八話「裏アカ女子に混ざる三十代っているよね」
風呂上がり後。はじめてミカエルとそれなりの異世界メシも堪能した田中は、機嫌が良くなっていた。これなら異世界ダンジョンも突破できる。と思う程には。
「今日はもう寝よっか!!!」ミカエルがベッドに入る。田中もベッドに入ったが決して二人には身体の関係なんて無かった。方やイケメン。方やチー牛の凸凹コンビが釣り合うはずも無い。期待しすぎは良くない。
腐女子は男二人が並ぶとどれもBLに見えてしまう生き物だ。ありもしない事実を脳内で永遠に量産してしまうのだから腐女子特有の認知機能でもあるのか知りたい。男二人がそこに存在するだけでまるで連想ゲームのようにタラタラと憧憬が浮かんでしまうらしい。
翌朝。窓から差し込む光。JPOPでよく描写されがちな朝の雰囲気。ミス○ルとかス○ッツとかスキ〇スイッチとかが歌詞にしていそうだ。異世界の太陽は眩しい。田中は目が少し痛くなる。
(ミカエルはまだ寝てるか……)
ミカエルが寝ている。置いていってもこいつは着いてくるので置いていくことは辞めた。田中は朝食を頼み、一人で運ばれてきた朝食を朝の時間を食べ優雅に楽しむ。
(異世界メシ、美味い…)
なんだか大人になった気分だ。そんな事をしていると限界陽キャが突然目を覚ました。
「おはよぉぉぉ田中ぁぁぁぁぁ!!」
いきなり声がデカい。うるさい。目覚めて三秒でそれはない。せっかくの優雅な時間が台無しだ。
「僕も朝ごはーん!!!!」起き上がってすぐ飯の事を考える陰キャの机の周りを数人で囲んでいそうなイケメン。イケメンは全員この世から滅べばいい。それが田中の永遠の願いである。
クラスの一軍系陽キャも遅れて朝食を頼む。イケメンとチー牛が向かい合わせになりながら朝食を楽しむその様子は地獄絵図だろう。現実を真正面から突きつけられているようだ。
「あー美味し!!!」
笑顔になるミカエル。イケメンに笑顔なんて混ぜてはいけない最強の武器だ。もうミカエルがイケメンなのは田中は充分理解している。それでもミカエルは無意識に次々とその無駄なイケメンが映える行動をしてくるのだから恐ろしい。
即効で食べ終わるミカエル。田中も遅れて食事を済ませる。今日のメニューは豆腐ハンバーグ、味噌汁、米。生前の世界と大差が無い食事で田中は安心した。これでカエルやトカゲやセミだったら空腹で死ぬところだった。
「さっそく今日もダンジョン乗り込も!!!今日は戦える気がする!!!」
ミカエルが目を輝かせながら言う。「勇者として成長しなきゃ魔王倒せないよ!!!!色んな勇者が魔王討伐のために頑張ってるのに倒せてないんだから!!!」ニュースでも勇者がダンジョンに行っているとアナウンサーが言っていた。ってことは相当な数の勇者がダンジョンに行っているのだろう。
(そんな数の勇者が戦って勝てないものを俺に押し付けるなよあのジジイ…)
王様への愚痴が浮かぶ田中。「ね!!!!僕と魔王討伐出来たら歴史に名を残すよ!!!僕たちなら絶対出来る!あ~。町の人たちにチヤホヤされる勇者になりたいな~。」ミカエルの妄想話はまるで大した実力も無いのにアイドル志望とかSNSで言っては自分のそこまで綺麗でもない顔を晒す中高生のようなものだった。
「はいはい。ダンジョンな。まだ1-2までしか行けてないんだぞ俺たち…しかも負けてるし」
妄想話を繰り広げるミカエルとは裏腹に、現実的な視点から物事を捉えるチー牛。ミカエルは、「勝てばいいんでしょ????いいんだよね???いいんだわ。」と自己完結する。
「だから負けてんだよ俺たち!!!」
この世界に来てからツッコミ役を永遠にさせられる田中。ここまで家族の以外の人と会話したのは生まれてからはじめてである。
全ての支度を済ませ、勇者管理センターを出た二人は町の商店街を歩いた。「ダンジョンいくよ!!!」と田中の手を引っ張るミカエル。やはり距離感がおかしい男だ。ミカエルと言うのは。そして朝からダンジョンである。ダンジョンって二十四時間営業なのだろうか。一体どういう仕組みなんだ。
1-2。以前二人で倒れた場所に戻ってきた。「またお前たちか」拳銃を使う黒服が二人現れる。そうだ。こいつらにボコボコにされたんだった。
「魔王様は何も悪く無い!!!!!魔王様は何もしてない!!!!私は魔王様を一生推す!!!!」
黒服の一人が最近の朝の番組で自作の一発ギャグを披露し物議を醸したアイドルの盲目オタクのような発言をする。
(誰もまだ何も言ってないって…)
田中は冷静にツッコむが、下手にリプライをしたら鍵垢引用で晒されそうなので辞めた。
黒服はまた分身の術を使う。他に何か無いのか。何も異能がない田中が言うことでは無いが。
(ロッソ・ファン〇ズマじゃん。)
ミカエルはバカなので何も考えず「ファイアー!!!!」とどれが本物か分からないまま炎の矢を放つ。田中はなんのカッコ良さもなく、後ろの方の黒服にただチャンバラのように低レベルで剣を振る。
また負ける。二人で闇雲に戦っても負けるだけ。ダンジョンの中で倒れて、また進めないだけ。二階なんて行ける気がしない。
「うわぁぁぁぁぁ!」
存在がs〇amuの二番煎じは、拳銃を出そうとするもう一人の黒服に剣を振って拳銃を叩き落とすことに成功した。
(やったぁ!!)
焦るもう一人の黒服。分身だけして攻撃をしてこない黒服と戦っていたミカエルは、もう一人の黒服に「ファイアー!!!!」と叫び炎の矢を刺すミカエル。燃えるもう一人の黒服。
分身の黒服は仲間が死んだことに対して焦ってこちら側へやってくる。
「ミカエル危ない…!!!!!」
「田中来ちゃダメ!!!!!」
田中は衝動的にミカエルを庇って前に出る。その瞬間、大きすぎる鍋が「ボフゥ!」パワハラ気質があるブラック企業の社長のように黒服の人生を潰す。
(鍋………?)
奇跡的に無事だった田中とミカエル。なぜか鍋が出現したことに驚く二人。
「やっ…またやっちゃったぁ……」
水瀬い〇りボイスが近くから聞こえる。チー牛は裏垢少女のポストを見てしまった時のように性的興奮を急激に高める。この男は自分のビジュアルの割に気持ち悪いことを考えがちだ。
「ひぃ…ごめんなさい……」
(ついにヒロインか…!?)
田中のテンションが異世界に来てからMAXレベルで上昇する。一体、どんなヒロインなんだろうか!




