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メンタルつよつよ令嬢ハルカはガリガリ王子をふくふくに育てたい!  作者: ふくまる
第2章:ふくふくの芽を育てましょう! 〜友情と絆の物語〜

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第28話:再会の誓い

途中、視点が変わります。

レオが修行のために屋敷を出ることが決まった。


期間はまず三年。

もしかすると、それ以上になるかもしれない。


――納得のいく強さを手に入れるまで戻らない。

レオは、そう決意しているようだった。


「ねえ、お母様」


ある日、私はお母様に相談した。


「レオに何か贈りたいんだけど……何がいいと思う?」


お母様は少し考え、ふわりと微笑んだ。


「そうね……ハルカが心を込めて作ったものなんてどうかしら?」


「心を込めて……?」


「ええ。例えば、刺繍入りのハンカチとか」


「刺繍……」


私は思わず眉を寄せた。


前世でも今世でも裁縫は苦手。

料理は好きだけど、針仕事だけは本当に自信がない。


「大丈夫よ。私が教えてあげるわ」


お母様は優しく笑い、背中を押してくれた。


それから私は、毎日少しずつハンカチに刺繍を施した。


図案を考え、お母様に教わりながら、一針ずつ丁寧に。


元気でいてほしい。

頑張ってほしい。

どうか無事に帰ってきてほしい。


そんな想いを全部込めて。


糸を通すだけでも苦労して、指に針を刺しては「痛っ!」と声を上げる。


「ふふ、焦らなくていいの。ゆっくりでいいのよ」


お母様が、いつも笑いながら励ましてくれた。


少しずつ、ほんの少しずつ。

下手だけど、気持ちだけは誰にも負けない。


そう思いながら、針を進めた。


アーサーは、レオへ手紙を書いているようだった。

部屋で一人、机に向かい、何度も書き直しながら。


きっと伝えたいことがたくさんあるんだろう。

どんな言葉を選んでいるのかはわからない。

でも、アーサーらしい優しい言葉が綴られているに違いない。


私は、その背中をそっと見守っていた。


旅立ちの朝。

屋敷の玄関前に、皆が集まった。


お祖父様とお父様が、レオに紹介状を手渡す。


「しっかり頑張ってこい」


お祖父様が力強く言う。


「師範には話を通してある。お前なら、きっとやれる」


お父様もレオの肩を叩いた。


「ありがとうございます。精一杯頑張ります!」


レオは深く頭を下げた。


ヒロは終始心配そうだった。


「レオ、これは着替えだ。それからこれは薬。怪我をしたとき——」


「兄さん、もう十分だよ」


「まだだ。これは保存食に……」


「兄さん!」


レオが笑って止める。


「大丈夫だから。心配しすぎだよ」


「……そうか」


ヒロは寂しげに微笑み、ぽつりと言った。


「身体に気をつけろよ。時々は手紙を書いてくれ……待ってるから」


「わかった」


使用人たちも駆けつけ、口々に声をかける。


「レオ、頑張ってきてね!」


「戻ったらまた一緒に訓練だな!」


「土産話、期待してるぞ!」


みんなの言葉に、レオは嬉しそうに笑った。


そして、私とアーサーの番。


私は刺繍したハンカチを差し出した。


「レオ、これ……」


「お嬢……」


レオはそっと受け取る。


白い布に、青い糸で「レオ」の名前と、小さな剣の刺繍。

不器用だけど、気持ちだけはたっぷり詰まっている。


「離れてても、ずっとレオのこと応援してるよ。思う存分、頑張ってきてね」


そう言うと、レオの目が少し潤んだ。


「……ありがとう。お嬢も元気で」


アーサーが、手紙を差し出した。


「レオ、これ」


「アーサー……」


受け取るレオに、アーサーは少し照れたように言った。


「レオ、僕もこの場所で強くなるよ。戻ってきたとき、びっくりするくらい成長してると思うから、楽しみにしてて」


レオは嬉しそうに笑った。


「ああ。楽しみにしてる」


そして私たちを見て言った。


「お嬢のこと、頼んだぞ、アーサー」


「任せて」


「お嬢も、アーサーのことよろしく」


「もちろん」


私は笑顔で答えた。


レオは皆に向き直り、深く一礼する。


「行ってきます!」


そう言って馬車に乗り込んだ。


ゆっくりと動き出す馬車。

私たちは手を振り、レオも窓から振り返す。


馬車が、どんどん遠ざかっていく。

小さく、小さくなっていき、

