四話「ミカエルx田中を推せ!ミカタナだ!」
頭を負傷した田中はミカエルによって診療所に連れて行かれる。
診療所は濃い消毒の匂いがした。照明は白く、生前自分が住んでいた部屋を彷彿とさせる。
(知らない天井だ…)
せっかくの類似状況なので心の中で呟いておく田中。
診療所ってほど大袈裟な怪我でも無いと思うが、ミカエルは心配でいまにも泣きそうな表情を浮かべている。
嗚呼、嫌いだ嫌いだ。こういう、いい子です!を全面に押し出してくる人間は。田中はそんな嫌な人間が考えることに思考を巡らせる時間を使っていた。
「勇者くんそろそろ名前教えてよ!!!!」
ミカエルが田中に近づき問いかける。「いまあまり近づかない方が!」と看護師が止めるが、そんな事はミカエルは気にしない。「ねぇ名前教えて!!!!!」ミカエルはベッドに座り込んでまで田中の手を取った。
「僕ミカエルだよ、炎の能力が使えるの!凄くない!?」
自慢口調のミカエルに、田中はやってられない。と感じた。こんなやつに絡まれることは前世ではあまり無かった為にどう対処すべきかもわからない。「す、すごいね…」とりあえず褒めた。選択肢はこれで良かったのだろうか。
「中々名前教えてくれないから勘で言うね!!!クリストファー!!!」
田中に指をさしながら言うミカエル。田中のどこがクリストファー面なんだろうか。どちらかと言えば拳面だ。クラスの三軍にも入らない、名前すら忘れられるほどの陰キャで底辺だ。
「たなか…です」
自分の苗字の普通さになんだか恥ずかしくなってしまう。ミカエルは、「た、な、か?」と首を傾げる。そりゃこんな反応だよ。
「聞きなれない名前だね」
と笑うミカエル。そうか。ここではこの名前も異質になるんだろう。田中大智。どこにでも存在するたった一人のチー牛に過ぎないのに。
異世界が異質だ。と田中は思っていたが、よくよく考えると異世界側からしたら田中のほうが異質なのだ。突然現れたLv1の勇者。ミカエルみたいにイケメンなわけでも、異世界人として戦える訳でもない。
むしろどちらかというと田中大智はブスと呼ばれるほうの生物で、俺tueee系では無い。せっかく異世界に来るんだったら、チートスキルの一つや二つ、持っていたかった。なんでこんなファンタジー設定でありながらアバターが田中のままなんだ。神様。いてこますぞ。山田○貴似の美青年にしろ。
ミカエルの「聞きなれない名前だね」という言葉には、「ミカエルのほうがよっぽど聞きなれないけどな。」と言い返す。ミカエル。なんだっけ。天使だっけ。悪魔だっけ。なんかそんな感じだったような。田中は聞いたことある設定を思い返す。
「ミカエルが聞きなれない???田中は他の国から来た勇者なの????」
と純粋な疑問をチー牛にぶつけるミカエル。他の国どころか他の世界線から来てます。と返事したかったが、それを言ってしまった後、支障が出るのが怖かったため田中は「ま、まあ遠い国から来た…」程度に濁した。
「大変だったでしょ!!!」
と大袈裟に飛びつくミカエルと、田中は「いや、そうでもないよ、本当に、」と距離を置く。「だってダンジョンで倒れてたじゃん!!!!大変だったんだよ!!!!」
(なんだその大変さの押し付けは。大変かどうかはこっちが決める事なんだよ。)
田中は心の中で愚痴りつつ、吐き出すのは避けておく。ミカエルの善意は偽善なのか本心なのかよくわからない。陽キャはこれだから分かり合えない。
「うーん、まぁ、大変だったんだろうね」
自分の事なのにどこか他人事のように答える。
(悪いがイケメン。こっちはお前とは生きてる世界が違うんだ。お前みたいに綺麗な顔してたら声優なんていつでも抱けるだろ)
こういう考えに至ってしまうのが人と関わりの無いチー牛の気持ち悪いところである。これを読んでるお前らも人を笑っている場合では無い。まずは自分の言動と行動を見つめ直せ。SNSでのお前らが気持ち悪いと言うことを自覚しろ。この言葉に不快感を覚えるならそれはお前らがチー牛であると証明しているようなものである。
「ねぇ、田中。今日はゆっくり休んで?また明日ダンジョンに行こう!!!」
またダンジョンに行かせる気か。あんなにデ○キシス並に素早いのに剣一個で戦えるはずがない。
というかなんでこの世界はスライムとかが人間と共生していて、ダンジョンで戦う相手が怪しげな黒ずくめの男たちなんだ。おかしいだろ。異世界転生っていうより少年探偵漫画の変なクロスオーバーみたいな世界観だよ。
支部で小学校高学年女子とかが書いたらこんな感じになりそう。ひょっとしてあいつら集○社とかバンダイナ○コとかの偉い人たちか??なんだかどこかの作品で黒服の人たちが来るって言われていたような。嗚呼、おそロシア。
ダンジョンに行こうと目を輝かせるミカエルを前に、田中は「ダンジョン行かないってアリ????」とミカエルに問う。予想外の問いかけに、ミカエルは「魔王軍から国救う気無いの!!?」とめちゃくちゃ驚く。こんなに驚くことかこれ。と田中は思う。
「いや頭踏まれて痛かったし行きたくない、もう雰囲気だけ楽しんでこの国で普通に働きたい。なんだよ勇者って。武器商人とかでいいよ」
突如飛ばされた異国の地で現実的なセリフを発する十四歳。
ミカエルは、ベッドに横になる田中の胸ぐらを振る。「ダメだよ!!!魔王軍倒さないと平和な世界来ないんだよ!?王様泣いちゃうよ!?僕が一緒についていくから魔王討伐行こうよ!!!」相変わらずAボタンしか選択肢がない田中。
(ノンプレイヤーキャラクター、まだまともなやつに会ってないんだが…)
田中はこの世界の狂気に圧倒される。どこに行っても自分は相変わらず雑魚キャラでしかないが。
(にしても疲れた。もう眠りたい…)
魔王討伐しか頭に無さそうなミカエルに、田中は「まぁ考えとくよ……」とやる気のなさを見せた。
もう体力が限界なのか自然と視界がボヤけて眠くなる田中。
結局死ぬまで友達出来たこと無かったな。なんて考えながら夢と現実の狭間に誘われる。そのまま田中は次第に夢の中へと溶けていった…。




