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きみは天性の女優だ!天才だ!と言われ、辺境伯に一年間の契約結婚を申し込まれた悪役令嬢(?)は、輝く貴婦人の星となる☆  作者: 櫻井金貨


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第36話 宝石の輝きも、きみの輝きにはかなわない……

(宝石店?)


 アリスリンデは店を見て、ガンターを振り返る。

 ガンターは顔を赤くして、うなづいた。


「……本当は、サプライズでプレゼントしたかったのだが。正直に告白すると……あまりにも店内がキラキラしていて、選ぶことができなかったのだ……」


 その、いかにも無念さがにじみ出るような声に、アリスリンデは驚いた。


「ま……まあ。そうでしたの?」

「すまない、アリスリンデ。妻に贈り物ひとつ選ぶことができない俺は、まったく使い物にならない、ダメな夫だ」


「旦那様、そんな! そんなに思い詰めないでくださいませ……!」

「せめて、恥を忍んできみを店に連れてきて、直接選んでもらおうと思ったのだ……すまない、アリスリンデ……」


「ええええ!? どうしてそこで謝るのですか、旦那様!!」


 二人の背後では、ノックスとノアが笑いをこらえるのに必死である。

 アリスリンデは店の前でしょんぼりとしてしまった大男を前に困惑していた。


 こんなところでしょんぼりされてしまっては、店の入り口を塞ぐだけでなく、近所迷惑である。


「と、とりあえず、旦那様、中に入りましょう!?」


 アリスリンデはガンターの腕をつかむと、ぐいぐいと押して、なんとか店内に押し込んだ。


「「「「いらっしゃいませ!」」」」


「こんにちは。いくつか、アクセサリーを見せてくださる?」


 ずらりと並んだ店員達に、アリスリンデはにっこりと笑った。


 店主がいそいそとやってくる。

 気のせいか、そげた頬がヒクヒクとして、なんとも気の毒な雰囲気が漂っている。

 そんな店主が気合を込めるかのようにして、声を張り上げた。


「領主様、奥様、本日は当店にお越しくださいまして、ありがとうございます!」

「こちらこそ、よろしくね。今日は———ええと」


 アリスリンデはそこで言葉に詰まった。

 宝石を買うことは予定に入っていなかったので、目当てのものなどない。

 はてどうしたものか、と思ったのである。


「指輪だ」


 すると、ガンターがアリスリンデの腰をそっと抱いて言った。

 店に入る前はしょんぼりとした大型犬のようだったガンターが、いつの間にか完全復活を遂げていた。


「店主。今日は、わが妻に、少々遅れてはしまったが、結婚の記念となる装飾品を一揃い購入しようと思うのだ。貴婦人(レディ)には美しい装身具が必要と言う。美し過ぎるわが妻に相応しい品など、そうそうあるまいが、せっかく来たのだからまあ見せてもらおうか?」


 胸を張って述べるガンターの言葉に、アリスリンデの顔がみるみる赤くなっていく。


「だ、旦那様、それはさすがに大げさな」


 しかし、ガンターに何かのスイッチが入ってしまったようだった。

 打って変わって余裕のある笑顔を見せると、ガンターは愛しげにアリスリンデを見下ろし、そっとその手を取ると、口づけた。


「まずは、指輪を。それから揃いのネックレスとイヤリングが必要だな。世界でたった一人の存在、私がすべての愛を捧げる存在だ。至上の美しさを誇るわが妻にはどんな宝石がふさわしいだろうか———まあ、簡単ではないがな。ふっ」


