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メンタルつよつよ令嬢ハルカはガリガリ王子をふくふくに育てたい!  作者: ふくまる
第2章:ふくふくの芽を育てましょう! 〜友情と絆の物語〜

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第26話:レオの葛藤

レオ視点のお話です。

今朝も、お嬢とアーサーは夢中になって魔法の練習をしていた。

その様子を、俺は訓練場の隅から静かに見つめていた。


「大地の盾!」


お嬢の澄んだ声が響く。

地面がうねり、土の壁が盛り上がって、腰ほどの高さの盾が姿を現した。


「すごい、ハルカ! 昨日より大きくなってる!」


アーサーが目を輝かせてハルカを称賛してる。


「よし、僕も負けていられない——『ウィンドシールド』!」


アーサーが両手を突き出すと、風が渦を巻き、淡く輝く風の壁が現れた。


「アーサーも! 風の壁、だんだんはっきり見えるようになってきたね!」


二人は顔を見合わせ、楽しそうに笑った。

その笑顔はどこか誇らしげで、指導役の兄さんも満足そうに二人へ温かな視線を向けていた。


通路を行き交う使用人たちも、巡回中の騎士たちも、皆どこか嬉しげに二人を見守っている。


実際、二人の集中力は目を見張るほどで、練習を重ねるたびに技は確かな形へと成長していった。


すごい。

かっこいい。


……それに比べて、俺は――。


魔力がない。

魔法が使えない。


だから、ただ見ているだけ。


俺の方が体も大きく、年上なのに。


訓練は続けている。

走り込みも筋トレも素振りも、毎日欠かさない。

もちろん、訓練内容が前と同じだからといって、手を抜いたことなんて一度もない。

走れる距離も速さも伸びているし、筋トレの回数も増えている。


……それでも、二人の成長に比べたら、俺の進歩なんて牛の歩みより遅い。


——このままでは、二人を守るどころか、守られるだけの存在になってしまう。


ギュッと拳を握りしめる。

日に日に募っていく焦り、悔しさ、劣等感。

まるで、自分だけが取り残されているような気がした。


◇◇◇


そんな毎日を過ごしていたある夜、俺は一人部屋にこもり、窓の外をぼんやりと眺めていた。


自分は、どんな強さがほしいんだろう。

自分が目指すべき「力」って、何だ?


……わからなかった。


その時、ノックの音がした。


「レオ、入っていいか」


兄さんの声だった。


「……うん」


兄さんが静かに部屋へ入ってくる。


「どうしたの? 最近元気がないみたいだけど」


「……別に」


そっけなく答える俺の隣に、兄さんは何も言わず腰を下ろした。


「最近よく、訓練場の隅でお嬢様たちの練習を見てるだろ?」


「……」


「何か悩みがあるんじゃないか?」


その優しい声に押され、胸の奥の蓋が少しずつ外れていく。

気づけば、言葉がぽつぽつとこぼれ始めていた。


「……俺、このままじゃダメな気がするんだ」


「ダメって?」


「お嬢もアーサーも、どんどん強くなってる。魔法も使えるようになってる。でも俺は……」


悔しさを押し込めるように、拳を強く握った。


「魔力がない。魔法が使えない。このままじゃ、二人を守るどころか……守られるだけの足手まといになるんじゃないかって」


「レオ……」


「もちろん、俺は貴族じゃないし、二人とは立場が違うのも分かってる。昔、お嬢に助けてもらった恩も、この家に世話になってきたことも忘れてない。いつか必ず報いたいと思ってる」


そこで、一度深く息を吸った。


「でも……それ以上に、俺、二人と“友達”でいたいんだ。対等な仲間でいたいんだよ」


俺は兄さんを真っ直ぐに見つめた。


「でも、どうすればいいのかわからない。何を頑張ればいいのか……最近、ずっと迷子みたいなんだ」


兄さんは少し考え、ゆっくりと言葉を選ぶように口を開いた。


「この間の奥様の話を聞いて……レオはどんな『力』を身につけたいと思ったんだ?」


「え?」


「この家のため、お嬢様のためを考えるなら、執事とか補佐官とか、そういう方面で力をつけるのも十分役に立てる道だと思うけどな」


「兄さん、それ、俺に向いてると思う?」


俺は、苦笑した。


兄さんは、少し笑って言った。


「そうだね……できないことはないと思うけど。でも、レオのその真っ直ぐな気性は、文官というより武官の方が向いてそうかな」


「だよな」


俺も、そう思う。

細かい書類仕事とか、政治的な駆け引きとか、そういうの、得意じゃない。


「でも、そうなってくると、魔法が使えないのは不利だよな」


俺は、また暗い気持ちになった。


「レオは外部魔力がないだけで、潜在魔力はあるんだから、身体強化系の力を目指すのが案外いいかもしれないね」


「身体強化……」


そういえば、そんな方法があるって聞いたことがある。

でも、それって……。


その時、部屋のドアが開いた。


「私が教えてあげよっか?」


ルナが、ひょっこりと顔を出した。


「ルナ姉、ノックくらいしろよ」


文句を言うと、ルナ姉はにっこり笑った。


「ごめんなさい。でも、面白そうな話が聞こえたから」


そう言いながら、当然のように俺たちの間に腰を下ろす。


「レオ、身体強化に興味があるの?」


「……まあな」


「そっか。じゃあ、少し見せてあげよっか?」


ルナ姉はぱっと立ち上がり、テーブルを引き寄せて腕相撲の体勢を作った。

言われるまま右手をテーブルに置き、力を込める。


――びくとも動かない。


「あれ?」


兄さんと交代して試してみても、やっぱりピクリとも動かなかった。


「これも身体強化の一つよ。腕の周りに薄く魔力を纏わせて、強化させてるの」


「へえ……」


魔法にこんな使い方があるなんて……。

ルナ姉、ただの馬鹿力じゃなかったんだ。


「レオにその気があるなら、『オンタリオ流体術』の道場を紹介しましょうか?」


「オンタリオ流体術?」


初めて聞く名前に、思わず首を傾げた。


「ええ。百年ほど前からこの領で発展してきた実戦武術よ。呼吸法と体内エネルギーの循環によって、効率的に魔力を運用する身体強化法があるの。少ない魔力でも巨大な魔獣と戦える技術体系なのよ」


