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きみは天性の女優だ!天才だ!と言われ、辺境伯に一年間の契約結婚を申し込まれた悪役令嬢(?)は、輝く貴婦人の星となる☆  作者: 櫻井金貨


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第17話 初めての夕食

「ガンター様」


 アリスリンデは侍女長のグレースと、実家から一緒に来た侍女のノアと共にダイニングルームにやって来た。


 ノアはアリスリンデが入浴中に、すでにグレースによって他の侍女達に紹介してもらったという。

 ざっと屋敷内の配置も案内してもらったのだと嬉しそうにアリスリンデに報告した。


 それから夕食のための着替えを手伝い、こうしてアリスリンデに付き添ってダイニングルームに来てくれている。


 アリスリンデが部屋に入ってくると、すでに着席していたガンターは立ち上がった。


「アリスリンデ嬢、何か不自由はなかったか?」


 心配げに声をかけてくれるガンターに、アリスリンデは、微笑みながら首を振った。


「おかげさまで完璧ですわ。お部屋も素敵で。ありがとうございます」


 ガンターがアリスリンデのために椅子を引いて、二人は着席した。


「旅の疲れもあるだろう。気楽にしてくれ。今日は礼儀など気にせず、食事を楽しんでほしい。話もあるだろうが、明日にしよう。あなたも早く部屋で休みたいだろう」


 アリスリンデが目を見開くと、ダイニングルームにガンターの従者のノックスが入ってきた。


「失礼いたします。ガンター様、アリスリンデ様、お飲み物は何にいたしましょうか?」


 アリスリンデがガンターを見ると、ノックスがにこにこしながらうなづく。


「ガンター様はビールにしますか? 当地はビールが名産でして。ガンター様もワインよりビールの方がお好きなのですよ。あ、王都から運んできたワインもあります。アリスリンデ様はどうなさいますか?」


 ガンターが口をはさんだ。


「おい、アリスリンデ嬢はお疲れだろう。無理に勧めるなよ? ビールを試したいなら、機会はいくらでもあるわけだからな」


「ええと、わたくし、お水をいただければと」

「果実水はいかがでしょう?」

「はい、お願いしますわ」


 ノックスが飲み物を用意していると、アリスリンデはガンターを見て、可愛らしく小首をかしげて言った。


「わたくし達、まずお互いにどう呼び合うかを決めないといけませんわね?」

「げほほほほほっ!!!」


 突然咳き込み始めたガンターに、アリスリンデは頬を少し赤くした。


「まあ、ごめんなさい。驚かせるつもりでは」


 ガンターは首を振ると、あわててノックスが持ってきた水をがぶりと飲んだ。


「いや……すまない。油断していた」

「??」

「いや、そうだ。うん、たしかに。あー、それも明日でいいだろうか? 少し心構えを……いや、考えておく」


 アリスリンデはうなづいた。


「が、ガンター様! お料理の準備ができましたよ!!」


 なぜかノックスもまた動揺したような様子で、いそいそと飲み物の用意をしたワゴンを押してくる。

 ノアがアリスリンデのための果実水を受け取って、テーブルに置いた。

 ノアもなぜか微妙な表情をしていた。


(どうかしたのかしら。わたくし、何か変なことを言ってしまった……? あとで、ノアに聞いてみなければ)


 そうして料理の載ったテーブルに目をやったアリスリンデは、硬直した。


(……茶色い)


 ほかほかと湯気が上がる、できたての料理が並ぶテーブル。

 そこにあったのは、ジャガイモとにんじんと一緒の深鍋に入り、オーブンでじっくりと火を通した、ジューシーな豚かたまり肉のポットロースト。


 ゆでた山盛りのソーセージに、揚げたジャガイモの付け合わせ。

 とどめが骨つきのぶ厚い牛ステーキだった。


 さらに大きなボウルに山盛りの、マッシュポテト。

 その隣には茶色いグレービーがてろりとした光を放ち、これまたほかほかと湯気を上げている。


「おお。うまそうだな」


 ガンターは上機嫌でナイフを取り、器用に料理を皿に取り分けていく。


「湖から獲れる魚料理も欠かせないのだが、わが家では魚は昼食が定番なんだ。熱々の揚げた白身魚をはさんだサンドイッチや、つぶしてボール状にして揚げたりするのもうまい」


