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メンタルつよつよ令嬢ハルカはガリガリ王子をふくふくに育てたい!  作者: ふくまる
第3章:ふくふくの根を張りましょう 〜才能開花と責任の自覚〜

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第44話:英雄たちの宴

あけましておめでとうございます。

新年最初のお話、楽しんでいただければ幸いです。

本年もどうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m

製塩所の見学を終え、夕刻前に屋敷へ戻ると、応接間がいつもより賑やかだった。


「おお、帰ってきたか」


そう言って立ち上がったのは、深緑の瞳を持つ、精悍な顔立ちの男性だった。


年齢は四十代半ばくらいだろうか。

引き締まった体つきと、鋭い眼光。

それでいて、どこか柔らかな雰囲気を纏っている。


「エドガー……!」


お祖父様が懐かしさに声を震わせ、目を細めて駆け寄った。


それもそのはず。

目の前の彼は、あの『ドラゴンと騎士』にも登場する生きた英雄の一人、エドガー・ヒューロン前子爵だったのだから。


アルヴィン様、お祖父様、ヒューロン前子爵、そしてエレノア様。

あの本のモデルとなった登場人物たちが一堂に会している光景は、実に圧巻だった。


「皆で一緒に夕食をと思ってな、声をかけておいたんだ」


アルヴィン様がそう言って笑う。


アーサーは完全に舞い上がっていた。

何度も本を読み返しては、ここが好きだ、あの場面が熱いんだと語っていた登場人物たちが、今、目の前に勢ぞろいしているのだから無理もない。



◇◇◇



夕食の席は、最初から最後まで笑い声が絶えなかった。

テーブルの中央に並んだのは、色とりどりの豪華な海鮮料理の数々。

その中でも、ひときわアーサーの視線を集めていたのが——。


「……これ、生……ですか?」


恐る恐る皿を覗き込むアーサーの前には、薄く切られた魚の身が美しく並んでいた。


「そうよ。ハルカ嬢にどうしても食べてみたいからってお願いされてね」


エレノア様が楽しそうに笑う。


——大アサリに続くハルカリクエスト、その二。

"新鮮な魚があるなら、刺身にしてください"。


前世の食文化をそのまま持ち込むのは難しいけれど、素材と技術が揃えば、意外と通じるものもある。


「最初は私も驚いたが……」


アルヴィン様がそう言って、醤油皿にそっと身を浸す。


「これに、この黒い液体を少しつけてだな……」


一口。

次の瞬間、彼の眉がわずかに上がった。


「……うん、うまい!」


その反応に、アーサーが息を呑む。


「思ったより、ずっと食べやすい。臭みもないし、素材の味がはっきりしている」

「でしょう? 私はこのままお醤油で食べるのが一番好きですけど……」


私はそう言ってから、少しだけ身を乗り出す。


「お醤油に慣れない方は、オリーブオイルと柑橘系の果汁を少しだけかけてもいいですし、お塩を少しつけていただいても美味しいですよ」


「なに?」

「それは試してみたいな」


好奇心旺盛な大人たちによって、即席の"味変大会"が始まった。


「おお! 我が領の塩とも抜群に相性がいいな!」

「うむ。この刺身は澄み酒とも合うぞ!」

「私はオリーブオイルと果汁をつけていただくのが好みだわ。白ワインとも合いますよ」


最初はおっかなびっくりだったアーサーも、気づけば箸が止まらなくなっている。


「……生魚、意外と美味しい……」


その様子を、皆が微笑ましそうに見守っていた。



◇◇◇



食事が進むにつれ、話題は自然に昔話へと移っていった。


パーティ時代の失敗談。

命からがら逃げ帰った洞窟。

無茶をして仲間に叱られた話。


そして——。


「ドラゴン討伐の話を聞かせてください!」


キラキラした瞳のアーサーの願いに、アルヴィン様が愉快そうに笑いながら話してくれた。


「ははは! そう言えば、アーサーは『ドラゴンと騎士』のファンだと言っていたな」 


そう言って話してくれたのは『ドラゴンと騎士』の裏話だった。

アルヴィン様曰く、ドラゴンの恐ろしさを後の世の人々が忘れないために物語として書き残したとのことだった。


「あの時は運良く倒せたが、また同じことが起こった時、あのように上手くいくとは限らんからな」


あの恐ろしさを後世に伝え続け、備えてもらうには、大人だけではなく、子供にも知っていてもらう必要があると思ったそうだ。


「だから、物語にしたんですね」

「そうだ。英雄譚として楽しんでもらえれば、後々まで語り継いでもらえると思ってな」


アルヴィン様が、グラスを傾ける。


「じゃがな、アル。その英雄は其方でも良かったと思うぞ。お陰でワシはどこに行っても英雄扱い。先日寄った王宮でも『手合わせしろ』だの『訓練しろ』だの大変じゃったわい」


