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メンタルつよつよ令嬢ハルカはガリガリ王子をふくふくに育てたい!  作者: ふくまる


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第10話 :ラオウ見参

お祖父様が帰ってくる。


その知らせを受けてから、屋敷中が活気づいていた。


「お嬢様、いつラオウ様がお帰りになってもいいよう、お好きな肉料理の準備は万端整えてあります!」


料理長が嬉しそうに報告してくれる。


「ありがとう。お祖父様、きっと喜ぶわ」


私も嬉しくて、自然と笑顔がこぼれる。


お祖父様。


王国最強と謳われた剣士で、今は前辺境伯として隠居しているけれど、その実力は健在だ。


豪快で、優しくて、少し声が大きくて。


私の大好きなお祖父様。


ちょうど、アーサーと入れ替わるように魔の森に討伐に出ていたから、長いこと会えなくて寂しかった。


「ハルカ、ラオウ様はいつ帰ってくるの?」


アーサーが少し緊張した顔で尋ねる。


そうだよね。ずっと会いたがっていた『ドラゴンと騎士』の主人公に会えるんだもの。緊張するわよね。

でもね、


「もう少し先になると思うから、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。それに、お祖父様は優しいから。きっとすぐに仲良くなれるよ」


私がそう言うと、アーサーは少しだけ安心したような顔をした。


◇◇◇


今日は午後から、マーサとパトラッシュを連れて、屋敷の裏にある柿農園へ向かう予定だった。


アーサーがうちに来てから、早いものでもう二ヶ月。体力も筋力もついてきて、最近では庭でパトラッシュと遊んだり、お散歩につきあったりと行動範囲を広げている。身長も伸びてきて、私もウカウカしていられないと牛乳の量を増やしたのはここだけの話だ。


アーサーと手を繋いで、屋敷に沿っててくてくと歩く。

頬に当たる秋の爽やかな風が心地よい。


木々の葉が色づき始めて、とても綺麗だった。


「柿、たくさん採れるといいね」


「うん。お祖父様にも食べてもらいたいし」


私とアーサーがおしゃべりを楽しんでいると、 パトラッシュが、私たちの間を行ったり来たりしつつ 時々、アーサーの前に立ちはだかる。


「パトラッシュ、邪魔しないで」


私が注意すると、パトラッシュは渋々道を開ける。


でも、すぐにまた同じことを繰り返す。


もう、相変わらずだなあ。


「ねえ、ハルカ。柿で何か作るの?」


アーサーが尋ねる。


「うふふ、お楽しみ。すっごくおいしいデザートを作るからね」


実は、ちょうど手に入れた美味しいクリームチーズと豆乳で、前世で大好きだった「柿の豆乳フロマージュ」を作ろうと思っているのだ。


柿の甘みとクリームチーズのコク、豆乳のまろやかさが絶妙にマッチして、本当においしいんだよね。

アーサーにも喜んでもらえるといいな。


「楽しみだなあ」アーサーも嬉しそうに笑った。


秋晴れ、最高の柿狩り日和。

たくさん採ってお祖父様にも食べてもらおう。足取り軽く、私たちは農園へと向かった。


◇◇◇


柿農園に着くと、たくさんの柿の木が並んでいた。


オレンジ色の実が、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。


「わあ、きれい……」


アーサーが感嘆の声を上げる。


「でしょ? さあ、採ろう」


私たちは籠を持って、柿の木に近づいた。


農園の人たちも、収穫作業をしている。


みんな笑顔で、楽しそうだ。


「お嬢様、今年は豊作ですよ」


農園の主人が嬉しそうに言う。


「よかった。じゃあ、たくさん採ってもいいですか?」


「もちろんです。どうぞ、お好きなだけ」


私たちは、大きくて色づきの良い柿を選んで採り始めた。


アーサーは背が低いから、低い枝の柿を採っている。


私は少し高い枝に手を伸ばして——。


その時だった。


「グルルルルル……」


低い、不気味な唸り声が聞こえた。


え?


私は手を止めて、音のする方を見た。


農園の奥、木々の間から——。


巨大な影が現れた。


茶色い毛に覆われた、巨大な体。


鋭い爪。


ギラギラと光る目。


「キンググリズリー!?」


私は思わず叫んだ。


キンググリズリー。


三メートルを超える巨体を持つ、凶暴な魔獣。


普段は森の奥深くに住んでいるはずなのに、なんでこんなところに!


