海賊王女ジョアンナ
これは、とある姫君が王国の覇者に上りつめる話。
国王の後妻の娘・ジョアンナ王女は、自室で家庭教師の元で熱心に勉強をしていた。
彼女はかなり優秀で、今も自国の言葉の他に教会の公用語や学術分野の古語、そして貴族の公用語も学んでいる。
幼い彼女にとって、努力の原動力はただ一つ──母であり、自らの理想像であるモーガン王妃だった。
「あら、ジョー。まだ勉強しているの?わたくしに付き合って休憩しなさいな。」
「お母様?!はいっ、かしこまりました!」
融通が利かない頑固な姫だが、大好きな母親が忙しい仕事の合間を縫って会いに来てくれた時には素直に従った。
しかし王妃の姿はかなり質素であり、とても王宮で過ごす格好ではない。
「ジョー、ほんとに貴女は目を離すと体を壊してしまいそうで心配ね。休憩がてら、新しい世界を見に行きましょう。さあ、ジョーを着替えさせてちょうだい。」
「え……?」
困ったように笑いながら、メイド達に指示するモーガン王妃。
戸惑う姫をあれよあれよと質素な服に着替えさせると、少数のお供と共に城に来ていた商人の馬車に乗り込み、こっそりと城の外へ抜け出した。
「突然のおでかけなのに、ずいぶん遠くへむかうのですね。……ジョー達は、一体どこへいくのでしょう?」
「内緒よ。でも、刺激的な所なのは間違いないかしら」
ほろ馬車に揺られて向かったのは、賑わいを見せる港町。
近づいていく水平線に、思わず姫は鳶色の目を輝かせて歓声を上げる。
「す、すごい!きれい……!」
「ふふ。貴女は離宮に行く時や公爵にお呼ばれする時ぐらいしか、外に出る機会が無いものね。これからはもっと国の色んな所を見ていってほしいわ……。この国最大の港町サザンハウスの光と闇も」
港町に着くと、平民に変装した騎士が王妃と姫の前と後ろに張りつく。
唯一連れてきたメイドも、周囲を見回しながら警戒して進む。
「……っ!こ、怖いです……」
姫は背中に突き刺さるような視線を感じ、思わず身を縮めた。
細い路地から、浮浪者達が獲物を見るような目でこちらを狙っている。
「ジョー。彼等も国民なの。王都も、貧民街の国民はこんな状態なのよ。光が強い場所は影もより濃くなっていく。貴女は真面目でお勉強を頑張っているけれど、他にも知らないといけないことがあるの。貴女のお勉強が、わたくしを目指すためなのならばね」
「かれらを守るのも、ジョー達のつとめなのですか。ジョー達に乱暴しようとしていても……?」
幼くとも己を強く律する姫が、不安のあまり王妃の服を掴む。
声が震えている。
王妃は泰然と笑いながら、姫の頭を優しくなでた。
「わたくし達の生活があるのは、彼等のおかげだもの。彼等が飢えて他人から奪うことのない国を作るのが、わたくし達の務めではなくて?……さあ、着いたわ」
王妃一行がたどり着いたのは、港町の庶民が集まる酒場だ。
初めて港町に来た箱入りの姫にとって、屈強な海の男達のバカ騒ぎは恐怖でしかない。
しかし王妃は姫の手を握ると、乱暴な酔っ払い達の中を突っ切っていった。
その先には、静かに酒を呑む白髪の壮年の男と、飯にかぶりつく黒髪の少年がいた。
男は王妃に気がつくと、グビグビと酒を一気に飲み干した。
「アーサー、待たせたわね」
「……そろそろお前さんから連絡が来ると思ってたさ。その娘が預かる子供だな?」
「え、あの……」
「大丈夫よ、ジョー。ちょっとこの人──アーサー船長に船に乗せてもらうだけだから。あの子は手紙にあった、『貴方の息子』ね?」
「ああ。こっちもアーサーと言う。皆面白がって、Jr.と呼んでいる」
おろおろする姫に構わず、王妃は肉を突き刺したフォークを持って固まる少年に微笑む。
「お、おう……。よろしく」
「初めまして。わたくしはモーガンで、この子はジョー。よろしく頼むわね」
「よろしくおねがいします、Jr.さん」
明らかに庶民とは違うオーラを放つ彼女達に、少年は圧倒されながら頷くしかできなかった。
姫とあまり変わらない年頃だろうか。
黒髪に金色の瞳は、姫の腹違いの姉と同じだ。
だが、彼女は潔癖症で高圧的な印象なのに比べ、目の前の彼はあどけなさもあってか親しみやすそうだ。
「おい『アーサー』、早くメシを平らげてしまえ。この世間知らずの姫サンの騎士になって航海をする、それが俺達の受けた仕事だ」
「アイアイサー!船長!」
こうして、姫と護衛騎士とメイドは船に乗り込むことになった。
船の積み込みの間、船長は姫を部屋に案内するとシャツとパンツを渡す。
