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きみは天性の女優だ!天才だ!と言われ、辺境伯に一年間の契約結婚を申し込まれた悪役令嬢(?)は、輝く貴婦人の星となる☆  作者: 櫻井金貨


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第10話 悪役令嬢と王妃のネックレス(2)

「アリスリンデ!」


 当然のように自分の名前を呼びつける声に、アリスリンデは足を止めた。


 多くの貴族達が集まり、賑やかな王宮の大広間。

 アリスリンデは父にエスコートされて、社交的な挨拶を交わしながら進んでいた。

 夜会は国王の主催となる、正式なもの。

 ほとんどの貴族がそれぞれの家格に応じ、ふさわしい服装をして出席いた。


 アリスリンデの名を呼んで、足早にやってくるのは、セオドア王子だった。

 しばらく連絡がなかったため、内心不安だったアリスリンデは、ほっと息を吐いた。


(よかった……何か、知らないうちに不手際なことをしてしまったかと、すごく心配したもの)


 とはいえ、あのネックレスの件をイングリッド王妃に説明することもできていない。

 アリスリンデが連絡しても、父であるハノーバー伯爵が連絡をしても、王妃からはもちろん、婚約者であるセオドアからも何も返信がなかったからだ。


(大丈夫なのかしら———)


 アリスリンデの中に、そんな不安が生まれている。


「セオドア殿下」


 アリスリンデがカーテシーをすると、セオドアはうなづいた。


「すまなかったね。しばらく立て込んでいて。あなたへの連絡が後々になってしまった」

「お気になさらず。大丈夫ですわ」


 そうは言ったものの、国王主催による夜会である。

 ドレスや装飾品の贈り物がなかったこと、当日の迎えがなかったことは、婚約者への配慮がないと噂されても文句は言えない。


 アリスリンデとしては、苦しいところである。

 しかし。


(今さらだわ。いつもの殿下と、変わらない……)


 自分にそう言い聞かせて、アリスリンデがセオドアを見上げた時だった。

 ふと、セオドアの背後に一人の令嬢が立っているのに気がついた。


(え?)


 華やかな金髪巻き毛を垂らし、どこかで見たような、表情のないグレーの瞳をした令嬢。

 人形のように細い体に、艶やかなピンクグレーのたっぷりとしたフリルのドレスを身につけていた。


(この方は……どこかで。そうだわ、王妃殿下のお茶会で見かけた。どこのご令嬢がわからなくて、不思議に思ったのだった。ううん、その前にも———)


 アリスリンデは、令嬢をじっと見つめた。


(そうだわ。セオドア殿下にご挨拶をして、お茶をご一緒したあと、わたくしと入れ替わりに殿下のお部屋に入って行ったのが、この方だったのでは)


 そう思い出した時、アリスリンデは、ぎょっとして目を見開いた。


 グレーの瞳の令嬢は、その細い首に、大きな涙型のダイヤモンドを中央にあしらった、豪華なネックレスを着けていた。


「あなた……そ、そのネックレス……!」


 もともと少女のようにほっそりとした首もとにかけられた、重厚なネックレスは禍々しいほどに違和感がある。

 思わずアリスリンデが絶句すると、令嬢は不思議そうに頭をかしげ、初めて口を開いた。

 細い金属が鳴るような、どこか耳障りな声だった。


「アリスリンデ様、あなたが仲直りのしるしだと言ってくださったから、着けておりますのに。どうしてそんなお顔をなさるんですか……?」


 アリスリンデはわけがわからなかった。

 このグレーの瞳の令嬢とは、面識がない。いったい、誰なのか。

 言葉を交わしたこともないのだ。

 なのに、仲直りのしるし?


(この方は何を言っているのかしら———)


 思わず前に立っているセオドア王子を見上げると、セオドアは不思議そうにアリスリンデを見つめていた。


「アリスリンデ、彼女はパネラ嬢だろう? 覚えていないの? パネラ・ベルトラン男爵令嬢だ。母上のお茶会でも顔を合わせていると思ったけれどね」


「それは———。たしかに、お見かけはしました。しかし、セオドア殿下。わたくしは、この方……ベルトラン男爵令嬢を紹介されたことはありませんし、直接お話ししたこともありません。それにこのネックレスは、王妃殿下の大切なネックレスでは———」


 アリスリンデがそう言った時だった。

 アリスリンデの背後から、冷ややかな声がした。


「わたくしの、大切な何だと言うのです、アリスリンデ?」


 アリスリンデの心臓が、とくん、と鳴った。

 ゆっくりと振り返り、イングリッド王妃にていねいなカーテシーを行う。


 アリスリンデは困惑した。

 ここはもう、夜会会場だ。

 事情を知らない貴族達が不思議そうにアリスリンデとイングリッド王妃のやりとりを見守っている。


(ここで、話すわけにはいかないわ)


 それに、王妃に「それはわたくしのネックレスではないわ」と言われてしまったら、おしまいだ。


 しかし、そんなアリスリンデの困惑を一気に吹き飛ばすように、パネラが動いた。

 いきなり、パッと首からネックレスを外すと、パネラはイングリッド王妃に駆け寄った。

 その行動に、人々がどよめく。


 パネラは細い手を振り絞って、懸命に訴え始める。


「王妃殿下、大変申し訳ございません……!! わたくし、知らなかったのです。心からお詫びいたします。どんな罰も受けます。このネックレスは、アリスリンデ様から、仲直りのしるしだと言って、受け取りました。まさか……王妃殿下から盗んだものだとは知らず」


 ざわ、と周囲が騒ぎ始めた。


 パネラはあの表情のなかったグレーの瞳を思いきり潤ませて、涙を流している。

 少女のようにきゃしゃな体に、ふわふわとしたドレスをまとったパネラだ。

 何も知らない人々から見れば、幼く、いたいけな令嬢に見えるだろう。


「な……!!」


 アリスリンデをエスコートしているハノーバー伯爵が絶句した。

 人々の視線が、容赦なくアリスリンデとハノーバー伯爵に突き刺さる。


「王妃殿下……! 発言するお許しを」


 かすれ声でなんとかそう言ったアリスリンデを、イングリッド王妃は、ぴしゃりと封じた。


「控えなさい、アリスリンデ」


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