NMS ― 甘さは弱さ
『私はもう着いてるんだから 早く来なさいよ』
ふふ…呑気なものだな。
まぁメールの相手が本多だと思い込んでいるのだから当然か。
さて、もう目の前だ。
ここで最後の一手を打とう。
「もう見えるぞ、左側だ」
これで送信…っと。
このメールを見たユキは左側――つまり直線通路の方を向くだろう。
そして俺はその隙に背後から一気に詰め寄る!!
完璧だ…!!
死角から顔を少し出し、恐る恐る様子を窺う。
狙い通り!!
ちゃんと左側を見てるじゃねぇか!!
いまのうちに背後から――
「やっと来たかよ、遅いぞ本多!!」
そういって右手を挙げるユキ。
長い通路の先には――本多がいた。
「な…いったいどういう…!!」
予想外の人物の登場に思わず固まる俺。
それが失敗だった。
「逃げろっ!!これは罠だ!!」
俺に出来た一瞬の隙、そのせいで本多に先手を打たれた!!
珍しく本多が叫ぶ。
「は?なに?」
混乱するユキ。
本多の叫び声で俺は我に返り、ユキを捕まえるべく走り出す。
それに気付いたユキも我に返ったようで、俺から逃げるように走り出す。
ユキが本多に追いつき、本多の後を追うように俺から逃げる。
畜生…まさかこんな邪魔が入るとは…!!
しかしなぜ本多はこの場所に来たんだ…?
まさか俺がユキを呼び出したことを知っていた…!?
いや…本多ならありえるか…。
だが待てよ?
どうせ追跡者である俺がミッション内容を知ってるんだ。
結局あいつらは逃げられないじゃねぇか!!
じゃあなんで逃げてるんだ…?
しかもこっちは…確か…。
「はぁ…はぁ…い、行き止まりじゃねぇか!!
どうなってんだよ、本多!!」
やっぱりな。
先を走っていたユキが叫ぶ。
そしてついに俺が追いついた。
3方向を壁に囲まれ、唯一の逃げ道を俺が塞いだ。
本多たちに逃げ場はない。
「どういうつもりだ?
せっかく俺の奇襲を阻止したと思ったのに、わざわざ行き止まりに行くなんてよぉ?」
「ふん、知れたこと。
会長がミッションの内容を知ってる以上、俺たち逃亡者に勝ち目はない。」
「ならなぜユキを助けるようなマネを?」
「ふっ、いま会長自身が言ったではないか。
ユキを助ける、ただそのために俺は来た」
「つまり、ユキを見逃す代わりに本多を捕まえろと?」
「そうだ」
「そいつぁ殊勝なこった!!
いいだろう、ユキを見逃してやんよ。
あとまぁついでにケータイ返せよ。
やっぱり自分のじゃないと落ち着かんわ」
「あぁ、そうだな」
そう言うと2つのケータイが宙を舞った。
「ってかよ、なんで俺がユキを嵌めようとしたのをしってんだ?」
「どうしても知りたいと言うのならば教えるが、後悔してもしらんぞ?」
「そ、じゃ遠慮しとくよ」
「賢明な判断だな」
「さて、じゃお前はこっち来いよ」
そういって手招きするが、本多は動かない。
「…今度はなんのマネだ?」
「ふ…甘いな、会長」
そう本多が言った瞬間、俺の握りしめていたケータイから煙が噴き出した!!
「なっ…!?」
そして鳴り響く警報装置。
恐らく煙に反応して火事だと判断したのだろう。
天井から土砂降りの如く水が降り注ぐ。
「失礼する、悪く思うなよ」
本多とユキが動く気配!!
俺は咄嗟に右腕を本多の影に伸ばすが――空をきった。
煙は消えた。
だがいまだに水が降り注ぐ中、俺は本多が投げよこしたニセモノのケータイを床にたたき付けた。
このままじゃ終われねぇよな…?
ぜったいに借りを返させてもらうぞ、本多!!