——やがて、見えなくなった。


私はアーサーと二人、しばらくその場に立ち尽くした。


「……行っちゃったね」


私が小さく呟くと、


「うん」


アーサーも寂しそうに頷いた。


「でも、きっと戻ってくる。強くなって」


「うん。私たちも頑張らなきゃ」


アーサーが私を見る。


「ハルカ、僕、もっと強くなる。レオに負けないくらい」


「私だって」


私は拳を握った。


「私だってもっと強くなる。色んな『力』を身につけて、レオが戻ってきたときにびっくりさせるんだから!」


二人で遠くの空を見上げた。


レオ、頑張ってね。

私たちも頑張るから。


アーサーがオンタリオ領に来て、ちょうど一年。

新たな旅立ちを見送ったこの日の空は、あの日と同じように広く、風は爽やかだった。




◇◇◇



<side レオ>




馬車が屋敷を離れ、しばらく走ったところで、俺は窓の外を見るのをやめた。


もう屋敷は見えない。


手の中には、お嬢からのハンカチと、アーサーの手紙。


ハンカチを広げる。


青い糸で刺された「レオ」の名前と、小さな剣。

少し歪んでいて、糸の太さも不揃いだ。

——お嬢、裁縫苦手なんだよな。


それでも、俺のために作ってくれた。

一針一針、時間をかけて。


胸が熱くなる。


「……ありがとう、お嬢」


そっと膝に置き、今度はアーサーの手紙を開いた。

丁寧な字で、ぎっしりと書かれている。


『レオへ


レオと出会い、一緒に訓練や勉強に励んだ日々の全てが、僕の宝物です。


初めて人に殴られたこと。

初めて人を殴ったこと。

初めて喧嘩をし、仲直りしたこと。


レオがいたから、レオのおかげで、たくさんの感情を知ることができました。

本当に感謝しています。


レオがいない間、僕も強くなってハルカを守ります。

だから、安心して頑張ってきてください。

レオに負けないくらい、僕も強くなります。

必ず戻ってきてください。

再会を、楽しみにしています。

                              アーサー』


俺は、手紙をじっと見つめた。

アーサーの文字だ。

一文字一文字が驚くほど丁寧で、まるで息遣いまで伝わってくるようだった。


どれだけ時間をかけて、この手紙を書いてくれたんだろう。

俺のために——。


最初に殴られた日のことを思い出す。

……いや、違う。最初は俺の方がアーサーを突き飛ばしたんだった。

それから二度目に、アーサーが俺を殴って——。


喧嘩して、ぶつかって、それでもまた向き合って。

あの時から、俺たちはようやく“本物の友達”になれた気がする。


アーサーは王子様で、俺はただの拾われっ子なのに。

今思えば、あの時タイロン様たちが俺を咎めなかったのも、不思議なくらいだ。


でも——。

あれがあったからこそ、アーサーは俺を本気で友達だと思ってくれたんだ。


「……俺の方こそ、ありがとう、アーサー」


ハンカチと手紙をそっと胸に抱きしめた。


お嬢のハンカチ。

アーサーの手紙。

兄さんの心配。

ルナ姉たちのエール。

ラオウ様やタイロン様の期待。


全部、俺の宝物だ。

俺には、大切なものがたくさんあるーーだから、俺は強くなれる。


大事なもの全部を守れるくらいに。

お嬢やアーサーと対等でいられるくらいに。

ーーラオウ様のような強さを手に入れる!


そして——

二人がびっくりするほどの男になって帰ってくる!


馬車が揺れ、山道へ入る。

窓の外には深い森。


これから俺は、ここで修行をする。


三年。

長い。でも、負けない。

絶対に諦めない。


だって——

帰る場所があるから。

待っていてくれる人たちがいるから。


もう一度ハンカチを取り出す。

歪んだ刺繍が温かい。


目を閉じれば、浮かんでくる。


お嬢の笑顔。

アーサーの優しさ。

兄さんの心配顔。

みんなの声。


——待っててくれ。

——必ず戻るから。


俺は窓の外を見つめた。

オンタリオ領の夏空は、どこまでも青く澄み渡っていた。


〜第2章 完〜

第2章はここまでです。

閑話を挟んで、いよいよ第3章に突入します!引き続き応援いただけると嬉しいです!

╰(*´︶`*)╯♡

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涙腺が(´;ω;`)胸が温かくなります。暖かい物語をありがとうございますm(_ _)m
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