ダーツの夜
夜の街にネオンの光が瞬く中、彩花と美咲は駅前のダーツバー「Bull's Eye」に足を踏み入れた。
高校二年生の二人は、制服のネクタイを少し緩め、リュックを肩から下ろしてソファにどさっと座った。
「彩花、ほんとにここでいいの?なんか大人っぽい雰囲気でドキドキするんだけど!」
美咲がキョロキョロと店内を見回しながら言う。
カウンターには色とりどりのボトルが並び、ダーツボードの周りでは大学生らしきグループが笑い合っていた。
「大丈夫だって!ダーツなんて簡単そうじゃん。投げて的に当てるだけ!」
彩花は自信満々に笑い、メニューを手に取った。
「ノンアルカクテル頼もうよ。なんか、めっちゃ映えそう!」
二人はキラキラしたピンクのドリンクを注文し、店員にダーツのルールを教えてもらうことに。
ルールはシンプルな「301」。301点からスタートし、ダーツを投げて得点を減らしていくゲームだ。
最後にピッタリ0点にしないと勝てない。
「よーし、美咲、負けたらジュースおごりね!」
彩花がダーツを手に持つと、軽くジャンプして気合を入れた。
「えー、彩花、絶対ガチでくるじゃん!私、運動神経ゼロなのに!」
美咲は笑いながらもダーツを握り、ボードをじっと見つめた。
最初の数投は散々だった。彩花のダーツはボードの端っこをかすめ、美咲に至っては壁に当たって跳ね返った。
「うそ、難しすぎ!」
と美咲が叫ぶと、隣のグループがクスクス笑い、店員が優しくコツを教えてくれた。
「肘を固定して、狙いを定めて…そう、力まないで!」
少しずつ二人はコツをつかみ始めた。
彩花は「トリプル20」を狙って投げ、偶然にも高得点を叩き出す。
「やった!私、天才かも!」
とガッツポーズ。
美咲は慎重に「ダブルリング」を狙い、着実に点を減らしていく。
「彩花、調子に乗らないでよ!私だって負けないから!」
ゲームは白熱し、二人の笑い声が店内に響く。点数が拮抗し、最後の1投で決まる場面。
彩花が「ダブル10」を狙うが、緊張で手が震え、惜しくも外れる。
「うわ、くそー!」
と悔しがる彩花に、美咲がニヤリと笑う。
「私の番!見てて!」
美咲は深呼吸し、静かにダーツを投げた。
ダーツはスッと弧を描き、「ダブル8」に刺さる。ピッタリ0点。
勝利の瞬間、店内に小さな拍手が響き、二人はハイタッチで跳ね上がった。
「美咲、めっちゃかっこよかったじゃん!」
「彩花の悔しがる顔、最高!」
あ二人は笑い合い、ノンアルカクテルで乾杯した。店を出る頃、夜風が心地よかった。
「また来ようね、彩花!」
「絶対!次は私が勝つから!」
二人の声は、ネオンの光に溶けていくようだった。