七話「ブフォwww」
勇者管理センターは簡単に言えば宿泊施設。という感じだった。どうやら無料で泊まれるらしい。この異世界は良心的だ。勇者に甘い。人の善意を何度受けてきた事か。こんなクラスの三軍にも入らないようなチー牛にも優しい。勇者…だからか。
どうやら自分は勇者の中でも伝説の勇者。という括りにいるらしいことはわかっていた。だが、なんで異能も持たないただの一般人が伝説級の扱いをされるのだろう。田中は不自然だ。と感じた。
勇者管理センターの廊下には、『STOP魔王』『モンスターは人を襲いません』などと書かれたポスターが貼ってあった。
(なんだか特定の政党を推している人が家の塀に貼ってあるやつみたいだな…)
ミカエルはそんな事も気にせず、宿泊施設の廊下を進む。
「ダブルベッドにしたよー!!!!!」
平然と言うミカエルに、田中はキモさを覚える。
「嫌だ!!!!! 一人でも泊まれる!!!!!」
首を横に振り拒絶する田中。ミカエルはニコニコしながら、
「なんで??? なんで??? ダブルベッドだよ??? 田中とダブルベッド! やったね!!」
と宝くじでも当たった時のようにベッドの上を飛び跳ねる。
(こいつ…マジでどうにかしないと俺の身体が危ない!!!)
絶句する田中。ファイアーが使えたら真っ先にこいつを殺す。と心に誓った。普通男二人でダブルベッドなんて取るか。カップルでダンジョン行ってる勇者用だろ。なんだカップルでダンジョン行く勇者って。ダンジョンでイチャイチャするなよそもそもカップルは爆発しろ!
「今日は僕と幸せな夜を過ごそうねー!!!!」
冗談なのか本気なのかわからないミカエルはこちらへ抱き着いてくる。マジでこいつ話が進んでから敵にやられて死亡ENDにならないだろうか。絶対見捨ててやる。と田中は神に誓う。
「俺にそんな趣味は無い!!!!!!」
田中はミカエルを突き放す。なんだこのイケメンは。これが女にモテる基準か。ならば世の中の指標は狂ってる。こんなとっとこ走るよゲイ野郎のどこがいいんだ。少なくとも田中には男と眠るような趣味は無かった。
(なぜ七話にしてヒロインが出てこない!!!!!)
美少女ヒロインの登場に期待する田中。こいつと永遠に二人でダンジョン制覇はごめんだ。だがミカエルがいないと勝てないのは百も承知である。
異世界転生。異世界に行ったら最強の魔法少女とか鎧を着た若き女剣士とかもっと、もっと何か出てくるだろ。田中はパーティーがミカエルしかいない事に不満を持つ。
「田中!!!! 僕たち友達だよね!!!!!」
満面の笑顔で問うミカエル。
「違うよ、そういう契約交わしてないじゃない」
はっきり言い返す田中。ミカエルは、
「やだぁぁぁ!!! 僕と田中は友達ぃぃぃ!!!」
と叫ぶ。声量がうるさ過ぎて耳を塞ぐチー牛。
「一緒にテレビ見よ!!!」
ミカエルがテレビを付ける。異世界の番組か。それは確かに興味がある。ミカエルが付けた番組は、ニュースだった。この異世界で何が起きているのかわからない田中は、少しばかりテレビに注目する。
『悪の大魔王によるモンスターを追い払おうとする運動は今現在も続いています。魔王軍が定期的に出現するダンジョンでは、今も勇者による討伐作戦が続いています。』
ニュースキャスターが大事そうなことを読み上げる。だが田中は白けた顔をする。そのニュースを聞いたミカエルは、
「田中!!!!!!! 魔王軍絶対倒そうね!!! 僕たちで倒さなきゃダメだね!!!!」
とやる気になる。
(マジでどうでもいい…)
今日はもう風呂に入って寝たい。田中はダンジョンクリアなんて一切頭に無かった。大好きな音ゲーが出来ない。それだけで田中にはストレスが溜まっていた。この異世界にはアイドル系音ゲーもスマホも存在しないというのか。それも当然か。勇者連中はダンジョンに夢中なんだから需要も無い。
「魔王ってそんなに倒さなきゃいけない存在なの?」
田中が問うと、ミカエルは、
「ぇえ!!!?」
と大きな声を上げる。
「だって悪さをするんだよ!? 一切人を襲わず、みんなと一緒に暮らしてるモンスターを追い払おうとするんだよ!? そんな悪い事、僕たち勇者が止めなくてどうするの!?」
田中はどうでもいいと思ったが言うのは辞めといた。
「はぁ、わかったわかった。」
とりあえずミカエルを宥める。ミカエルは、
「田中ってすこし変わってるよね。」
と言った。
(そりゃもちろんチー牛ですから。)
これでミカエルも少し距離を置いてくれるだろう。それで構わない。むしろミカエルと離れたいとすら田中は感じる。陽キャとは思考回路が一切合わない。そうだよミカエル。田中とミカエルは相容れない存在なんだ。やっとわかったか。
だがしかし!!!!!!!
ミカエルは諦めるような男では無かった!
田中はミカエルのことなめていた!!!!!!
「めちゃくちゃ田中のこと知りたくなったかも!!!!!」
むしろこちらへ興味を持つミカエル。これだけ突き放しているのにこいつは本当のバカだ!!!!! バカである!!!! 意味がわからない!! 何故だ!!!! 何故ミカエルはこんな凡人に興味を持つ!!
「…そうか。風呂入ってくる」
ミカエルに伝えては宣言通り風呂場へ向かう。
「もう!!!!!」
ミカエルは田中がいなくなった背中に向かって叫んだ。
異世界転生…恐るべし。陽キャ…恐るべし。油断したらBLに巻き込まれそうだ。友達になれそうとも一瞬過ぎったが誰よりも考え方が捻くれていてコミュニケーションが苦手な田中には到底難しい事だった。
シャワーを浴びる田中。そろそろ美少女ヒロインが欲しい。ミカエル以外の仲間が欲しい。こいつと二人きりなんて無理だ。無理である。
(新キャラをそろそろ出してくれ!!!!!)




