12 デビュー作のダンジョン
アルテちゃんのダンジョンは無事に完成して、探索者がいつでも入れる形になったのだけど――
「全然、探索者が来てないよ~!」
畳敷きのような部屋に寝そべって、アルテちゃんは駄々をこねるように床をばんばん叩いている。
上手くいかなくて、やるせないのだろう。私も手伝いをした手前、少し責任を感じる。
ダンジョンが完成して10日間、やってきた探索者は合計9人。つまり、1日に1人未満だ。世の中には年に数人しか探索者が来ないような寂れ果てたダンジョンもあるので、これが絶望的な数字というわけではない。
でも、人気があるとも言えない。満を持しての最初のダンジョンでこれだと気持ちが萎えるのはわからなくもない。
「師匠、どこが悪かったの? わたしはちゃんとできたと思ったんだけど……」
「そうですね、テストプレイもしましたけど、何もダンジョンとしての問題はないと私も思ってますよ。そこはこの国唯一のSランク探索者として太鼓判を押します」
「そうだよね。この国で最高のダンジョンの権威がそう言ってるのに、なんで来てもらえないんだろう……」
「可能性はいくつか考えられますね」
「教えて、専門家の人!」
食い気味にアルテちゃんが聞いてきたので、ちゃぶ台風の低いテーブルの石板に文字を書く。
文字を直接入力するタッチパネルみたいな画面も石版にはついている。
「まずは……そもそも論もそもそも論ですが、『立地』です」
「立地……」
「そうです。ここは王都から日帰りで行ける場所ではありますが、徒歩で片道二時間は軽くかかります。近くにはほかのダンジョンもあるので、わざわざこのダンジョンに行かなくてもいいかなと探索者が考えるわけです」
「立地は変えられないんだよね。ダンジョン作りは空間を捻じ曲げる行為だから、指定されてる場所が決まってるんだ」
やっぱりそのあたり、ダンジョンマスター側でもルールがあるんだな。
現役のお城や神殿や一般家庭が突如ダンジョンになってしまったなんて話は聞かない。日常生活にそこまで影響が出ないようなところにダンジョンはできてる気がしていた。
「う~ん……。立地はどうしようもないなあ……。これでもこの国の王都にかなり近くてラッキーって思ったぐらいなんだけど……」
「そうですね。王都のそばに引っ越すわけにもいきません。なので、これはやむをえないデメリットと考えましょう。それに、程度問題です。では、改善の余地がある問題を考えましょう」
私は石板に、こう書いた。
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普通
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「普通? どういうこと、師匠?」
「アルテちゃんのダンジョンは最初に作ったものとしてはよくできています。楽すぎることもなく、難しすぎることもないそれなりの難易度ですし、最下層に泉の部屋があることで達成感もあります。まさしくダンジョンらしいダンジョンです」
「じゃあ、何も悪くない気がするけど……」
ここから先は手伝った私も少し責任があるので、ちょっと言いづらい。
「つまり、普通過ぎて、探索者の中で話題にならないんだと思います……」
「えっ? もっと変だったほうがいいってこと?」
そう質問されると答えるのが難しいな。
「必ずしもそうだというわけではないんですが……王都周辺はダンジョンも多いので、ほかのダンジョンに探索者が流れてしまってるようですね……」
「じゃあ、アークデーモンを用意したほうがよかった?」
「それは絶対ダメです」
探索者の私が監修する以上、探索者がばんばん死ぬような選択はできない。
「じゃあさ、逆に人気があるダンジョンってどんなんなの?」
「たとえば、レアなアイテムが手に入るとかですね。高く売れるアイテムや、モンスターの立ち入りを止める聖域のスクロールなんかは入手のためだけにダンジョンに通い詰める人もいますね」
聖域のスクロールは足下に置くとその近くにモンスターが立ち寄れなくなる。地下の階層で余裕がなくなってきた時に貴重な安全地帯を作ることができるので、多くの探索者の需要がある。
「そういうアイテムって何でも置けるわけじゃないんだよね……。最初のうちはありふれたアイテムしか置けない決まりになってるんだよ……」
「たしかに最強装備が手に入るダンジョンがあったら、みんなそこにばかり行ってしまいますね」
ダンジョンマスター側で過当な競争にならないようになっているらしい。
しかし、そうなると、ダンジョンの特異性を出すというか、人気を出すのってけっこう大変かもしれないぞ。
「ううむ……。アイテムに制限があるとなると、人気のダンジョンを作るって意外と難しいかもしれませんね……。大半の探索者はアイテム目的で参加しますから……」
「げっ……。どうしたらいいんだろ……」
この世界の探索者は生活のために、つまり仕事でやっている人間が大半だ。
私が日本でやっていたように、趣味でダンジョンに潜る人間ばかりなら、新しいダンジョンというだけで人が集まるだろうけど、この世界ではそれだけでは無理だ。得をするとか、一度は行ってみたいと思うような要素が何かしら必要になる。
「まあ、しょうがないかあ……。最初のダンジョンがぱっとしないっていうのはあるあるらしいし……」
アルテちゃんがだらんと畳みたいな床に寝そべった。もう、諦めてしまったらしい。
というより、そもそもダンジョンマスター側としてはダンジョンをちゃんと作った時点で仕事は終わりなのだ。需要が多いかどうかは探索者たちの都合である。
しかし、せっかく完成したダンジョンの客入りが悪いというのは楽しくないだろう。
それに、ダンジョンとしての完成度自体は本当に悪くないのだ。敵の強さも罠の厄介さも絶妙なバランスになっている。
派手さはないが、玄人好みのいいダンジョンだと言っていい。
まあ、玄人好みだからこそ、人気が出づらい面もあるかもしれないけど……。
もうちょっと、私に何かできることがあるんじゃないか。
「ダンジョン開発用のアーティファクトでデータを見させてもらっていいですか? 何かいいアイディアがないか探ってみます」