そんなお祖父様のぼやきに、アルヴィン様はスマンスマンと口にしながら笑い声をあげた。


「自分で書いて自分が主役は、さすがに恥ずかしくてな」

「まあいいじゃないか。孫たちも喜んでるんだし」


ヒューロン前子爵がそう言って、私とアーサーに向かってウインクする。

アーサーは嬉しそうに頷き、さらに冒険譚をねだった。


「他にはどんな依頼を受けていたんですか?」

「そうだな……」


記憶を探るように視線をゆっくりと巡らせたヒューロン前子爵は、思い出すままに次々と魔物の名前を挙げていった。


「飛行系だとロックバードに、ワイバーン。海の魔物ならクラーケンなんかも狩ったな」


ワイバーン討伐の時はお祖父様がワイバーンの足を掴んで離さないでいたら、そのまま連れ去られそうになったとか、クラーケン退治ではアルヴィン様が大盾ごと足で絡め取られ、それをお祖父様が引きちぎって救出したといった話を教えてくれた。


そこから、クラーケンが美味かったとか、ロックバードの方が俺は好きだったとか、美味しい魔物や調理法の話へと話題は広がっていった。



「そう言えば……」


ヒューロン前子爵が、ふと思い出したように言う。


「オンタリオの魔の森で、ゴブリンの集落を討伐した時のことだ」


皆の視線がヒューロン前子爵に集まった。


「やつらの住処の奥に、妙に白い岩の塊があってな。

 最初はただの石かと思ったんだが、やけに大切そうにしまってあったのが気になって……舐めてみたんだ。そしたら、なんと—— 塩だった」

「塩……?」


私とアーサーは、目を見開いたまま、顔を見合わせた。


「かなり大きな塊だった。加工されていない、天然の岩塩だ」

「まさか……」

「魔の森のどこかに、岩塩鉱床があるのかもしれんな」


ぽつりと落とされた、その一言。


けれど、私たちにとっては——

昼間考えていた塩の問題、その根本原因と、そこから導き出される“今できること”が、一本の線で結びついた瞬間だった。


(……見つけた、かも)


私がそう思った、その時。

アーサーがゆっくりとこちらを見て、小さく頷いた。


言葉にせずとも分かる。

アーサーも、今、同じ考えが頭の中を駆け巡ったのだろう。


「期待させるようで悪いが……あの時はいくら探しても、結局は見つからなかったはずじゃぞ?」


期待を打ち砕くようなお祖父様の一言。

どうやら、その時も三人で近隣の岩山などを探索したのだそう。


丸一日探しても、結局発見することはできず、討伐終了の報告もしなければならなかったことから、アレは略奪品か何かだろうと結論づけて、探索は打ち切ったとのことだった。


私とアーサーがよほど残念そうに見えたのだろう。

アルヴィン様が「ちょっと待っててくれ」と言って、席を離れ、暫くして小さな箱を抱えて戻ってきた。


「ちょうど研究用に保管しておいたんだ」


そう言って見せてくれたのは、その時発見したという岩塩の塊だった。

大人の拳大もある、その大きな塊——岩塩は、調べてみたところ純度も高く、とても品質のいいものだったそうだ。


前世でも、岩塩はミネラル豊富でまろやかな旨味があり、高級塩として肉料理なんかに使われていた。

もし、そんな岩塩がオンタリオ領で採れるなら……。


お祖父様たちは見つけられなかったと言っていたけど、可能性があるのなら賭けてみたい。


「その岩塩はお前たちにやろう」


岩塩を手に取り考え込む私に、アルヴィン様がそう言ってくれた。


「ありがとうございます!」


私は満面の笑顔でお礼を述べた。



◇◇◇



子供たちが就寝の挨拶をする時間になっても、英雄たちの語らいは尽きることがなかった。

私とアーサーは、その賑やかな宴の気配を背に、静かに部屋へと戻る。


——オンタリオ領に戻ったら、魔の森を探索しよう。

——岩塩鉱床を、見つけ出そう。


それが、今の私たちにできること。

そしてきっと、オンタリオ領のため、ひいては王国の未来へと繋がる一歩になる。

そう、信じて。



夜の帷がすっかり降り、波音だけが響く夜更けになっても、

英雄たちの楽しげな笑い声は、途切れることなく屋敷に満ちていた。

“初日の出”ではありませんが、物語の先に、一筋の光が見えてきました。

この先、彼らがどんな道を選び、どんな景色に辿り着くのか——

最後までお付き合いいただければ嬉しいです。

*・゜゜・*:.。..。.:*・'(*゜▽゜*)'・*:.。. .。.:*・゜゜・*

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