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迷宮偏愛者の探索者、ダンジョンマスターの作ったダンジョンが雑なので作り直す。  作者: 森田季節


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1 日本の探索者、異世界への入り口に飛び込む

 2050年、日本含め世界各地にダンジョンが生まれるようになって20年目の記念すべき年。



 私は新宿の地下に新たに生まれたダンジョンを踏査していた。

 ダンジョン用の防刃ウェアには「ダンジョン踏査許可証」がどこからでも見えるように埋め込んである。ちゃんと「司馬(しば)キララ」の名前も顔も見える。



「あっちの足元にモンスター出現の罠があったぞ!」「踏むとゴーレムが出てきて詰む!」



 そんな悲鳴が新人らしき冒険者たちから聞こえてくる。

 私たちダンジョン踏査が趣味となってる連中――通称「探索者」たちは声には出さないが、その程度で騒がなくてもいいだろと思っている。



 この二年のトレンドはモンスター出現罠だ。誰がダンジョンを作ってるか知らないが、福岡のダンジョンで最初に確認されて以降、大阪の梅田第5ダンジョン、名古屋の栄ダンジョン、横浜駅ダンジョンと何箇所も類似の罠が生まれている。


 ちょっと前に東京駅地下ダンジョンでも発見されたはずだから、新宿のダンジョンで見つかっても何も不思議はない。対策してないのは油断としか言いようがない。



 地下7階から先はダンジョンの照明が弱くなってきたので、キャップの前につけたライトをつけた。キャップといっても、クマに殴られても耐えられる金属を埋め込んでいる。通称「キャップもどきヘルメット」だ。



「なかなか悪くないダンジョンですね。タツミチもそう思いますよね?」



 私は今回のダンジョンパートナーのタツミチに声をかける。同い年の25歳だけど、ダンジョン内では余計なトラブルを避けるため、誰にでも丁寧語なのが私のスタンスだ。



 単独行動は死亡率が大幅に上がるので、探索者は極力、複数人で動く。もっとも、中には一時的なバーサーク化が起きるような魔法ガスが噴出する罠もあるので、多人数ならいいってわけでもないけど。



「ああ、モンスター、罠、マップ構成――全部バランスよく整ってるいいダンジョンだな。いつまでこの形状で残るかわからないけど、ずっと保存しておきたい良作だと思う」



 タツミチも私の意見に同意してくれた。さすが戦友。男女で動いてるとそれだけで付き合ってるんですかとかしょうもないこと聞くバカがまだいるけど、そんな浅いものじゃない。

 タツミチは戦友だ。生死を懸けて行動してるのだから、マッチングアプリでひと月後には別人と付き合ってるような恋愛なんかと同じ次元で考えないでほしい。



「このダンジョン、ほんとに均整がとれてますね。なんていうのか、ビギナーからマニアまでちゃんと楽しませてやるっていう覚悟みたいなものを感じるんです」



 私は中腰になって、地獄オオカミの首を切り裂く。地下7層ぐらいから出現頻度が上がるモンスターだ。ビギナーは立った姿勢で対処しようとするので苦戦するが、かがみながら戦えばどうってことはない。特殊効果もないし。



「うん、もしこのダンジョンを作った『意思』とやらが存在しているとしたら、本当によくできてると思います」


「ん? ああ、キララは『意思』説を信じてるんだったな。俺は『自然発生』説なんでそこは相容れないな」



 現在のダンジョン誕生の説明は、2つの説に意見が大きく分かれている。

 ダンジョンごとにダンジョンを作った存在がいるという「意思」説。私はこちらだ。


 もう片方は偶然各地でダンジョンが生まれるようになったという説、これが「自然発生」説だ。



「『自然発生』説は無理ですよ。なんで21世紀になって急にダンジョンができたのかの説明ができませんもん。ダンジョンが生まれる化学物質でも作っちゃったんですか?」


「だったら『意思』説も似たもんだろ。ダンジョンマスターの存在が一例たりとも発見されてないんだよ。こんなすごいものはなんらかの人格を持った奴がいないと作れないという推論から、その人格を想定してるだけだ」