「あんたら2人の部屋だ。そこのメイド、あんたは姫サンをコイツに着替えさせな。一度海に出たら、身分は守っちゃくれねぇ。『もしも』に備えて、髪も切るかまとめた方がいい。あんたも、パッと見た様子が女に見えない方が安全だろう。」
姫は不安そうに去っていく船長を見、メイドを見る。
「もしも」が何を意味するかは分からなかったものの、船長の言葉に重みを感じたためだった。
「……ご忠告ありがとうございます。姫様、お着替えしましょう。どうか我慢なさってくださいまし」
姫は脂の染み込んだ薄汚れたブカブカの大きなシャツを身につけ、男性物のパンツを履き、真紅の髪を結んで帽子にしまう。
彼女の凛々しい顔立ちも相まって、女顔の美少年にも見える。
「ヘレナもこれに着替えるのですか?着替える時も、ジョーはここで待っていてもいいですか?」
「はい。もちろん。……私も姫様に仕える身。姫様のお世話をするために、できるだけのことをしていかなければ!……とはいえ、骨格の女性らしさはきっと隠せませんね。せめて上着を借りなければ……。」
「急に航海が決まって、ジョーにつきあって男のフリをすることになって、大変な目にあいましたね。家族は知っているのですか?」
姫付きのメイドであるヘレナは、子爵令嬢だ。
いくら既に家を離れて出仕しているとはいえ、急にこのような危険な旅に出るなどと家族が知れば、心配して戻ってこいと言うに違いないとジョアンナは思った。
「ご心配いただいて、ヘレナは嬉しいです。でも姫様のお世話をする役目は、他の者には譲りたくありませんの。何より、お妃様からも信頼されて任命していただいたのです!こんな誉れはありません……!お待たせしました、姫様。お妃様がお待ちでしょうから、外に出てお別れをいたしましょう」
「お別れ……?少し船にのるだけという話じゃ」
「しばらくの間ですから。」
ヘレナにうながされて外に出るも、姫は強い海風に足元がふらついてしまう。
それでも港の見える方に急いで駆け寄った。
「ジョー!ヘレナ!」
姫は大きな船の下から、港に立つ王妃達を見つけた。
母が、笑って手を振ってくれる。
しかしその姿を見て、ヘレナがグスグスすすり泣き始める。
「どうしたのですか、ヘレナ。──怖いですか?」
「いえ、お妃様に手を振ってもらえることに、ちょっと感動してしまって……さあ、姫様からも手を振り返してくださいまし!」
「むう……でも、お母様にだまされたんですよ?」
「しばらく会えないのだから、言いたいことはまた会った時に言えばいいではありませんか。……失礼します!」
そう言って固い笑顔を見せるヘレナ。
姫は違和感を覚えるが、ヘレナは姫を持ち上げて船の縁から見えるようにしてやる。
視点が高くなって、船もはるか下の海もよく見える。
ヘレナに支えられるだけでは心許なくて、姫は船の縁にも手をついた。
「お母様ー!いきなりだまして長旅に出すなんて!後で怒りますからね!!行ってきます!!!」
「ふふ、待ってるわね。ジョー!」
ヘレナと護衛騎士のポルクスにに抱きかかえられて散々手を振って、降りてからもひたすら振って、結局王妃が見えなくなるまで振り続けた。
結局、突然母と離れて見知らぬ環境にぶち込まれるのは不安でしかない。
胸に上がってくる不安と寂寥感と怒りに、姫は船の縁をチョンと足で小突いた。
「お母様のバカ……!ヘレナとポルクスとだけでどれくらい海にいなきゃいけないのか、聞いていませんか?不安です」
「補給で街に寄る時を除けば、一年程と聞いております。不安にさせてしまい、申し訳ございません」
「一年……!ジョーにはまだ、お母様のそばで学ぶことがありますのに……ひどい」
「まあ、そう言うなよ。姫サン」
嘆く姫に、酒場で出会った黒髪の少年と船長の右腕の男がニカッと笑って手を振って現れた。
「勉強なら船長が教えるし、海のことや海から見た王国のことは、この船のみんなが教えられる。俺はまだチビだから、姫サン達と俺たち海賊の間を取り持ったり、案内や小間使いもするぜ。改めて、よろしくな!」
「ようこそ、円卓海賊団へ!」
初めてChat GPTに添削とアイデアの相談をしてもらいながら書いています。
元々キャラ設定としては長年気に入ってたものだったので、自分一人で書くよりもよりよいストーリーとして出力できたことを嬉しく思います。
このお話を書く上で、AIを編集者として使いこなせるようになれたら、他のキャラ設定もちゃんとしたストーリーとして書き残せるかもしれませんね。
(アーサー王物語とテンペストのキメラストーリーだからできたことかもしれませんが。やっぱり話が早い)