十五話「江戸走り界隈」
翌朝。食事を済ませた一同はダンジョンに向かうため町を歩く。
「勇者たち~がんばれ~」
町の人々から歓声を受ける三人と一匹。
喜んだスライムはぴょんぴょん飛び跳ねる。
「ええな~勇者に同行するだけでチヤホヤされて」
スライムは嬉しそうな表情を浮かべる。田中は、
「負けてるんだよスラみざわ」
とスライムを変な風に呼んだ。
「ワイの名前はマサハル・フクヤマ言うてるやろ!」
と怒るスライム。
そんなスライムを見て、リリア、ミカエルは「うふふ、」と笑う。
「笑うなやああああ!」
とキレるスライムだったが、リリアに
「マスコットは大人しくしときなさい」
と言われショボンとした表情に変化する。
「パタロッパリアマティーロ!」
町行く少年に魔法をかける真似をされる田中。
「え、う、うわぁ~」
一応驚くフリで応えるが、
「他の勇者はもっといい反応したぞ!」
と去り際に言われてしまう。クソガキは惑星共通らしい。田中はくそくらえと思った。
ストリートピアノを弾く女性、屋台で装備や武器を売る商人。
この町の雰囲気はゲームみたいで、なんだか居心地がいい。その上、(みんな俺のこと気にかけてくれる…)これは生前の世界では有り得ないことだった。友達も、田中には会話相手すらいなかった事だし。
と、言うわけでダンジョンにやってきた一同。
2-3のステージに辿り着くと、スライムは発光しながら
「はよ隅っこ行けやお前ら!」
と三人に叫んだ。
三人は隅に集まる。浮遊しながら
「また踊りに来たの~?」
と三人を煽る黒服。
「レッツダーンス!」
とキツネダンスのBGMを流すが、射程距離に入っていない三人には一切効果が無い。自然とリズムに乗ってしまうぐらいだ。
ミカエルは、空中に向かって
「ファイアーーーー!」
と叫び、炎の渦を黒服に放つ。
黒服は「熱い熱い熱い!」と叫びながら爆音のBGMと共に浮遊を続ける。
「よし!攻撃が聞いてる!」
喜ぶミカエル。
「それに相手は攻撃を一切せえへん、どうやら射程範囲変える能力も持ってないみたいや!つまり、ここにいる限り無敵やで!やったれー!」
ぴょんぴょん跳ねるスライム。
「エッグマシンガン!」
空中に出現させた無数のマシンガンから大量の生卵を放出するリリア。
「きゃあああああ!」
衝撃で浮遊状態から落下する黒服。黒服は自分がダンスモードに入ってしまう。体力を削られる黒服。
剣を持って近づけば自分も踊ってしまうため、田中は完全に傍観者となる。
「ファイアー!」
トドメを刺そうと、手から火炎放射を放つミカエル。
黒服は、
「バッカルコーン!」
と叫びながら焼き払われる。
「やったあ!」
ハイタッチする三人。スライムは嬉しそうに飛び跳ねる。
そして2-4のステージへ続く扉が開くとともに進んでいく三人と一匹。
「次の奴はめっちゃ逃げ足早いで…」
と震えるスライム。
リリアは「逃げ足?」と首を傾げた。
2-4のステージにたどり着くと、黒い甚平を着た少女がそこにいた。
「次の相手ぁこのあたしだよ。おめえらにゃ、もう生き延びる道ァ残っちゃいねぇ!」
少女は歌舞伎のようなポーズと共に三人と一匹を出迎える。
「ファイアーーー!」
考えるより先に殴るミカエルだが、少女は風になったかのように江戸走りでダンジョンステージを駆け抜ける。広○涼子も目ん玉をひんむくほどの速度だ。
「はっや!」
驚くミカエル。
闇雲に攻撃しているだけでは当たらないのも当然。
スライムは発光しながら
「あかんあかん!こいつはほんまに倒せへん!」
と悲観的になる。
「大丈夫!」
とスライムに言ったあと、リリアは
「オーイル!」
と叫び油を床へぶちまけた。
引っかかった少女は少しスピードが落ちるがまだまだおかしいと言っていいほどには速い。
「ダメ…早すぎる!」
これにはリリアもお手上げ状態。
リリアの油のせで田中のような凡人が至近距離に近づくのも難しい。
「まずはこいつの動きを止めなあかん!」
と叫ぶスライム。
「うりゃっと!」
少女は江戸走りで行ったり来たりしながら一同を煽り散らかす。
「任せて!ビッグバターロールパン!」
大きいロールパンを出現させ移動範囲を狭くさせるリリア。
あまりのパンの大きさに敵が見えなくなる。これには松たか○にも衝撃が走るだろう。
見えない場所でも江戸走りを繰り返す少女。
「そりゃい!そりゃい!」
それでも少女の声だけは立派に聞こえてくる。
(魔王軍のエンタメ性が高すぎる)
田中はこの状況でも冷静にツッコミを入れた。
「ファイアー!」
手から火炎放射を放つミカエル。
パンが燃えると同時に、
「きゃああああ!」
と少女も燃えてしまう。
少女が焼け焦げた場所に、アイテムが落ちる。
田中はそのアイテムを拾った。アイテムはきんのたまだった。
「やったあ!」
喜ぶミカエル。
恐らく次が二階最後の黒服。どんな奴が出て来てもこのダンジョンは負けられない。
2-5のステージにたどり着く三人と一匹。
そこは廊下よりも可愛いもので溢れた内装だった。
リリアは思わず「可愛い~!」と内装に夢中になる。
2-5のステージで待ち構えていたのはなんと黒いワンピースの魔法少女。
「こんにちは!魔王様のお使いです!」
挨拶する魔法少女に、リリアは
「あなたまさか…マウンテンちゃん?」
と問いかける。
マウンテンは、「はい!」とお辞儀をする。
「知り合い?」
ミカエルが問うと、
「うん…魔法少女学校で一緒だったんだけど…マウンテンちゃんがッ八歳でタバコ吸っちゃって退学になってからは一回も会ってなかったんだけどね…」
とリリアは答えた。
(なんだそのジャニー○の脱退理由みたいな退学エピソード。っていうか八歳でタバコ!?)
