第14話:ヒロの帰還
本日より第2幕をスタートします!
どうぞよろしくお願いいたします╰(*´︶`*)╯♡
秋も深まり、オンタリオ領の木々は赤や黄色、オレンジ色に染まり、風景を鮮やかに彩っていた。
稲刈りから二週間。
アーサーは、あの日お祖父様と何を話したのか詳しくは教えてくれなかったけれど、それ以来、朝早くから体を動かすようになった。
パトラッシュと一緒に庭を走ったり、薪割りを手伝ったり。
まだ力は弱いけれど、一生懸命な姿が嬉しかった。
そんなある朝、お父様が教えてくれた。
ヒロが戻ってくる、と。
私は思わず声を上げた。
ヒロ。
三年前、王都で出会った、私の大切な家族の一人。
今回、お祖父様の遠征に同行し、事後処理のため現地に残っていた。
やった! アーサーに紹介できる!
私は嬉しくて、アーサーを探しに走った。
◇◇◇
「アーサー、ヒロが戻ってくるんだって!」
庭でパトラッシュと遊んでいたアーサーに知らせる。
私たちより少し年上のお兄ちゃんで、今日帰ってくるから夕方に紹介すると伝えると、アーサーは不思議そうに首を傾げた。
それから、ほんの少し不安そうな顔。
大丈夫、ヒロは優しいよと伝えると、アーサーは小さく頷いた。
けれど、緊張がまだ残っている。
そうだよね。
アーサーにとって、また新しい人との出会いだ。
私はアーサーの隣に座った。
パトラッシュも私たちの間に寝そべる。
「少し、ヒロのこと話しておくね」
そう言って、あの日のことを思い出しながら語り始めた。
◇◇◇
三年前のこと。
私はお母様と王都を訪れ、買い物のため街へ出かけた。
そこで出会ったのが——二人の子ども。
一人は、折れそうなほど細く弱々しい小さな男の子。
もう一人は、その子を必死に抱きしめる、少し大きな男の子。
大きな子——ヒロはぼろぼろの服。
小さな子——レオは高熱で顔を真っ赤にし、ぐったりとしている。
私はお母様の服を引っ張り、助けてほしいと訴えた。
お母様は二人に近づき、穏やかに声をかけた。
「熱があるみたいね?」
治癒魔法で診たいと伝えるが、ヒロは怯えて身を強張らせるばかり。
「嘘だ! どうせ誰も助けてくれない!」
涙をボロボロとこぼすヒロ。
私はヒロをじっと見つめた。
怖さ、悲しさ、そして遣る瀬なさが、その瞳から溢れ出ていた。
私はお母様の後ろから一歩進んで言った。
「おかあさまは、ウソつかないよ」
ヒロが息を呑む。
「だいじょうぶ。しんじて」
精一杯笑ってみせると、ヒロは迷いながらもレオを差し出した。
お母様の治癒魔法。
緑の光。
レオの顔色が戻っていく。
「ひとまずはこれで大丈夫。でも、きちんと休ませないといけないわ」
そうお母様が言うと、ヒロは安堵の表情を浮かべ、お礼を言って去ろうとする。
そんなヒロの手を、私は慌てて掴んだ。
「ごはんたべて、おふろに入って、げんきになろう?」
ヒロは戸惑った。
お金なんてない、と。
私は、そんなヒロの手をぎゅっと握った。
「おかねはいらない。だから、いっしょに、いこ?」
お母様も微笑み、背中をそっと押してくれた。
ヒロは涙をこぼし、かすかに頷いた。
こうして、ヒロとレオは私たちの家に来てくれた。
◇◇◇
でも、最初は大変だった。
ヒロは何度も逃げようとした。
夜に部屋を抜け出したり、隙を狙ったり。
ある日、私は理由を尋ねた。
ヒロは言った。
「僕たちみたいな孤児が、こんないい暮らしをしていいわけがない。どうせ追い出される。なら、自分から去った方がいい」
私は悲しくなった。
どうして、そんなふうに思うんだろう。
どうして、信じてくれないんだろう。
私は少し考えて、こう言った。
「にげたいなら にげていいよ」
ヒロが顔を上げる。
「でも、レオはおいていってね」
真剣に続けた。
「わたしが いっしょに いるから」
ヒロは沈黙し、ぽつりと言葉を溢した。
「レオを置いていけるわけがない」
私は手を取った。
「じゃあ、ヒロも いっしょに ここにいて」
ヒロは、また泣き始めた。
「本当に、ここに居てもいいの?」
私は特大の笑顔で頷いた。
「うん! いっしょに いて!」
その日から、ヒロは逃げなくなった。
少しずつ笑うようにもなった。
