の探索者、ダンジョンマスターの作ったダンジョンが雑なので作り直す。  作者: 森田季節


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15 店員作成!

 私は畳敷きみたいな部屋を出ると台所に向かった。普通に調理用の鍋や油は用意されている。炎は私が魔法で出せる。



 そこで、パンを揚げる。

 ジュウジュウいい音がするので、ぶっちゃけそれだけでダンジョン探索中の人間はおなかが鳴るだろうと思う。

 パンを揚げていると、アルテちゃんがやってきた。



「ものすごくおいしそうな匂いがしてきた。パン揚げてるだけなのに……」


「それだけ油が強いんですよ。探索者はカロリー使いますからね。油っこい料理はみんな欲してると思います」



 パンを取り出すと、私は砂糖(これはアイテムとして出現させたものではなくて、生活スペースにあったもの)をぱらぱらふりかけた。



「アルテちゃん、どうぞ。こんなの料理と言えるか怪しいですけど、簡単すぎるぶん期待を裏切りません」


「うわあ、美味い! シンプルだけどちゃんとおいしい! カロリーがちっと怖い以外は完璧かも!」


「探索者は太る心配なんて誰もしませんからね。モンスターと戦ってたらカロリーは消費しますから」



 探索者ダイエットはけっこうおすすめだ。……いや、探索者じゃない人にはあまり探索者になれとは言えないな。かなり危ない仕事だからな……。



「そしたら、この揚げパンをもっと本格的なものにしていきますか。アイテムで豆ってありますよね」


「ステータスが上がるタイプのやつ? 探索者のステータスが上がりすぎてバランスが崩れるからあんまり出せないんだ。あと、あの手のアイテムは豆というか種って扱い?」


「いえ、そういうのじゃなくて、携帯食糧のたくさん豆が入ったような袋です。それと、棍棒ときれいな布も出してもらえます?」



 アルテちゃんは開発室に行くと、すぐに大豆らしきものが入った包みを持ってきてくれた。



「こんな豆入れてもおいしくないと思うよ。硬いし。それと、こっちが棍棒」


「十分です!! しばらく時間がかかると思うので、アルテちゃんはリビングに戻っていてください」


「うん、また必要なものがあったら呼んでね」





 一人に戻った私は台所で黙々と棍棒を振るった。

 理由は豆を砕くためである。

 きれいな布の中に入れた豆を上から棍棒で叩きつける。



「けっこうストレス解消になりますね、これ」



 幸い、ステータスが高いからか、豆は短時間で粉になってくれた。



「きな粉の代わりになるならいいものになるはず!」



 私は揚げたばかりのパンにきな粉(だと思われるもの)と砂糖をよく混ぜたものをたっぷりかけた。その上からハチミツをかけていく。



「彩りでちょっとハーブみたいなものをお皿の横に置いたら……かなりいいのでは! かなり店っぽい!」



 私はすぐにアルテちゃんを呼んだ。



「これは……お店出せるよ! ちゃんとスイーツになってる!」


「私もそう思います! これは探索者がわざわざ来ます!」


「カロリーが怖いけど、おかわり! もう一つ食べたい!」



 何個も食べると本当にカロリーがとんでもないことになってそうだけど、こっちが止めることでもないな……。アルテちゃん、別に太ってないし。



 私は2個目のパンも提供した。

 自分の分も作ってあつあつをかじりつく。サクサクしてる食感とまだふかふかの部分もあって、素晴らしい。



「これで、料理のメニューは完璧だね。こんなお店がダンジョンにあったらみんな来るよ! 少なくとも似たダンジョンは聞いたことない!」


「ですね。私もこんなお店があるダンジョンは知りません。ですが――実はここからが最大の難関なんです。これまでは売り物を用意するという問題だけでした」



 もっと能天気に手放しで喜んでもいいのかもしれないが、探索者って意外と慎重な性格の人間が多いのだ。失敗が命に関わりやすいからだろうか?



「売り物を用意したらもう完成なんじゃないの?」


「店員が必要です。私が張り付いてずっとお店をやるわけにもいきませんし、ましてアルテちゃんが探索者の人前に出るのはもっとダメです」


「あっ、そうか……」


「といっても、候補はあるんです。ただ、失敗作の料理なら我慢して食べればいいんですけど、失敗作の店員をモンスター扱いにして処分というのは…………倫理的にアウトでしょう」


「それはそうだね。ダンジョンマスターの教本でも命に責任を持てみたいなことは書いてたよ。とくに知能の高いモンスターを作る時は気をつけろって」



 知能の高さで判断するのも変かもしれないが、微生物を殺さずに生きていきましょうなんてことは生物はできないわけで、どこかで線引きは必要だ。



「というわけで、やるからには絶対に店員として活動してくれて、私たちの要望も理解してくれる高知能モンスターを一発で作らないといけません」


「うん……。たしか人間の知能って、これぐらいの数字だったはずなんだよね。参考になる?」


「無茶苦茶、なります! 情報ください!」



 私たちは自分の同僚になりそうなステータスの店員を慎重に設定した。

 できるだけ友好的な関係を築きたいのだけど、忠誠心みたいな能力値はないので知能を上げた結果、かえって裏切られるというリスクは常に生じるらしい。

 かといって接客ができるぐらいの知能となると、ボスクラスの知能は必要だ。なかなか難しい……。



「これで、おそらくわたしたちと同じぐらいの賢さにはなるはず……。あとは、やってみないとわかんない」



 アルテちゃんはものすごく教本に顔を近づけて、言った。何度もモンスターに関するところを熟読したらしい。



「それと、ちょっと攻撃力とか高すぎる気もするけど、いいの?」


「強盗みたいな探索者がいないとも限りません。最初のうちはよくても、人気になれば迷惑客が来るリスクもありますし。腕っぷしは念のため強くしているほうがいいです」



 探索者の世界は原則、地力救済だ。ごく稀に犯罪者崩れみたいな探索者も存在する。

 普通に探索者をやっていて悪人にばかり遭遇する確率は低いが、探索者向けの店をやれば多数の探索者に出会うので、厄介客にぶつかるリスクも上がってしまう。



 それにダンジョン内で店をやるとなると、助けも来ないしな。こっちで店員を作る以上、自衛手段を用意してあげないのは可哀想だ。



 そして、細かい確認がすべて終わった。

 私とアルテちゃんは開発室で目を見合わせて、うなずき合った。



「やるべきことはやりましたね。もし、店員になってもらうのが難しい場合、探索者として生活できるように私が責任持ってサポートします」


「わかった。わたしにとっても娘みたいなものだし、できるだけ責任持つよ……」



 そして私たちは石板を操作する。

 モニター部分に「本当にモンスターを作成してよいですか?」の文字が出る。



 私たちは石板のエンターキーに当たるところに二人で手を合わせて同時に押す。



 次の瞬間、私たちの真横に人の姿が一人増えていた。



 スカート姿で、2本のカールした角が生えたモンスターというか魔族的な女子の存在が。



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