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きみは天性の女優だ!天才だ!と言われ、辺境伯に一年間の契約結婚を申し込まれた悪役令嬢(?)は、輝く貴婦人の星となる☆  作者: 櫻井金貨


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第28話 やたらと屋敷が居心地いいではないか?(※ガンターの心の声)

「それで旦那様、お忙しいのは承知しているのですが、いかがでしょうか?」


 久しぶりに午前中の予定がなかったガンターは、屋敷の朝食室で、アリスリンデと一緒に朝食を取っているところだった。


 アリスリンデは辺境での生活に馴染んできたせいか、顔色もよく、表情も明るい。

 長い黒髪も侍女の熱心なお手入れのおかげで、つやっつやに輝いている。

 彼女の珍しい金色の瞳は、屋敷の召使い達の間で賞賛の声が上がるほど、印象的で美しい。


 若く魅力的なアリスリンデに対し、一年間の契約結婚などと宣言してしまったガンターは、良心がチクチク痛むのを最近はよく感じる。


 アリスリンデは賢く、普通の夫婦のように振る舞ってくれている。

 召使い達の評判も上々だ。

 おまけに———。


「今夜のお夕食は、アマリア様とフィン様をお招きして、一緒に取りませんか?」


 無意識のうちにアリスリンデの顔をじっと見つめてしまっていたガンターは、その言葉にはっとして姿勢を正す。


「そ、そうだな? 何の問題もない。ぜひそうしよう」


 ガンターが同意すると、アリスリンデは嬉しそうに微笑んだ。


「旦那様、ありがとうございます。さっそく料理人と会って、メニューを相談いたしますね」


 その笑顔が可愛くて、ガンターはまたぼうっとアリスリンデを見つめてしまう。

 そんな様子を、侍従のノックスと侍女のノアが少々あきれたように見守っているのも、ガンターは気がついていなかった———。


 朝食が終わると、アリスリンデはガンターににっこりと会釈をして、ノアを連れて離れに向かう。

 夕食を一緒にと誘いに行くのだろう。


 行き合う召使い達が笑顔でアリスリンデに挨拶をする。

 その一人一人に対して、ていねいに挨拶を返すアリスリンデ。


「ガンター様、いつまで奥方に見惚れているんですか?」


 笑いをこらえる声で、ノックスが指摘すると、ガンターは顔を赤くした。


「いや、ただ———アリスリンデが屋敷にいるのは好きだな、と思ったのだ」

「ふふ。そりゃ、奥様は、大変な美人さんですからね? あんな奥様が家にいたら、大抵の男は嬉しくて仕方ないでしょう」


 ガンターがぼそりと言い訳をする。


「いや、それもそうなのだが」


 たしかに、アリスリンデのように整った容姿に、美しい所作の妻が家にいたら、それは嬉しいだろう。


 しかし、それだけではない、とガンターは思うのだ。


 ただ美しいだけなら、金にものを言わせて、誰よりも美しいドレスを着せてしまえば、誰でもそれなりに見栄えはするだろう。

 あるいは、要領のよい夫人なら、さっさと夫を骨抜きにして、好きなだけ宝石を貢がせるのかもしれない。


 でも、アリスリンデはそうではなのだ。


 アリスリンデは、目が合うとかならず微笑んでくれる。

 不思議なことに、屋敷の雰囲気もまた、柔らかくなった。


 女性らしい、優しい声。美しいドレス姿。

 アリスリンデがいると、明るい気持ちになれるのだ。

 きれいだな、と無骨なガンターも思う。


「最近、屋敷の中も、きれいじゃないか? あんなにあちこちに花なんて飾ってたか?」

「飾ってなかったですねえ」


 ノックスものんびりと答える。


「奥様がお花が好きだとおっしゃって、飾られているお花をきれいだと褒められたのですよ。使用人達も俄然はりきって、お花を飾っているようです」

「そうか」


 ガンターは首をひねった。


「そういえば、部屋の中も、前より暖かいような気がする」


 ノックスがうなづいた。


「奥様が大奥様と一緒に、屋敷中の点検をされたのです。カーテンや敷物、カバー類を冬用の暖かなものに変えられ、閉まりにくかったドアや窓の手入れもしておくようにと指示されました。暖炉と煙突の掃除もすべて済んでいます」


 ガンターは細い目を見開いた。


「食事のメニューも、少し変わったような気がするが?」

「おお、気がつかれましたか! ええ、野菜が増えましたよね? 何やら彩もよくなりましたしね。おまけにデザートも充実しましたよ。あと、リンゴも毎日食卓に出すようにとご指示がありました。体にいいのだとか。女性がいると違うものですよね……」


 ノックスもしみじみと言って、ガンターに同意した。


 以前は、「ともかく肉を十分な量出してくれればいい。付け合わせなんて適当でいい。肉だ、肉を出してくれ」。そうガンターは料理人に指示していたのだ。

 その結果が、まっ茶色な食卓である。


 召使い達は内心、不服だったのであろう。

 今はおそらく、思う存分、腕をふるって食事を用意してくれているに違いない。


「やたらと屋敷が居心地いいではないか?」


 ガンターはポツリとつぶやいた。


 アリスリンデが来てから。

 そして居心地よくなった屋敷は今まで以上に好きだ、と思う。


(そうだ、好きだ。居心地よくなった屋敷が。屋敷だ、アリスリンデでは———)


 ガンターはアリスリンデではない、と否定しようとして、言葉が続かないことに気がついた。


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