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メンタルつよつよ令嬢ハルカはガリガリ王子をふくふくに育てたい!  作者: ふくまる
第2章:ふくふくの芽を育てましょう! 〜友情と絆の物語〜

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第27話:覚悟の瞬間

先日の襲撃で中断していた視察を、お祖父様とヒロが改めて行ってくれた。

その結果、新たに開墾する予定地が決まり、近隣住民の協力を得ながら整備が進められることになった。


今日は、ミズホ村にある私の田んぼの除草状況に加え、新しく開墾された土地と水路の整備具合を見に行く日。


先日の襲撃を考えれば、本来アーサーには留守番をお願いするべきだったのかもしれない。

けれど、本人がどうしても行きたいと言うので、護衛を大幅に増やした上で同行してもらうことにした。


それならということで、最近元気がないレオも連れて行くことにした。

何やら悩んでいる様子だが、「そっとしておいてやってほしい」とヒロに言われている。

――今回の視察が、少しでも気晴らしになってくれればいいと思う。


そんなわけで、今日のメンバーはお祖父様、アーサー、ヒロ、レオ、ルナ、私、それにパトラッシュ。

さらに騎士団から十名ほども派遣されてきている。

なかなかの大所帯になった。


だが、これだけの人数なら、万が一の事態にも十分対処できるはずだ。


◇◇◇


村に着くと、まずは村人たちが事前に行ってくれていた除草作業の状況を確認する。

田んぼの稲は青々としており、雑草も丁寧に取り除かれていた。


「お嬢様、今年もこの調子なら豊作間違いなしですよ」


ミズホ村で米づくりを任されているグンター村長が、嬉しそうに胸を張る。


「ありがとう、グンター。みんなのおかげね」


続けて、新しく開墾された区画と整備中の水路を見て回り、そのまま水源地へ向かうことにした。


水源地は山の中にあり、途中に足場の悪い隘路があるため馬車は使えない。

皆は馬に乗り、アーサーはヒロの馬に、レオはルナの馬に同乗することになった。

そして私は、いつものようにパトラッシュの背に乗って向かう。


◇◇◇


晴れ渡る初夏の空の下、一行は山道を軽やかに進んでいた。

少し冷んやりとした山の空気が心地よく、パトラッシュの背に揺られながら、色鮮やかな花や珍しい鳥を見つけてはアーサーやレオと報告し合う。

まるでピクニックのような、穏やかな雰囲気だった。


だが——。


その空気は、今日一番の難所が近づくにつれ徐々に緊張に変わっていく。


細く長く続き、片側が急斜面になった隘路。

道幅が狭く、一列で進むしかない。

何かが起こるとすれば、この場所だ。


私たちは警戒を強め、慎重に隊列を組む。

私とアーサー、レオは隊列の中ほど。前後をお祖父様と騎士たちが守り、周囲を注視する。


先頭の騎士が慎重に進み——隘路の中ほどに差し掛かった、その瞬間。


ゴロゴロゴロ……!


頭上の斜面から、岩が転がり落ちてきた。


「危ない!」


お祖父様の声が飛ぶ。

パトラッシュが瞬時に跳躍し、直撃を免れた。


ドスン!


巨大な岩が道を塞ぎ、前方の騎士たちと完全に分断されてしまった。


◇◇◇


「ハルカ、アーサー、レオ怪我はないか?」


「私もパトラッシュも大丈夫!」


アーサーもレオも無事。

皆が下馬をして周辺を確認する。


でも——。


「ルナ!」


ヒロの叫びに振り向くと、ルナが足を押さえて座り込んでいた。

落石の破片が当たったようだ。


「すぐ手当てする」


ヒロが駆け寄り、治療にあたる。

レオとアーサーが心配そうにその様子を見守っていた。


その時——。


森の影から黒い影が飛び出した。

覆面の男たち。


「襲撃だ。子供達を守れ!」


お祖父様が剣を抜き構える。


男たちは真っ直ぐにアーサーとレオに向かう。


「男の子が二人いるぞ! どっちだ!?」


「面倒だ! 二人とも連れて行け!」


怒号とともに、男たちは二人を乱暴に抱え、森の奥へと走り去る。

リーダー格の男が何かを投げつけると、白い霧のような煙が立ち込め、視界が奪われた。


「アーサー! レオ!」


私は叫ぶ。

パトラッシュも唸るが、私を乗せたままなので動けない。


ヒロが即座に風魔法で霧を吹き払った。

——と同時に、お祖父様の体が淡い光を帯びた。


身体強化だ。


次の瞬間、あの巨体が信じられない速度で跳躍した。


枝から枝へ、木から木へ。

猿のように軽やかに、それでいて恐ろしく速く——賊を追って森の奥へ駆けていった。


「……え?」


あまりの速さに、残された私たちは、呆然と息を呑むことしかできなかった。


◇◇◇


賊たちはアーサーとレオを抱え、森の中を必死に逃げていた。

レオは暴れて抵抗を試みるが——。


「大人しくしろ!」


乱暴に抱え直されるが「やめろ!降ろせ!」レオは必死に声を上げ続けた。


「どこへ行く」


ラオウが追いつき、彼らの前に降り立つ。


「なっ……追いついた、だと!?」


「怯むな! たった一人だ! やれ!」


次々と襲いかかる賊。


しかし——。


ドガッ!


拳が閃き、一人が吹き飛ぶ。


ドガッ!ドガッ!


