学園祭準備編 ― 夢が繋いだ想い
…ここはどこだ?
茜色に染まる空
佇むフェンス
吹き抜ける風
…屋上だ
しかしなぜだ?
俺は自分の部屋で寝てたはず…
「…あぁ 夢か」
そういえば最近 よく夢を見るな
昔は全然見なかった気がするのに…
「…またこの夢か?」
夕方の屋上
立ち尽くす自分と
夕日の中にいる少女
居眠りの最中にも見た夢だ
少女が自分に向き直る
「ごめんね 急に呼び出して」
やっぱり 同じ夢だ
「話したいことがあってさ」
話さなくてもわかってるよ
「あのね…
いきなりだけど…
わ…私と
付き合って下さい…!!」
そういって頭を下げ
右手を突き出す少女
昼間の夢はここで終わったんだよな
…それにしても
この妙な既視感は一体…?
俺はこの先を知ってる気がする…
無意識に俺の手が伸びる
少女の右手を包み込む
少女が涙ぐんだ顔を上げる
俺ははっとした
周りの気温が下がった
俺の視界が歪んだのは次の瞬間だった
最後に見えた少女の笑顔が妙な既視感の正体を物語っていた
季節は…冬だった
目覚めは思った以上に悪い
というかむしろ盛大に最悪だった
真上に突き出した握りしめたままの右手は力無く宙をさ迷っていた
もちろんその手には何も―…
「………!!」
…あった
俺は飛び起きた
恐る恐る拳を開く
ジャラリというチェーンのこすれる音
「…これって」
リングが通っているネックレス
春に彼女と一緒に街へ行ったとき買ったお揃いだ
俺のリングにはイニシャルのR・Hが―…
…ない
そこに刻まれていたのは
A・S
紛れも無い
彼女のイニシャルだった
周りは静寂に包まれている
―いつか"その時"が来たら交換しようね?―
"その時"がいつのことなのか考えてもみなかった
もしかしたら彼女は最初からこうなることをわかっていたのかな…?
それとも―…
「………っ!!」
シーツに染みがひとつ ふたつ
やがて大きくいびつな図形が出来上がった
「…綺麗サッパリ忘れようと思ったのにな
そうだな… 忘れられるわけねぇだろ…畜生が…っっ!!」
思い出したよ 彼女の言葉を
気付いた このリングがいま俺の手元にある意味を
―ずっと一緒だからね―
そうだ そうだったな…
「あぁ…ずっと一緒だ
当たり前だろ…?
俺たち…」
好きだったんだ
お互いのこと 大好きだったんだから…
「…うぅ……っく…」
嗚咽を堪えて立ち上がる
俺にはやることがある
この学園で
「忘れねぇよ…絶対にな」
窓から差し込む光を受け
胸元で金色が輝いた