13 ダンジョンを繁盛させろ
「隣の開発室で確認するってこと? もちろん、師匠がやりたいって言うならいくらでも使ってもらっていいよ。わたしよりアーティファクトの操作詳しいし」
アルテちゃんはあっさり受け入れてくれた。ぶっちゃけ、これだけでも垂涎もののことなのだ。
ダンジョンの作成側に立てる探索者なんてこの世界で私しかいない。その特権を享受しているのだから、アイディアの一つや二つぐらいは出してあげたい。
「では、私なりに汗をかいてみようと思います」
私はお茶の間みたいなリビングから隣の開発室に移動した。急に巨大モニターがある中央管制室みたいな空間になるので面喰うけど、次第に慣れてきた。
「何かいい方法ないですかね^。これが日本だったら温泉が湧くとかにしたら人気出そうなんですけど、こっちの世界って別に温泉が好きな人は多くないからなあ」
私は探索者という職業だが、根が迷宮偏愛者――つまりダンジョンに潜ること自体が趣味なので、価値観がこっちの世界の大半の探索者からズレている。
私はタダでダンジョンには入れてラッキーと思っている時に、ほかの探索者は高く売れるアイテムも見つからなくてシケたダンジョンだなと思っていたりする。
この溝は意外と深くて厄介だ。
一般の探索者でもウケる要素を考えつかないといけない……。
「一般の探索者は求める要素ってやっぱりアイテムなんですよねえ……」
探索者は基本的にダンジョンで得たアイテムを売って生活している。このアイテムにはモンスターの毛皮や角、あるいは直接的な宝石や金品も含む。
当然、高く売れるアイテムが手に入るダンジョンに人気が集まることになる。
「あれ、いいアイテムも意外と置けるじゃないですか。火炎の剣って特殊効果でファイア(小)を出せるやつですよね。もっとプッシュしたら人が来るんじゃ」
アイテム欄を見ていたら、意外といけるかもと思ったが、問題点に気づいてしまった。
「ああ、そっか、王都から30分のダンジョンでも見つかるんですね。これだけだと勝てません……」
探索者は何日でも旅が苦にならない人間ばかりではない。私は何日も歩いて山中のダンジョンに入ったりするがそれは例外で、家から通えるダンジョンばかりをずっと攻略してる探索者もいる。
とくに王都に住んでる都会人の探索者なんかはそうだったりする。
「王都近くであることが足かせになってますね……。このへん、競合ダンジョンも多いんだよなあ……。ダンジョンの数が少ない地域なら、もっと戦えたかもしれないのに」
アイテムでどうにかする発想は一回どけるか。
そこのテコ入れができるなら、ほかのダンジョンマスターもすでに手を打っている気がする。
モンスターの設定で何かいいものは作れないか?
たとえば、倒して手に入った角が超高額で売れるとか。
いや、そんなのすぐに価値が下落するだけか。
と、こんな選択肢を見つけた。
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新規モンスター作成
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えっ? 完全オリジナルでモンスターも設定できるのか?
ちょっと確認してみよう。
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パラメーター設定
HP ??
MP ??
攻撃力 ??
防御力 ??
敏捷性 ??
知能 ??
魔法
特殊攻撃
ドロップアイテム
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サンプル選択かピクチャ製作で決定してください。
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どうやら理論上はどんなモンスターでも作れるらしい。
しかもパラメーターも一応、極端に高い数字も入れられるようだ。
「というか、アイテムと比べてモンスターの制約、やけに少ないですね。そりゃ、アークデーモンが地下9階に出現するよ……」
低階層に強すぎるモンスターを出せないようにするとか決まりを作れないのかと思ったが、世の中には低階層だけど序盤から強いモンスターが出るダンジョンもある。階層と強さはあくまで指標の一つだけだ。
それに見た目が同じモンスターでも、パラメーターをいじることができるので強さは一定ではない。
鉄の鎧にしか見えない薬草なんてものがあったら困るが、スライムの見た目なのにアイアンタートルみたいな防御力ということは可能なのだ。
なるほど……モンスターの制限が難しい理由がわかってきた。
「ってことは……これ、ダンジョンの住人を作ることも可能ですよね。見た目が人間で探索者とコミュニケーションできる知能を設定すれば……」
すごいことをひらめいたと思ったが、すぐにちょっと怖くなった。
「いや、これ、慎重にやらないと、本当に造物主になってしまいますね……。人間をどんどん作成するぞということになったら、何かの罰が下る気がします……」
とはいえ、キャラクターデザインをやってみたいという気持ちはあるので、「サンプル選択」と「ピクチャ製作」という画面に移動して、何ができるか確認する。
サンプル選択のサンプル一覧だけでもとんでもない数があって、さらにいろんな要素を組み合わせることも可能なようだった。
「一応、モンスター要素は残しておいて、羊みたいな角はついてるようにして、探索者に攻撃されないように見た目は女の子にして……。これ、時間泥棒ですね。無限にやれそうな気がする……」
その時、ふと頭にアイディアが浮かんだ。
「ダンジョンの中に、そこにしかない店があったら、わざわざ行く価値が出るんじゃ……」
少し歩いても、あの店で食事がしたいんだ、あの店のお茶が飲みたいんだという人はいくらでもいる。おなかがいっぱいになれば、どんな味でもいいということにはならない。
「で、店の特別性って、店員の接客も含みますよね。あのマスターに会いに通うってこともありますし……」
このひらめきは使えるかもしれない。
私は「新規モンスター作成」の部分を止めて、ダンジョンの構造物の設定の項目を確認する。
ダンジョン内に池や川を作って通行を遮断するのはよくある方法だ。もちろん、罠で水が一気に流れ込むというようなこともできる。
そのうち、水の設定を掘っていく。
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水の設定
水量
水質
水温
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「水質、設定できますね。当然、飲料用レベルのものにもできますね」
勝ち筋は見えたぞ。
私はリビングのアルテちゃんの部屋のほうに戻った。
「アルテちゃん、お店を開きましょう」
「お店? ど、どこに……?」
「ダンジョンの中に飲食店を開きます!」
「へ? わたし、料理できないよ。オムレツぐらいならできるけど、ダンジョンマスターが探索者に売るなんて禁止されてるし……」
「そこは大丈夫です。料理はモンスターが作りますから!」
アルテちゃんがわけがわからないという顔をした。