二人、三人……次々に地面へ沈む。


一瞬だった。


残ったのは、アーサーとレオを抱えた男ひとり。


「い、一歩でも動くな! こいつらがどうなってもいいのか!」


「やれるものならやってみろ!!!」


挑発するラオウに、賊はアーサーを放り投げた。


ラオウは瞬時に受け止め、背後の茂みに安全に下ろす。

そこにかかった時間は、わずか数秒。


「……なっ」


「おう、受け渡しありがとな。その子もこちらに渡せ」


「ふざけるな! こいつの命が——!」


賊がレオにナイフを突きつけた瞬間、刃が弾き飛ばされ——。

次の瞬間には、ラオウの蹴りが男の鳩尾に突き刺さっていた。


レオを奪い取り、男から庇うように下ろすラオウ。


「二人とも、大丈夫か?」


「は、はい……」


呆然と頷く二人。



「ラオウ様!」


やがて、ヒロと護衛たちが駆けつけてきた。


「落石は? ハルカの護衛はどうした?」


「残してきた騎士たちが対応しています」


「よし。騎士たちは、賊を縛って村へ連れ戻せ。

ワシらはこのまま水源地へ向かう。ヒロ、行くぞ!」


◇◇◇


ほどなく、お祖父様とヒロがアーサーとレオを連れて戻ってきた。


「アーサー、レオ! 怪我はない?」


駆け寄って全身を確かめ、無事だとわかると力が抜けた。


横で、お祖父様がルナに指示を出す。


「ルナ、お前も村へ戻れ。その足では無理だ」


「……わかりました」


悔しそうに頷くルナ。


残ったメンバーで水源地へと向かう。

アーサーもレオも、ほとんど口を開かなかった。


アーサーは肩を落としている。

レオを巻き込んだこと、あれだけ練習した魔法が咄嗟に出なかったこと……きっと悔しさでいっぱいなのだろう。


……それは私も同じだ。咄嗟の状況で発動できなければ意味がない。

うん、帰ったら特訓だ!


それから、レオは——。


レオの目は、どこか遠くを見ているようだった。

恐怖とは違う。

まるで、何かに魅了されたような顔。


どうしたんだろう?後で話を聞いてみなくちゃ。


◇◇◇


水源地に到着すると、お祖父様が小休止を指示した。


こんこんと湧き出る透明な水。

豊富な水量を誇る、清らかな泉。


手のひらで水をすくって口に含む。


「……甘い」


冷たくて柔らかくて、ほんのり甘い。

こんなに美味しい水は初めてだ。


ヒロがコップを配り、皆も水を飲む。

適当な木陰で一息つくと、静かな時間が流れた。


「ふう……」


やっと落ち着いてきた。

——そう思っていたのは、私だけだったようだ。


レオが意を決したようにお祖父様の元へと歩いていくのが見えた。


「ラオウ様!」


「どうした、レオ」


「先ほどの……あの動きは、身体強化ですよね?」


「ああ、そうだ」


レオは拳を握りしめ、抑えきれない熱を込めて言葉を続けた。


「──すごかった。あんな動き、俺、初めて見ました。地を蹴った瞬間に視界から消える速さ、無駄のない体捌き、受けただけで腕が痺れそうな一撃の重さ……全部、全部が衝撃でした!」


興奮を隠し切れない様子で、次から次へと言葉が溢れ出る。


「ただ強いってだけじゃない……あれは“理想の強さ”でした。俺も、いつかあんなふうに動けたらって……いや、動けるようになりたいって、心の底から思ったんです!」


息を弾ませながら、レオはお祖父様をまっすぐ見上げた。


「俺……あの強さを、目指したい。ラオウ様みたいに、誰より速く、誰より確かに、自分の力で大切な人たちを守れるようになりたい!」


レオの瞳は、少年の憧れと戦士の決意を宿して、力強く輝いていた。


その様子に、お祖父様は一瞬だけ目を丸くし、すぐに愉快そうに目を細める。


「あれは『オンタリオ流体術』の動きだ。

レオ、身体強化に興味があるのか?」


「はい。俺にも……できるでしょうか?」


レオが真っ直ぐにお祖父様を見つめている。

お祖父様はレオの肩に手を置き、穏やかに告げた。


「できる・できないは関係ない。

『やる』と決めたことを、どうやってやるか——それだけだ」


その言葉に、レオの目が大きく見開かれる。


「『やる』と……決める……」


レオは深く息を吸い込んだ。


「俺、やってみます!

オンタリオ流体術で、身体強化を学びたいです!」


「そうか」


満足げに頷いたお祖父様が、ゆっくりと問いかける。


「ならば……修行に出るか? しばらくは皆とも離れることになる。それでも――その覚悟があるのなら、やってみるか?」


レオは迷いなく顔を上げ、胸に手を当てるように気持ちを込めて答えた。


「はい! 覚悟はできています!」


揺るぎのない声だった。


◇◇◇


私は少し離れた場所から、その姿を見つめていた。

決意に満ちたレオの背中が、いつもより何倍も大きく見える。


胸の奥では寂しさがそっと疼くのに、同時にその背中がまぶしくて──少しだけ羨ましくもあった。


「レオは……手に入れたい“力”を見つけたんだ」


アーサーも複雑な表情でレオを見つめている。

きっと、自分ももっと強くならねばと思っているのだろう。


それでいい。

みんな、それぞれの道で強くなればいい。


――私も、頑張らなきゃ。


思わずこぼれた呟きを誤魔化すように、冷たい水をもう一口飲む。


夏の日差しが水面に反射して、きらきらと揺れていた。

その輝きが、今の私には少しだけ眩しかった。

誤字報告ありがとうございました!早速修正させていただきました(*´∇`*)

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