 ガンターはたっぷりと肉を切り分けると、ソーセージも数本載せ、付け合わせのじゃがいも———ポットローストの豚と一緒に煮込まれたジャガイモと、揚げたジャガイモと、マッシュポテトを添え、茶色いグレービーをマッシュポテトの上にたっぷりと流し込んでアリスリンデに渡した。


 アリスリンデの目が、丸くなった。


(ジャガイモ御膳!? ……ジャガイモ料理が、三種類あるわ)


 ちょっと胸が苦しくなりそうである。


「お代わりは遠慮なく言ってくれ」

「あ……りがとうございます」


 アリスリンデがちらりと部屋に控えていたノアを見ると、ノアは表情も変えずに、侍従のノックスのもとへ。

 ノアの視線に若干、圧があるのが怖い。

 二人はそのまま廊下へ出て行った。


 ほどなくして二人は戻って来たが、ノックスはワゴンから何やら深皿を取り上げた。


「こちらはケールとソーセージの煮込みでございます!」


 ノックスがぱかっとふたを開けると、アリスリンデは嬉しそうに声を上げた。


「まあ! おいしそう! いい色ですわね」

「ありがとうございます。ケールは冬の定番野菜でして、いろいろな料理に使われます。煮込んでも緑が鮮やかですしね」


 ノックスの言葉にアリスリンデもうなづいた。

 すると黙って会話を聞いていたガンターが不思議そうに言った。


「……アリスリンデ嬢は、こんな葉っぱが好きなのか?」


 その言葉に、アリスリンデは思わず笑ってしまう。


「ふふ。ケールは栄養豊かで育てやすく、寒さに強い、ありがたい野菜ですわ。わが家でも冬はよくケールでスープを作るのです。ノア、作り方はわかるかしら?」


 アリスリンデの言葉にノアはうなづく。


「はい、アリスリンデ様」

「ご存知かもしれないけれど、レシピを作って、こちらのコックさんにお話ししてみましょう。もしかしたら同じようなものを作ってくださるかも———」


「ノアさん、レシピは私が持って行きましょう。台所にはよく行きますので」

「ノックスさん、ありがとうございます」


 ケールをきっかけに、ノアやノックスも会話に巻き込んで、夕食は和やかに進んでいく。

 アリスリンデはガンターが切り分けてくれたポットローストの肉とソーセージ、それにケールを完食した。

 揚げたジャガイモはお腹いっぱいで食べきれなかったが、マッシュポテトを頑張った。


「こちらのジャガイモはおいしいですね。王都のものより、味が濃い感じがします。ちょっとお腹がいっぱいで、全部は食べきれなくて。ごめんなさい」


 アリスリンデが謝ると、ガンターはあわてて首を振った。


「いや。気にしないでくれ。それにしても———おいしそうに食べるのだな。俺は普段一人で食べているから、なんだか楽しかった」


 ガンターはぼそりと言うと、ちょっと顔を赤くして横を向いた。


「何か気がついたことがあれば、遠慮なく言ってくれ。俺は若いご婦人の好みはよくわからないし、言ってもらったほうがコックもありがたいだろう」


「アリスリンデ様、デザートのご用意があるのですが」


 ノックスが言ったが、アリスリンデはすまなそうに首を振った。


「とても残念なのだけれど、今日は遠慮するわ。疲れたせいか、もうお腹がいっぱいなの」

「お気になさらず。明日、おいしいお菓子をご用意しますね」

「ありがとう」


 ガンターも食事を終えた。


「明日の朝はゆっくりするといい。食事を部屋に運ばせることもできるし。そうだな……話すこともあるから、明日の昼食を一緒に取ろう」

「はい、わかりました」


 アリスリンデが立ち上がると、ガンターも立ち上がって、アリスリンデの椅子を引いてくれた。


「ありがとうございました」


 アリスリンデはドアの前までエスコートをしてくれるガンターにそう言うと、ダイニングルームの入り口で待機していたノアと一緒に部屋に戻った。


***



 辺境生活第一日目がこうして終わった。


 アリスリンデは自分の部屋に戻り、金色の刺繍が施された、淡いベージュのキルトがかけられたベッドに体を入れる。


 翌日はガンターが結婚の詳細について話してくれるだろう。

 早く知りたいような反面、ドキドキして落ちつかない気持ちの自分がいる。


(まずはガンター様のお話を聞いてから考えましょう)


 そうしてアリスリンデはゆっくりと眠りに落ちた。


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