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メンタルつよつよ令嬢ハルカはガリガリ王子をふくふくに育てたい!  作者: ふくまる
第4章:ふくふくの花を咲かせましょう 

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プロローグ:生きていた従兄弟

大変長らくお待たせいたしました!

本日より、第4章スタートします!!!


どうぞよろしくお願いします╰(*´︶`*)╯♡

 その日、クラウゼン子爵家の現当主ヴァルター・クラウゼンは、久しぶりに家族で囲む夕食の時間を楽しみにしていた。ここ三日ほどは仕事に追われ、晩餐に間に合わない日が続いていたが、この日はようやく定時に上がることができたのだ。王宮での勤めを終えると、早々に王都のタウンハウスへ帰宅し、身支度を整えると食堂へ向かった。

 


 黄色い燭台の灯りが食卓をやわらかく照らす食堂には、すでに妻エルゼが席に着いていた。ほどなくして娘のアデルも現れ、向かいの席に腰を下ろすと、「今日はお父様もご一緒なんですね」と嬉しそうに微笑む。長男オスカーからは少し遅れるとの連絡が入っており、彼の椅子だけがぽつりと空いたままだった。取り立てて変わったことのない、いつも通りの夜——そのはずだった。



 バタン、と扉が勢いよく開いたのは、スープが運ばれてきた直後のことだった。


「父上!」


 息を切らしてオスカーが飛び込んでくる。

 そのただならない表情に、食卓の全員が顔を上げる。


「どうした、オスカー。そんなに慌てて。貴族たるもの、どんなに慌てていても優雅な振る舞いを心がけ——」


「父上、聞いてください!ヒルベルトを見つけました!」


 スープの皿が、わずかに揺れた。


 ヴァルターは微動だにしなかった。ただ、唇のあたりの筋肉だけが、ほんの一瞬、かたくなった。


「……何を言っている」


「今日、王宮の中庭でアーサー王子殿下の従者が模擬戦をしていまして。その中に……あれは、間違いなく、ヒルベルトです!背も伸びていたし、顔つきは変わりましたが、風魔法の使い方、剣の軌跡ー共に訓練していた私にはわかります。昔から見てきた動きです。父上、あれはヒルベルトです!良かった、生きていたんだ、無事だったんだ!」


 アデルが椅子から立ち上がった。


「まあ!本当ですの?お兄さま!良かった、ご無事だったのですね!!」


 震えた声だった。その目に、みるみる涙が浮かぶ。「レオもーレオナルドもご一緒でしたか?」とオスカーに縋るように問い、オスカーが「それは確認できなかったが……ヒルベルトが生きていたなら、レオナルドも一緒にいる可能性は高い!」と力強く頷く。


 兄妹はそうして、食卓のことなど忘れて喋り続けた。


 エルゼは黙っていた。


 スープにも、パンにも、視線を落とすこともなく、ただ夫の顔を、静かに見ていた。


「……そうか。無事だったか」


 ヴァルターが口を開いたのは、しばらく経ってからのことだった。


 穏やかな声だった。安堵した父親の声だった。


 口の端に、ゆっくりと笑みが滲む。


「良かった」


 その笑みを、エルゼは見ていた。ただ黙って、横から見ていた。


「父上!」オスカーが前のめりになる。「早速ヒルベルトに連絡をしましょう!家督を譲る手続きを——本来ならばヒルベルトが継ぐべきものです。私は最初からそう思っていました!父上も——」


「待て、オスカー」


 ヴァルターが静かに手を上げた。


「逸るな。まずは落ち着いて考えろ」


「ですが……」


「その青年が本当にヒルベルトかどうか、まだ確かめたわけではないだろう。似た男というだけで動けば、かえって恥をかくことになる」


 オスカーが口惜しそうに唇を結ぶ。それを横目に、ヴァルターは静かに続けた。


「仮に当人だったとしてーアーサー王子殿下の従者ということは、オンタリオ辺境伯家の関係者のはずだ。既に他家に仕えている身ならば、軽率に接触することで先方に迷惑をかけるかもしれない。正式な手順というものがある」


「……それは、そうですが」


「それに、向こうがどういう事情でそこにいるのかも分からない。突然現れた遠縁の者に家督の話を持ち出されて、困るのはヒルベルト自身だろう」


 もっともな言葉だった。


 オスカーは渋々と「……わかりました」と肩を落とし、アデルも「お父様の言う通りかもしれないですね」と席に戻った。


 エルゼは何も言わなかった。


 ただ、静かに夫と子供たちを見つめていた。



◇◇◇



 その夜、子供たちが部屋に引き上げてから、ヴァルターは私室に一人こもった。


 蝋燭を一本だけ灯し、椅子を引いて腰を下ろす。


 机の上には何もない。


 静かだった。


 (まさか)


 生きていたとは。しかも、あのオンタリオ辺境伯家に拾われ、第二王子の侍従として。


 兄夫婦の馬車事故から、もう7年。ヒルベルトが表舞台に出てこないのをいいことに、ヴァルターはクラウゼン子爵家を手中に収めていた。息子のオスカーは王宮の文官として務めを果たし、娘のアデルは貴族令嬢として穏やかに育った。誰も、何も、疑いはしなかった。


 (それが)


 ゆっくりと、指先が机の端に触れる。


 オンタリオ辺境伯家といえば、武に秀で、魔物由来製品のみならず、近年では酒や調味料といった特産品の開発により領地も潤っていると聞く。そういえば、塩の件でソルティス侯爵家と揉めているという話が王宮内に流れていたな。いや、それ以前に王宮内での覇権争いが最初だったか——そうか、その時の「忘れられた王子」が第二王子アーサーで、その侍従となったのがヒルベルトか。そしてその王子を庇護し、後ろ盾となったのがオンタリオ家だったな。


 一つ一つの事実を頭の中で並べながら、ヴァルターはゆっくりと立ち上がった。


 棚から羊皮紙を一枚取り出す。


 ペンを手に取る。


 宛先は、ソルティス侯爵邸。


(今更家督は譲れん——オンタリオ家に出てこられては面倒だ)


 敵の敵は味方とはよく言ったもの……向こうもまた、オンタリオ家を快く思ってはいまい。

 暫しオンタリオには大人しくしていてもらわねば……。


 (まずは情報収集だ)


 ペンが走り始めた。


 隣室でエルゼが寝返りを打つ気配がした。


 ヴァルターは気にしなかった。


 蝋燭の炎だけが、薄暗い部屋の中、静かに揺れていた。

♦︎♦︎♦︎新登場人物紹介♦︎♦︎♦︎

ヴァルター・クラウゼン:クラウゼン子爵家・現当主 ヒロとレオの叔父

マルガ・クラウゼン:クラウゼン子爵家・現当主夫人 ヒロとレオの叔母

オスカー・クラウゼン:ヴァルターの長男 ヒロとレオの従兄

アデル・クラウゼン:ヴァルターの長女 ヒロとレオの従妹


次回は少し大きくなったハルカの妹(双子たち)が登場します!

明日、12時10分ごろ公開の予定です。

是非、続きも読みにいらしてくださいね☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆

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