三話 「1-1で倒れたけど質問ある?」
田中大智十四歳。いざダンジョンへ参る。完全に調子に乗ってたった一人でダンジョンに向かうバカ、田中。
ダンジョンは何だかんだ勇者が勝って生き残るため、田中はどれだけ危険な場所か、いまいちわかっていなかった。Lv1の中学生が一人で異能もなしにダンジョンに向かうのは当然、バカ以外の何者でも無い。
田中がバカじゃないなら、きっとこの世にバカという概念は誕生しない。このチー牛は生きてるだけで怪しい団体から目をつけられ生贄にされる事だろう。
ダンジョンを進む伝説の勇者(素人)。心が弾んで歌まで口ずさむ。ダンジョン内はなんだか暗く、魔王でも本当に出てきそうな雰囲気だ。
(敵…来ないな…)
そう心の中で呟いた田中の背後からいきなり黒ずくめの男たちが襲いかかる。黒ずくめの男たちは少年探偵漫画というよりはどちらかというと8チャンネルの芸能人らが逃げ回るが実際はカメラマンで隠れてる場所がわかると言われているあの番組の追いかける側に似た風貌だ。
「がはっ!!!!」
田中は黒ずくめの男たちの怪しげな周回現場を目撃してしまったが為にやられる。剣を持っていたにも関わらず一発で身体が床に叩きつけられる。
お願い死なないで田中大智!あんたがいまここで倒れたら老害ジジイとの約束はどうなっちゃうの?ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、黒ずくめの男たちに勝てるんだから!
次回「田中大智 死す」デュ○ルスタンバイ!!!!!!!
(とか考えている場合じゃなかった。まずは立ち上がらなければ。勇者は何度でも立ち上がる。諦めないのが勇者…あれ?身体動かない。え?)
田中は自分の非力さを痛感する。今朝まで普通の中学生だった田中にいきなり勇者なんて出来るはずがない。
黒ずくめの男たちはさらに田中をボコボコに踏んづける。まるでこんなの敵じゃない、と言っているかのように。
挫折ばかりしてきた人生だったけど、異世界に来てまで挫折を味わうなんて田中は思っても見なかった。雑魚な敵が現れて、レベルアップしていくのがダンジョンだと思ってたから。
プレイヤーは何をしてるんだよ、なんて愚痴を吐きたくなるがこの場合のプレイヤーは自分自身である。頭を踏まれる痛みなんてあまり味わった事がない。この痛みに匹敵するのは、車に轢かれた痛みぐらいだ。
「ぐぅ…」
田中は呻き声を上げた。田中がそこら辺の石のように動かなくなると、黒ずくめの男たちは背中を見せる。
(ステージ1だぞ、最初の最初だぞ、負けるのかよ…)
理想だけ頭にあった田中は、その現実とのギャップに心を刺される。
異世界生活もそう簡単じゃない事を思い知った。田中はステージ1の雑魚にやられたことになる。どれだけ弱いんだ。チー牛は何の役にも立たないからいつまで経ってもチー牛なんだ。せいぜい親の靴裏でも磨いていろ。
数時間後。「あー!!!!!死んでる!!!!」とダンジョンにキャンキャンした声が響く。うるさい。何事だ。田中はそのせいで俳優の如く死んだフリに徹していたのに目を覚ました。
「生きてる!?ねぇ息してる!?呼吸ある!?人工呼吸キッスする!?」
様子のおかしい中島○人のような雰囲気を纏った田中が一番苦手なタイプの陽キャ王子様系男子が絡んでくる。
(キスは勘弁してくれ…)
田中はアクシデントでも男となんてキスをしないと心に誓った。陽キャ王子様系男子は、クイッとやらしい手つきで田中の服を捲る。
「ちょっと辞めてくれない?」
起き上がるチー牛。まるでボーイズラブのシチュエーションだが片方の顔は完全にチー牛である。拳で戦う二十一歳に少々似た顔立ちかもしれない。
「おはよう、君も勇者でしょ?」
だが陽キャ王子様系男子は顔をグイッと近づけて田中に接近する。田中は純粋にこいつ距離の詰め方を知らないやつだ、と思った。陽キャ王子様系男子は、「僕はミカエル!!!炎の勇者だよ!!!」と微笑む。嗚呼、女にモテそうだ。腹が立つ。田中とは天と地の差。月とすっぽん。安藤な○と前田○子ぐらい違う。こいつとは合わない。
「帰る…」
立ち上がる田中を「だめだめだめだめ」と止めるミカエル。ミカエルは「頭怪我してるよ!!!!」と田中の額を容赦なく触る。距離を置こうとしてもボディタッチがやけに多い男で田中は困ってしまう。
(そういう趣味はないんだけどな…)
だが助けて貰えた事には礼を言っておくべきだろう。
「助けてくれて、ありがとう」
素直にミカエルに言うと、ミカエルは「うわぁぁぁぁ!!!!人助けした甲斐があったよ!ありがとうって言葉聞けるなんて!!」と感激する。
「パーティーにならない???」
勘違い陽キャクソ野郎は田中に向かって握手を求める。田中はまた、されるがままに握手してしまう。
(え???俺こいつと組むの???嫌なんだけど)
呆然としてるうちにミカエルと組むことが怒涛の勢いで決まってしまった田中は、寝ている間に学級委員長になることが決まってしまった誰かを思い出した。生前、そんなやつもいたな。なんて思い出す。
ミカエルは、「よろしく!!!勇者くん!!!」なんてアイドルの握手会で短時間じゃ愛を伝えきれないオタクのように手をブンブンと振った。
(俺本当にこいつとやっていくのか…)
どうしてもリア充と言う幸せそうな生き物は田中は受けいれる事が出来なかった。なぜならやつらは人生の大半が順調なくせに、その上幸せになるための努力まで出来る。
明らかに幸せそうな人やそれに準ずる者は田中は嫌いだった。恋愛ドラマだって、トントン拍子で安っぽい言葉吐いて付き合うだけで終わり。それなら子宮が恋したり不倫したり殺されたりする話の方が好きだった。
ミカエルはそんな田中の気も知らないで、「二人きりでランデブーだね~!!!」と同性愛者代表のようなセリフを吐く。
(うげぇ)
田中は彼を受け付けることがどうしても出来なかった。だが握手を交わしてしまったからには契約は成立したも同然だ。
ミカエルは田中をお姫様抱っこする。田中は「ちょ、ちょっと!!!」とバタバタ暴れるがこいつも肥満クソジジイと同じで話が通じない。
(この世界に、この世界にまともに会話出来るやつはいないのか!!?)
ミカエルは、「ゆっくり休もうね~勇者くん~」とダンジョンを抜け、田中を抱えたまま町中を走り抜ける。距離感