「だ、旦那様、言い方! 言い方!! 恥ずかしいですわ……」


「はは、しまった。また本音が漏れたか? 店主よ、わが妻はかように賢く、礼儀正しく控えめな、完璧なレディなのだ。さ、見せてもらおうか?」


「は、は、かしこまりましたぁ〜!! 準備をいたしますので、少々お待ちくださいませ……!!」


「台は、やはり金だな。至上の美しさのわが妻は、希少な宝石のように輝く、金色の瞳をしている……宝石もまた、金の台の上に細工したものがよかろう」


「かしこまりました!!」


「アリスリンデ、待っているのも疲れるだろう、こちらに座りなさい」

「はい、旦那様」

「奥様、ただいまお茶をお持ちいたします……!!」


 そしてしばらくして。

 黒のビロードのトレイの上に、輝く宝石がずらりと並べられて、アリスリンデの前に運ばれた。


 中央に置かれていたのは、まるで炎のように明るいオレンジ色から金色に変化する石で、緑と青の光が散る、不思議な宝石を使った指輪。

 同じ石を使ったネックレスとイヤリングも並んでいた。


「これはオパールです。この色合いのものは数が少なく、ここまでの大きさのものは滅多にございません」


 店主が息も絶え絶えに言った。

 まあ、とアリスリンデが目をキラキラさせながら、トレイに顔を寄せた。

 釣られてガンターもトレイを覗き込む。


「ほう。これは……見事なものだな」

「はい。当店でも最高級のお品のひとつでございます」

「アリスリンデ、この指輪は、どうだ? 好きだろうか?」


 アリスリンデはオパールの指輪を見つめた。


「まるで……炎のようですわね」


 ややあって、アリスリンデは言った。


「この石を見ていると、なんだか自分が強くなれそうな気がします」


 ガンターはうなづいた。


「きみはもう十分、強さを身につけている。この宝石の輝きに負けないくらいに」


 ガンターは指輪を取った。


「サイズ合わせを。この指輪にしよう」

「あ、ありがとうございます……!! サイズ直しはすぐ、職人にさせますので、まずはフィッティングを」


 その日の午後、だいぶ遅くなってから、ガンターとアリスリンデは屋敷に戻った。

 たくさんの買い物を持ち帰り、また、宝石店では指輪とネックレス、イヤリングのセットを無事に購入することができた。


「今日は本当にありがとうございます。こんなにいろいろ買っていただくなんて、申し訳ないですわ」

「気にすることはない」


 ガンターはアリスリンデをエスコートしながら、そっと言う。


「俺も……楽しかった。きみに似合うものは何だろうと考えると、わくわくするのだ。難しくて、なかなか決められないが、きみに似合うものを見つけると嬉しくなる。アリスリンデ、きみには、美しいものがよく似合うよ。きっと、いつもりんとして、まっすぐなきみ自身がキラキラしているからだろう。でも、宝石の輝きも、きみ自身の輝きには、かなわない」


 そう言うと、ガンターは新しい指輪をはめたアリスリンデの指先にそっとキスを落として、出迎えたグレースにアリスリンデを任せた。

 アリスリンデの顔がじわっと赤くなる。


「…………!!」


「……奥様?」


 グレースが心配そうに声をかける。

 アリスリンデは声を振り絞って答えた。


「だ、大丈夫よ。ただ、ちょっとびっくりして。———今まで、あんなふうに褒められたことなんて、一度もなかったのに気が付いたの。特に———セオドア殿下から……」

「まあ」


 グレースが労るようにアリスリンデを見つめる。

 そしてアリスリンデの左手の薬指に、金色とオレンジにきらめく、新しい指輪を見つけた。


「大丈夫よ。……不思議ね。旦那様に褒められると、なんだか心が癒されていくような、そんな気がするの」


「ガンター様は、あのとおりで、けして器用な方ではないんですけど」


 グレースが言った。


「いつもまっすぐで、上辺だけのことは、おっしゃらない方なんですの。……本日は少々挙動不審だったかもしれませんが、信じて差し上げてください」


 その時、アリスリンデの心臓が、とくん、と音を立てたような気がした。

 まるで心の深いところで、何か小さな明かりが灯ったような。


「ええ———そうね」


 アリスリンデはつぶやいた。

 無意識に、アリスリンデのほっそりとした右手の指が、キラキラと輝く炎のような宝石をはめた左手を撫でていた。


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