やがて「強くなって、少しでも役に立てるようになりたい」と願い、お祖父様に弟子入り。
鍛え、学び、今では執事見習いとして遠征に同行するまでになった。
◇◇◇
「……という訳で、ヒロは今では大事な家族であり、オンタリオ領を支える重要な戦力にもなったの」
話を終えると、アーサーは考え込むような顔をした。
どうしたのか尋ねると、アーサーは言った。
「ハルカは、すごいね」
小さな頃から誰かを助けてる、守ってる——僕とは違う、と。
私は慌てて首を振った。
「あの時は、お母様が助けてくれたから何とかなっただけ。私は何もできなかった。でもね、だからこそ『自分の力で助けられる人になりたい』って、色々頑張れたんだ」
料理も練習したし、栄養の勉強もしたし、ね。
「だからね、アーサー。できない事を気に病まなくていいんだよ。『できるようになりたい』って頑張っていれば、いつかできるようになるんだから」
ヒロだって、最初から強かったわけじゃない。
そう伝えると、アーサーは小さく頷いた。
パトラッシュも、尻尾を振って応援してくれているみたいだった。
◇◇◇
夕方、ヒロが帰ってきた。
玄関で待つ私とお祖父様、そして緊張気味のアーサー。
「お帰りなさい、ヒロ。お疲れ様!」
ヒロは柔らかく笑って、私たちに挨拶を返してくれた。
十四歳になったヒロは、三年前よりずっと背が高くなっていた。細身ながら筋肉もしっかりついて、黒い髪を短く整えている。執事見習いらしい落ち着いた服を着た姿は、すっかり一人前の大人のように見えた。
でも、笑顔は昔と変わらない。優しくて、温かい笑顔だった。
私はアーサーを手招きした。
「アーサー、彼がヒロだよ。ヒロ、この子がアーサーで、今うちで一緒に暮らしているの」
ヒロは丁寧にお辞儀をして自己紹介した。
アーサーは少し戸惑いながらも、お辞儀を返して初めましてと小さな声で答えた。
ん〜どこか堅苦しいな。
そう思って、ヒロに視線を送る。すると、ヒロは私の意図を察したように表情を柔らかくし、再びアーサーに話しかけた。
「失礼を承知で申し上げるならば、アーサー様と私は、言わば『お嬢様に拾われた者同士』。どうか気楽に接してください」
アーサーは少し驚いたように顔を上げた。
目が合うと、ヒロがにっこりと微笑む。
すると、アーサーも少しだけ緊張が解けたようだった。
そこへ、お祖父様がヒロの肩を叩いて告げた。
「ヒロ、お前にはアーサーの教育係兼侍従を任せる」
アーサーが驚いた顔をする。
「ワシが直接教えるとアーサーを壊してしまいそうだからな。まずはヒロやレオと共に体を作れ。ヒロは風魔法の遣い手でもある、適任じゃろう」
お祖父様が豪快に笑った。
お祖父様の特訓はそんなに厳しいのかと私が尋ねると、お祖父様はにやりと笑った。
「当たり前じゃ。ワシの特訓は地獄じゃぞ」
アーサーが青ざめる。
ヒロも少し苦笑している。
大丈夫ですよアーサー様、私も最初は大変でしたが今ではだいぶ慣れました、一緒に頑張りましょうとヒロが手を差し出した。
アーサーは少し迷ってから、その手を握った。
よろしくお願いしますと言うアーサーに、ヒロもこちらこそと答えた。
二人が握手をする様子を見て、私はほっとした。
よかった。
アーサーも、少しずつ馴染めるといいな。
「そうだ、アーサーにレオのことも紹介しないと!」
独り言のように呟いた私の言葉を拾って、レオは今厩舎で馬の世話をしてるとヒロから返事があった。ヒロは「後ほど紹介させていただきます」と約束してくれる。
アーサーはまだ少し緊張しているけれど、それでも少しだけ笑顔になっていた。
私も嬉しくなった。
これからは、アーサーとヒロにレオ、それから、ナタリーの下で侍女見習いとして頑張っているルナ。
パトラッシュも。
ご縁があって集まったみんなと、ここで一緒に過ごせるんだ。
窓の外では、秋の風が優しく木々を揺らしていた。
月が、静かに私たちを見守っていた。
他人との関わりを増やし、体も心も鍛え、アーサーをさらに「ふくふく」に育てます!
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