ルナ姉が、静かに説明してくれる。


「さっき見せたように、体に魔力を纏わせて筋力・速度・反射神経を底上げできるの。それに、武器を『身体の延長』として扱うから——レオが剣の道も極めたいなら、融合術として発展させることもできると思うわ」


「……すごいな」


俺は、興味を惹かれた。


「私も、昔義父(とう)さんに拾われた後、三年ほど預けられて修行していたの」


ルナ姉が、懐かしそうに言った。


「厳しかったけど、おかげでお嬢様をお守りするのに必要なことは身につけられたわ」


「ルナ姉も、そこで修行したんだ……」


思わず、ルナ姉を見直した。


一見いつも冷静で、完璧に仕事をこなす“できる女”そのもの。

——けれど実際は、誰よりも“お嬢様至上主義”を貫く、筋金入りのお嬢信者だ。


その強さの裏側に、そんな愛と執念があったのかと思うと……。

ちょっとだけ、納得してしまった。


◇◇◇


ルナ姉が、真っ直ぐに俺を見つめてきた。


「レオ、あなた……お嬢様のこと、どう思ってるの?」


「え?」


まさかそんな方向から質問が来ると思わず、さっきまで“別のこと”を考えていた俺は完全に虚を突かれ、思わず言葉につまる。


「お嬢のこと? それは……大切な人だよ。恩人だし、守りたいと思ってる」


「守りたい……そう」


ルナ姉が、意味ありげに微笑む。


「実はね、ラオウ様は『オンタリオ流体術』開祖の孫弟子に当たるのよ。それに、タイロン様も師範代クラスの腕前をお持ちだし」


「え、マジで!?」


「オンタリオ領の領主は代々この体術を身につけているーーこの意味、わかる?」


「……え?」


「だから、もし、レオが『オンタリオ流体術』の後継者になれるくらいの実力者になれたなら——」


ルナ姉が、少し間を置いた。


「お嬢様の婿の座だって狙えるってことよ」


「……は?」


俺は、思わず声が裏返った。


「あなたにその気があるならね」


ルナ姉が、にっこりと笑った。



「ちょっと待って、ルナ。レオを惑わせるようなことを言わないでくれ」


兄さんが困ったように割り込んだ。


「そ、そうだぞルナ姉! 俺だって婿入りには貴族じゃなきゃダメだってことぐらい……」


「ふふ。まあ、それはさておき。この体術を極めれば、レオの言っていた“守りたい”も“対等でいたい”も叶うんじゃない?」


ルナ姉の声は冗談めいていたが、言葉は真剣だった。


「……」


確かに、そうかもしれない。


魔法が使えなくても、強くなれる道がある。

お嬢を守れる力が手に入る。

そして——

もしかしたら、対等な存在として隣に並べるかもしれない。


「でも、レオ。その修行は、本当に厳しいわよ」


ルナ姉が真剣な表情で告げた。


「山にこもって、何年も修行することになるの。途中で投げ出したくなっても、簡単には帰って来られないわ」


「……何年も?」


思わず聞き返すと、ルナ姉は静かに頷く。


「ええ。基礎から学ぶなら、最低でも三年はかかるわね」


「三年……」


長い。

その間、お嬢のそばにはいられない。

守ることもできない。


「それに、修行は本当に厳しいわ。私だって、何度も挫けそうになったもの……」


ルナ姉は少しだけ遠い目をした。


「だから、じっくり考えてみて」


「そうだよ、レオ。焦る必要はないと思う」


兄さんもルナ姉に同意する。


「でも……」


迷いが胸を占める。


「それに、本当に修行に出るつもりなら、ラオウ様やタイロン様にも相談した方がいいと思うよ」


兄さんの言葉に、俺は小さく頷いた。


「……そうだな。まずは師匠でもあるラオウ様に相談してみる」


「それがいいわ」


ルナ姉も力強く頷く。


「ラオウ様なら『オンタリオ流体術』にも詳しいし、レオに向いているかどうかも判断してくださると思うわ」


そのあと三人で、色々な話をした。


修行のこと。

将来のこと。

そして、お嬢のこと。


けれど——結論は出なかった。


胸の奥には、まだ迷いが残っている。


本当に修行に出ていいのか。

お嬢の側を離れてしまっていいのか。


三年も離れていたら——。


お嬢を守れる強さがほしい。

でも、お嬢の側を離れたくない。


ぐるぐると渦巻く思いを抱えたまま、夜はゆっくりと更けていった。

☆登場人物現在の年齢☆

ハルカ・アーサー 六歳

レオ 八歳

ヒロ・ルナ 十五歳

*ルナはセバスの養女です。五歳の時に拾われ、九歳の時、生まれたばかりのハルカに一目惚れ(?)。以降執着という名の愛情を注いでお仕えしています。

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