「グオオオオオ!」


キンググリズリーが咆哮した。


その目は、柿の木を見ている。


柿を狙っているんだ。


「みんな、逃げて!」


私が叫ぶと、農園の人たちが慌てて逃げ始めた。


アーサーは、恐怖で動けなくなっている。


「アーサー!」


私は急いでアーサーの元に駆け寄った。


キンググリズリーが、こちらに向かって歩いてくる。


パトラッシュが急いで駆けつけ、私たちを庇うように威嚇を始めた。


地面が揺れる。


その巨体が、どんどん近づいてくる。


「グルルル……」


パトラッシュが、キンググリズリーに飛びついた。


「パトラッシュ!」


いくらシルバーフェンリルとはいえ、パトラッシュはまだ子ども。体重も力の差も歴然だった。

振り上げたキンググリズリーの右手が、パトラッシュの体を跳ね上げる。

「キャイン」と小さく悲鳴を上げ、パトラッシュは地面に打ち付けられた。


「パトラッシュ!」


ザッと一瞥してケガの有無を確認する。取り敢えず、パトラッシュは大丈夫そうだ。

但し、このまま攻撃されるのはマズイ。


私は、必死に魔力を集中させた。


火魔法。


まだうまく使えない。


でも、今は使うしかない。


「パトラッシュから離れて!」


私が叫ぶと、小さな火の玉が手のひらに現れた。


でも、小さい。


こんなので、キンググリズリーを止められるわけがない。


キンググリズリーのギラギラと光る目が、こちらを見た。


私たちを獲物だと認識する。


「ハルカ……」


アーサーが震えている。


私は、キンググリズリーの視線から庇うように、ギュッとアーサーを抱きしめた。


体が震える。


怖い。


でも、アーサーを守らなきゃ。


「グオオオオオ!」


咆哮と共に、キンググリズリーが襲いかかってきた。


その巨大な爪が、私たちに向かって振り下ろされる。


ダメだ——。


私は目を閉じた。


その瞬間。


「うちのかわいい孫に何するんだこのクマ野郎!!」


鋭い怒声が響いた。


そして——。


ドゴォン!


巨大な衝撃音。


私は目を開けた。


目の前には——。


キンググリズリーが、地面に倒れていた。


そして、その上に立つ、巨大な男性。


白髪を後ろで一つに束ねた長髪。


顎髭。


金茶色の瞳。


筋肉の塊のような巨躯。


「お、お祖父様!?」


私は思わず叫んだ。


そう、目の前にいるのは、私のお祖父様。


ラオウ・オンタリオ前辺境伯。


「ハルカ、無事か!」


お祖父様が、私たちの方を向いた。


その声は大きくて、力強い。


「は、はい! 大丈夫です!」


「よかった。その子も無事じゃな」


お祖父様が、アーサーを見る。


アーサーは、呆然としていた。


口を開けたまま、お祖父様を見つめている。


「グ、グル……」


キンググリズリーが、まだ動いている。


「おっと、まだ息があったか」


お祖父様が、拳を構えた。


そして——。


「ハァッ!」


もう一撃。


拳が、キンググリズリーの頭に叩き込まれた。


ドゴォン!


今度こそ、キンググリズリーは動かなくなった。


あの巨体を素手で。しかもワンパンで。

……いや、ちょっと待って。キンググリズリーってAランク魔物って聞いたことあるんだけど。確か上級冒険者がパーティー組んで討伐するレベルの……。


私は深く考えないことにした。


「よし、これで大人しくなったわい」


お祖父様が満足そうに頷く。


その姿は、まさに英雄だった。


◇◇◇


「お祖父様!」


私は、お祖父様に駆け寄った。


「おお、ハルカ! 会いたかったぞ!」


お祖父様が、私を抱き上げる。


大きくて、温かい。


お祖父様の抱擁は、いつも安心する。


「お祖父様も! おかえりなさい!」


「ただいま、ハルカ。大きくなったのう」


お祖父様が嬉しそうに笑う。


そして、アーサーの方を見た。


「そちらが、アーサーじゃな」


「は、はい……」


アーサーが、緊張した顔で答える。


お祖父様は、私を下ろすと、アーサーの前にしゃがんだ。


「怖かったじゃろう。よく頑張ったな」


お祖父様が、優しくアーサーの頭を撫でる。


その手は大きくて、ごつごつしているけれど、とても温かい。


「……ラオウ様」


アーサーが、小さく呟いた。


その目は、お祖父様を見つめている。


憧れと、尊敬の光が宿っていた。


「あ、あの…本で読みました。『ドラゴンと騎士』。ラオウ様が、ドラゴンを倒した話」


「おお、あの本を読んだのか。懐かしいのう」


お祖父様が笑う。


「あの本のラオウ様は、本当にかっこよくて、強くて。僕、ラオウ様みたいになりたいって思いました」


アーサーの声は、震えていた。


「そして、今日、本当にラオウ様が、魔獣を倒すところを見ました。本当に、本当に強くて……」


アーサーの目から、涙がポロリとこぼれた。


「僕も、いつか、ラオウ様みたいになりたいです!」


アーサーが、力強く宣言した。


それからはもう、止まらなかった。魔獣に襲われた興奮も手伝って、目の前の英雄に完全に心を奪われたアーサーは、これでもかと言うほどお祖父様を褒め称えた。


「身を挺して仲間を庇うシーンが最高でした!」

「あの男気!あの勇気!本当に、本当に憧れます!」

「ラオウ様は騎士の中の騎士!男の中の男です!」


それはそれは、熱い告白だった。


お祖父様は、少し驚いたような、困ったような顔をした。

私も正直驚いた。意識を取り戻した後、こちらにやってきたパトラッシュも困惑顔でアーサーを見つめている。


アーサー、こんなに喋れたんだ。


いや、それよりも——アーサー、そんな熱に浮かされた瞳でお祖父様を見つめないで。

て言うか、もはやそれは『恋』ではないか?


え? てことは、私のお婿にもらう計画は……まさかの破綻!?


しかも原因はお祖父様!?


暮れていく夕日の中、キンググリズリーを運び出す村人たちの喧騒を背に、私たちはただ、アーサーのお祖父様への熱い想いに呆然とするばかりだった。

本文中に載せられなかったのでレシピを紹介します。

最近の私のお気に入りです♪


★柿の豆乳フロマージュレシピ 1人分★

皮を剥いてカットした柿(熟している方が美味しい)1個

クリームチーズ(Kiri)1個

豆乳100mlくらい

氷2個

全部まとめてブレンダーへ。ちょっとしたスイーツみたいで美味しいですよ

╰(*´︶`*)╯♡

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