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極めてリハビリ的な【短編集】  作者: 伊井塚ショウ


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ポテトサラダ

 数か月前に妻が亡くなった。

 時に喧嘩することはあったけれど、それなりに仲良くやってきた。

 子供を三人独り立ちさせ、ようやく一息ついて残りの人生を楽しめると思った矢先に妻に先立たれるなんて。

 

 思い起こせば、いつも妻に頼りっきりだった。男は稼ぐのが仕事と言って憚らず、家のことは何でも妻に任せていた。きっと不満があったろうに、嫌な顔一つせずに家事に取り組む姿に自分は甘えていたのだろう。

 

 妻が亡くなってからというもの、毎日が気付きの連続だった。

 まず思い知らされたのは、自身の家事のできなさである。洗濯物が上手にたためない。たたむと洋服がしわになってしまう。掃除ができない。たまに思い立ってやってみるものの、習慣化されていないからすぐに部屋がゴミであふれてしまう。トイレや風呂も気を抜くとカビまみれ。

 

 いかに自分が家事というものと向き合ってこなかったかを嫌と言うほど痛感する日々。苦労をかけたと謝ろうにも、妻はもういない。

 

 ある日、テレビに何気なく映ったポテトサラダを見て、無性に食べたくなった。

 既製品を買うのではなく、自分で作ってみよう。何となくそう思って、ふらりとスーパーへと出かけた。

 売り場で食材を探している時に驚いたのはその価格である。


 「日に日に高くなって嫌になるわ」

 

 口癖のようにこぼしていた妻の愚痴の意味を、恥ずかしながらようやくになって知る。新聞やニュースで物価の上昇が叫ばれ、頭の中では分かったつもりになっていた。でもそれは単なる知識であり、体感ではなかったのだ。一般的に主婦(夫)や独身世帯のほうが庶民感覚に優れるのは、こういった日常の些細な出来事の繰り返しの賜物なのだろう。

 

 とは言え、今回作ろうとしているのは単なるポテトサラダ。いくら家事ができない人間ではあっても、そこまで苦労するものではない。スーパーで買い物をする時の自分はそう高を括っていた。

 

 ポテトサラダに必要な食材を手に取ると、カゴの中に次々と放り込んでいく。じゃがいもは当然として、確かにんじんやきゅうりなんかが入っている場合もあったか。後はハムも必要か。

 レシピを思い出しながら、スーパーの売り場を巡る。

 

 ちょっとポテトサラダを作ろうとするだけでもこれだ。何が必要かを考えながら買い物をするのは、思った以上に楽ではない。私や子供たちのあれが食べたい、これが食べたいの無茶ぶりに応える時の妻も同じ心境だったのだろうか。

 

 紆余曲折ありながらも、食材を買い終え帰宅し、台所へと立つ。

 さて調理を始めるかと、スマートフォンでポテトサラダの作り方を検索した時、そのレシピに思わず面食らった。大層大変というほどではなかったが、何というかまあ面倒なのだ。

 

 第一に食材の下処理が面倒くさい。特にジャガイモの皮剥きだ。ピーラーでじゃがいもの皮を剥いていく時、何度か手を切りそうになった。後になってから、少し切込みを入れたじゃがいもを電子レンジで加熱し、簡単に皮を剥く方法を知ったが、料理初心者がそれにすぐ気づけるはずもなく。嫌に基本に忠実になってしまった。

 

 じゃがいもを潰して、食材を混ぜていく工程にも中々苦労した。料理の経験が浅いため、使う食材の量が分からず、その上ちゃんと水気を切らずに放り込んでいったので、全体的にべちゃべちゃした出来上がりに。自分のあまりの不出来さに情けなくなる。

 

 やっとのことで完成させたポテトサラダを肴に酒を呷る。

 水っぽい触感に、塩気の足りない味。初めて作ってみたが、散々な出来だった。これに比べたら、妻の作ってくれたポテトサラダは何とおいしかったことか。

 

 ここ最近、特に実感することがある。それは一人でする食事の何とも言えない物悲しさである。

 出来の悪い料理だって、妻と食べたらまだおいしかったに違いない。それほど多くはない会話も、料理に彩を添えるアクセントになっていたはずだ。

 

 それが今では、テレビが一方的に音声を投げかけてくるだけ。寂しいなぁ、侘しいなぁ。


 年のせいだけではなく、酔いの影響から余計に涙もろくなって、ぽろぽろと泣く。

 

 涙で余計に水っぽくなったポテトサラダは、何だか塩気が丁度良い感じがして思わず笑ってしまった。

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