田中は驚きを隠せない。
「そんな野蛮な子ならわからせないとダメだね」
と戦闘態勢に入るミカエル。
「わからせる?私をわからせるなんて百年早いわよ!」
スライムが
「こいつめっさ強いで!」
と飛び跳ねる。
「じめーーーーん!」
と叫んだマウンテン。
すると、可愛い内装からは一変、舞台は断崖絶壁の異空間へと変貌する。
「うわあああああ!」
パニックになる一同。
「そうだったわ…あなたの魔法は地面を自由に操れる魔法!」
リリアがマウンテンに言うと、マウンテンは
「この足場の悪い中あなたたちはどう戦うの?」
とリリアを煽る。
(やばい、なんか女の戦いはじまったんだけど)
田中は醜い女の争いに戦慄する。
「ファイアー!」
ミカエルは炎を放とうとするが、いつもの如く巻き添えになってしまうので攻撃するのを躊躇う。
「大丈夫よミカエル!」
数年前唐突に日めくりカレンダーに手を出したノ○スタイルの黒いほうぐらいポジティブなリリア。
いや、この状況はどうあがいても大丈夫ではない。と田中は思ったが、
「キッチンカモーン!」
と叫び、空間ごと調理場にしてしまう。
「なぬ!?」
と驚くマウンテン。
「私の究極の魔法!キッチン!この魔法はねえ、キッチンにいる間味方の攻撃力を限界まで高める上に敵の技を半減にすることが出来るの!」
リリアの解説に、マウンテンは
「お前!いつの間にそんな技を身につけた!私の知るお前はもっと弱かったはずだ!」
と認めようとしない。
(なんだこの魔法少女同士の戦いは。ニチ○サかよ…)
呆れる田中とは裏腹に、
「がんばえー!魔法少女ー!」
と応援するミカエル。
「ミカエルがトドメ刺すの!」
とリリアが怒る。
「えっ!僕ぅ!」
と間抜けな声を出すミカエル。
「野郎一匹に何が出来る!」
マウンテンは何もできないくせに煽る。
「誰が野郎一匹だって?」
と目をキリッとさせるミカエル。
「ファイアー!」
と叫び、空中から無数の炎の玉を出現させる。
そしてマウンテンのほうへ一気に放つ。
「っきゃあああああああ!」
悲鳴を上げるマウンテン。
マウンテンは焼け焦げ、その場に倒れてしまう。
「ラスボスも大したことないわね」
冷めた目を向けるリリア。リリアは忘れずにアイテムを拾う。
そのアイテムがなにかまではまだわからない。
「リリアはーん、ミカエルー、かっこよかったでー!」
とぴょんぴょん飛び跳ねるスライム。
(アレ?俺だけ不利じゃね)
田中は思った。
しばらくすると三階へ向かうための階段が現れる。三人と一匹はその階段を進んだ。
三階はなんだか床が滑る。
「氷だ…」
田中が呟くと、リリアも
「なんだか寒い…」
と肩を震わせた。
ミカエルは手から炎を出現させ周りを温める。
3-1のステージに行くと、二体の黒服が現れた。
「次の相手は独特なやっちゃ……」
発光しながら言うスライム。
「どうも」
会釈する男の黒服。
「よろしゅうおたの申しますえ」
正座になる女の黒服。
女の黒服は、
「ほなお茶」
と男の黒服に茶を入れる。
男の黒服は「ありがとう」と礼を言いお茶を受け取った。
優雅に茶を飲む二人。
「ほな、よしなに」
黒服の女は一同に笑顔を向けた。
「は、はぁ…」
そんな黒服に一同は混乱するのだった。




