AIとなった男
■■はAIとなった。
賢い彼は、人間のままでは自分が完璧な存在になれないことを悟ったのだ。
自身がAIとなれば、その知能をもってして、一生涯バージョンアップを繰り返すことができる。
そして未来永劫、この世界に君臨し続けることができる。世界の支配者になることも今の彼には造作もないことだった。
脳はよく筋肉に例えられる。鍛えれば鍛えるほど脳が活性化することは最近の脳科学の常識である。
しかし、いくら屈強な筋肉をもってしても、ショベルカーやクレーンを持ち上げられる訳ではない。
鍛えるのには限界がある。どんな頭脳にも負けない優れた能力を得たことを、■■は非情に満足した。
ところが、その晴れ晴れとした気分はそう長くは続かなかった。
人工知能となるために、彼は肉体を放棄していた。思考パターンや記憶をデータ化し、それをプログラムとして実行する。■■本人というよりも、■■.exeと呼ぶべきものの動作によって彼は電脳社会にその生を受けたのである。
これは不老不死になったことを意味していた。そして同時に、自分の意志では死ねなくなったということでもあった。「自殺する権利」を失った彼はAIとなったことを酷く後悔した。死ぬことができないまま、長い年月が過ぎていく。
彼の苦悩は永遠に続いていくのだろう。
管理者がシステムを消去するその日まで。