NMS ― 抜け目
『おい本多、メールだぞ』
おっ、メールが返ってきたな。
というか、メールの着信音まで…。
いったいどうやって作ったんだよ。
…まぁあいつのことだから、これくらい簡単なんだろうけどさ。
んで、内容は…っと。
『りょうかい、だけどアンタがメールなんて珍しいじゃない?』
あれ…そういえば確かに本多がメールするなんて――いや、ケータイで連絡をよこすこと自体珍しいじゃねぇか!!
ちっ…少しミスったか?
いや、相手は所詮生徒会の"お荷物"ことユキだ。
ごまかし通せるだろ。
えーと…。
『仕方あるまい、協力せねば勝利はないのだから』
こんな感じでいいかな?
よし、送信。
さて、ユキを呼び出すのはいいが…どこに呼び出そうか?
他の誰か――特に本多――にバレたらアウトだから…誰もいなさそうなところといえば…。
いや、いまは逆に考えるべきか?
「見付からないようにする=普段誰もいないと思われるところに隠れる」
つまり、あえて見付かりそうな場所こそ誰もいないに違いない!!
となればあとは具体的な場所は…
『おい本多、メールだぞ』
お、返ってきたか。
『だったら電話でもいいじゃねぇかよ?
まぁべつに私はどっちでも構わんけどさ。
で、どこに行けばいいわけ?』
まぁ電話なら俺が本多だってバレちまうからな。
さて、じゃあ場所は…。
『第1談話室の扉の前。
T字通路を折れたところで待っていてくれ』
第1談話室は1番目立つ部屋。
それに隠れるようなスペースが無い。
つまり、誰も寄り付かないはずだ。
ちなみにその談話室の扉の前はすぐに突き当たり。
左にまっすぐな通路があり、右はすぐに曲がり角。
そして俺は右から近づく。
つまりユキの立つ位置からは右の通路は死角となる。
誰かが近づいてくることはわかっても、それが俺であるとはわからない。
しかしユキは近づいてくるのが本多だと思い込んでいる。
追う側である俺が有利なのは間違いない。
『おい本多、メールだぞ』
さて、舞台は整った。
あとは舞台にヒロインが登場するだけ。
『あぁ、その場所なら近いからすぐに行けるわ』
王子様なんて登場しないストーリーの、哀れなヒロインがね。
思わず笑みがこぼれる。
サディスティックな笑みが。