「……まあ、どっちも水掛け論ですね」


「だな」



 そこで私もタツミチも笑った。



「まあ、探索者としてはダンジョンを潜るのが楽しいってことだけわかれば十分ですよね」



「うん、そこは否定しない。でなきゃ、こんな危険なこと続けない。ただ……」



 そこでタツミチの顔が曇った。



「このダンジョンはちょっと変だ。空気が違う」



 タツミチのこの感性はけっこう正確だ。実際シャレにならない毒ガス系の罠を何度か、「空気が違う気がするから、戻ったほうがいい」という言葉で回避したことがある。



「どういうタイプの空気ですか? 毒ガスっぽいなら即帰還です。また来ればいいだけですからね」


「いや、そういうのじゃないんだ。ただ……なんだろうな、どこか別のところにつながってるような空気の流れを感じる」



 ということはほかのダンジョンと地下で接続されてるってことか? それなら、ありうることだ。とくに原宿のダンジョンは距離も近いからどこかでつながるってことはある。







 私たちはそのまま地下を少しずつ進んでいった。

 そしてそれは地下13層にあった。

 ぱっと見はよくある行き止まり式の小部屋だった。

 その先の壁がなぜか水面のように青白くなっている。



 言うまでもなくプロジェクションマッピングの機械などないし、私たちもデジタル系のデバイスを使用してない。自然界で起きてる現象なのだ。




 ビュオオオオオオオッ!




 そして、その水面のような壁から風が吹きつけてきた。

 いわゆる、異世界の扉をイメージしたらこんなものが浮かぶだろうという代物だ。



「空気が違うというのは十中八九、これのせいでしょうね。どこか別の世界につながってるんじゃないですか?」


「そんなわけないと言いたいところだけど、こんなものを見せられたらそう考えるしかないか」



 タツミチもあきれた声を出した。



「しょうがない。キララ、帰ろう。こんなところ入ったら、またダンジョンに戻ってくるどころじゃない」



 だが私はそこから動かなかった。



「キララ? どうした? こんなの、何が起きるかわかったもんじゃないぞ。過去の罠一覧でもこんなのはない。マジで異世界に連れていかれるかもしれない」


「私、入ってみたいです」


「はあ? 危なすぎる! 戻って来れなかったらどうする! 一方通行の可能性はかなり高いぞ!」


「でも、私は探索者ですよ? こんな初の仕掛けを見たら確認したくなるじゃないですか」



 タツミチは首を横に振った。



「探索者ってのは趣味だ。サバゲーが趣味で成り立つのは死者が出ないからなのと同じ理屈だ。これは仕事ですらない。ダンジョンで見つけたアイテムも売れはするけど、それで生計が建てられるほどじゃない」



 これは事実だ。

 私たちはあくまでも趣味で、現代日本で探索者をやっている。

 ダンジョンでアイテムが見つかることはあるが、それはたいした値段では売れない。剣と魔法の世界のようなすごいアイテムが落ちてることは滅多にないのだ。


 そのくせ、モンスターは魔法としか思えない効果を使ってきたりするので不公平だけど……。でも、モンスターもダンジョンの外には出ようとしないので、そこは社会に魔法みたいな効果が出てこないように注意しているんだろう。



 とにかく大事なのは私たちは探索者を趣味でやっていて、職業にはできてないってことだ。


「でもさ、趣味だからこそ無茶をするものだと思うんだよね」



 私はその異世界に通じそうな水面に一歩、近づく。



「マジでやめろ! キララ、本当に危ない!」


「今入らないと、規制が入って誰も飛び込めなくなるかもしれないでしょう。チャンスは今しかないかもしれないんです」


「本当にやめてくれ、キララ。だって俺は、俺は……」



 タツミチが涙声でこう叫んだ。



「お前のことが好きなんだっ! 付き合おうっ!」


「……………………はっ?」



 意味がわからなくて、声が裏返った。



「それって戦友的な意味でですか? だったら、わかりますけど」


「いや、恋愛的な意味で! 池袋でいい店見つけたから今度の休日に行こう!」


「…………そんなことしたらダンジョン探索の時間が減るじゃないですか」



 ダメだ。価値観が違いすぎる。

 そもそも普通の恋愛がしたかったら、ダンジョンなんて潜ってない。モンスターに頭かじられて死ぬ危険もあるのに。



 ある意味、はっきり踏ん切りがついてよかった。



 私はやはりダンジョンが好きだ。ダンジョンにハマりすぎた探索者は迷宮偏愛者なんて呼ばれもするが、私はまさしくそれだったらしい。



「じゃあ、入りますね。タツミチは日本でいい人見つけてください」




 私はいかにも異世界の扉だろうというそこに飛び込んだ。


新連載です! なにとぞよろしくお願いいたします!

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