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きみは天性の女優だ!天才だ!と言われ、辺境伯に一年間の契約結婚を申し込まれた悪役令嬢(?)は、輝く貴婦人の星となる☆  作者: 櫻井金貨


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第39話 王都から来た二通の手紙

「ガ、ガンター様!! 大変でございます! 王都から、お手紙が届きました! 王家の封蝋が押されております」


 その日、辺境伯家の面々は、一緒に昼食を取っているところだった。

 いくぶんあわてた様子の家令アランがダイニングルームに飛び込んでくると、ガンターは落ち着いて手紙を受け取った。


「使者は?」

「はい、馬は休憩させ、使者殿には食事を用意しております」

「ふむ」


 ガンターが手紙に目を通している間、アリスリンデとアマリアは会話を止め、静かになり行きを見守っている。


 騎士団の訓練から抜けてきたフィンも、せっせと食事を詰め込んでいた手を止め、気遣わしげに義兄を見つめていた。


 そんな様子に気づくと、ガンターは穏やかに微笑んだ。


「すまん。皆に気を遣わせたな。大丈夫だ、これは国王陛下からの手紙で、二ヶ月後、王太子殿下の成人を祝って、夜会を開催するという招待状だ」


 夜会、と聞いて、緊張した空気がほぐれた。


「おまえもついに結婚したのだから、ぜひ新妻を王都に伴い、皆に披露してほしいと書いてある」

「!!」


 アリスリンデは顔を赤くした。


「ま、まあ? そのようなことが」


 そういって可愛らしく首をかしげるアリスリンデは、本人は気づいていないが、すっかり新妻らしい雰囲気になっていた。


 今日はまるで深い森のような、濃い緑色のビロード地のドレスを身につけていた。

 つややかな黒髪は緩やかに結い上げ、炎のような色合いの、オパールの結婚指輪とイヤリング、ガンターから贈られたセットを身につけている。


 穏やかに微笑む姿は、幸せそうで、屋敷の女主人としての貫禄も身につきつつあった。


 そしてそんなアリスリンデを見やるガンターの視線の甘いこと……!


 当人同士は気が付いていないようだが、アマリアとフィンは見ていて照れてしまうことがあるほどだった。


「うん、まあ、『○出席』で返事をするか。しかし、そうだな。秋の遠征と重なるな……遠征を早めて、戻ったらすぐ王都に出発することにしよう」


「秋の、遠征でございますか?」


 アリスリンデが尋ねた。

 はっとアマリアが顔を上げる。


「ガンター様。アリスリンデさんは初めてなので、ご存知ないのですわ」

「あぁ、そうか」


 ガンターはアリスリンデに向き合うと言った。


「わが国の国境地帯を守る辺境伯家では、春と秋に、毎年国境線の見回りに出かけるのだ。そして異常な動きがないか、直接、目で確認する。国境線には湖もあるから、そこは船を出すのだ。まあ、そんなこんなで戻るまで数週間はかかるな」


「まあ。さようでございましたか」

「うむ。だが、心配はいらない。屋敷には義母上もいるし、フィンを残していく。フィン、留守中頼んだぞ?」


「はい、兄上!!」


 フィンの嬉しそうな声に目を細めると、ガンターはさらさらと返信を書き上げた。

 そこで返信を待っていたアランに渡したのだが、アランはなぜかまだ物言いたげにじっとしている。


「どうした?」

「は、ガンター様。実はもう一通お手紙が」

「なんだ?」


 アランは宛名も差出人の名もない、真っ白な封書を差し出した。


「使者が申すには、奥様にお渡し願いたいと」


 一同の視線がアリスリンデに向かった。


「わたくしに?」


 ガンターはその白い封書を、今すぐ燃やしてやろうかとでも言いたげな視線で見つめていた。

 それを見て、アリスリンデが苦笑する。


「旦那様、中を改めてくださって、構いませんわ」

「しかし」

「正直、心当たりもなく……心配ですから、見ていただけないでしょうか?」

「よし」


 ガンターはいそいそと封を開けて、手紙を取り出す。

 しばらく見ていたが、アリスリンデに手紙を渡した。


「危険はないと思う。きみに任せる」


 アリスリンデは手紙を広げた。


『シュタイン辺境伯夫人アリスリンデ様』


 手紙の冒頭にはそう記されていた。


『突然のお手紙で失礼いたします。実は、わたくしは先日マグリット夫人のお茶会でアリスリンデ様の朗読を聞き、その後、少しだけお話した者です———』


『もし可能であれば、ときどきお手紙を通してやり取りができたらと思い、ペンを取りました。理由あって、わたくしの身分は明かすことができません』


『しかし、あなたとお近づきになりたいという気持ちは、本当です。もし、ご了承いただけましたら、お返事をください。もし、難しいようでしたら、それは構いません。どうぞこの手紙はお捨ておきくださいませ』


「『C』?」


 アリスリンデはつぶやいた。


「あの方……だと思うのです。お名前は、おっしゃらなかったのですが。マグリット夫人のお茶会でお会いした、ご令嬢。不思議なのですが、わたくし、大抵の方のお顔と名前は存じてます。でも、あの時、あの方のお名前はわからなかった。お顔も———どこかで見たような気もするのですが……」


 アマリアとフィンは顔を見合わせた。


「アリスリンデさんがわからないなんて、よほどですわ。何か、ご事情があるお方なのでしょうね」


 アマリアが言った。

 アリスリンデは、その時のことを思い出そうとするかのように、目を閉じた。


 貴族令嬢らしい、柔らかな金髪。温かみのある、青い瞳。

 すらりと伸びた手足をして、女性にしては身長が高い。

 上品なドレス姿だった。


 会場には、誰も知り合いがいないようで、一人離れた場所に隠れるようにして、立っていた令嬢。


「きっと、何か深いご事情がおありなのかと思いましたの」


 アリスリンデは言った。


「ガンター様、わたくし、この方にお返事しようと思いますの。構いませんか?」


 ガンターはうなづいた。


「もちろんだ。きみの思うとおりにするといい」


 アリスリンデはうなづき、ふと思いついて、言った。


「ガンター様は、もしや、あの方をご存知だったり……しますの?」


 その時、一瞬、ガンターの返事が遅れたような、そんな気がした。


「……いや」


 ガンターは言った。


「俺も、あの()()()とは面識がない」


 アリスリンデは、手紙の返事を書くために、席を離れた。

 迷った末に、簡潔な手紙を書くことにする。

 彼女の状況はわからないが、あまり細かいことを書かない方がいいだろう、そんな気がしたのだ。


『Cさま。お手紙をいただき、とても嬉しく思いました。わたくしも同じ気持ちです。A』


 名前は、彼女にならって、イニシャルだけを記した。


 アリスリンデの返信は、短かった。

 しかし、アリスリンデの想いがこもっていた。

 手紙は二人の令嬢の想いを載せて、王都へと向かっていく。


 アリスリンデは心がワクワクするのを感じた。


(まるで、初めてお友達を持ったかのような)


 アリスリンデは王都の方角を見つめる。

 無事に、返事があの方のもとに、届きますように。


 ここに、新たな希望が生まれたことを、まだ誰も知らない———。


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