NMS ― 悩殺?
「――というわけだ、さっさと片付ける。」
ミッションのために集合場所に集まる逃走者3人。
「よし、いくぞ――ってか重っ!!
いったいこの段ボールの中に何が詰まってんだよ!!」
内容は、第1倉庫から段ボール3つを厨房に運ぶこと。
しかし…なんかひっかかるんだよな。
なんでわざわざ厨房なんだ?
「そうよ、こんなの女の子に持たせるなんて考えられないじゃない。」
なんか納得できん、モヤモヤする。ユキでもいじるか。
「あぁ、その点ではよかったな。
さすがにまひるやサヨみたいなか弱い女子にはキツイだろうからな」
「ちょっと、私も女の子なんだけど…?」
「むしろこの中で筋肉担当でないのは俺くらい」
「ちょ…」
「何言ってんだよ本多、筋肉担当はユキだけだろ?」
「ふむ…それもそうか」
何気に本多もノリがいい。
「アンタ達…いい加減にしろー!!」
と思ったらユキがキレた。
「あ、筋肉担当がキレた。
カルシウムが足りてねぇんじゃねぇか?」
「困った、俺ら脆弱な男子では太刀打ちできん。
会長、打破する策は?」
「おいおい、頭脳担当は本多だろ?
それにあんまり筋肉で遊んでるとまひるとサヨに見付かるぞ?」
「そうだな、ミッションを片付けることこそが最優先事項」
「ほら、わかったら筋肉もさっさと来いよ」
「だーかーらー、筋肉じゃねぇって言ってんだろ!!
いい加減にしやがれ長谷川ぁ!!」
「いかんいかん、筋肉…じゃなかった、暴力担当がご立腹だ」
ってか なんで俺にだけ突っ掛かる!?
「はーせーがーわー?」
「いや…ちょ、ま…待て!!早まるな!!
その投げる気満々の段ボールを下ろせ!!
ってか、なんでそんな軽々と段ボールを片手で持ち上げれるんだよ!?
やっぱりお前の筋肉タダじゃねぇだろ!!
わ!!じ…冗談だからぁ!!
ごめ…マジで俺が悪かっ…わ!!わわっ!!」
「覚悟っ!!」
『ちょーっと、ストラップ!!じゃなくてストップ!!』
投球モーションに入っていたユキを止めたのは、この場の誰でもなかった。
「………は?」
馬鹿みたいな言い間違い(100%わざとだろう)をして場に割り込んできた声は、本多のポケットから聞こえた。
「いまのアレだよな?
進行役のアホ」
確か生沢って名前の。
『失礼な、誰がアホですか』
「「「お前」」」
『うぐ…見事な三重唱。
これが噂に聞く君たちのチームワークですか。』
「で、用事がないならさっさと失せろ。
私はいま長谷川を殴るとこなんだよ」
『いやね、別に殴ってもらうのは構わないんだけど――』
「よし、じゃ遠慮なく」
『あーっ、だから待った!!』
「どっちだよ!!」
『いやね、その段ボールで殴るのは勘弁してくれないかなーというか、君達のためにもやめといた方がいいよ?』
「おい、口調戻ってるぞ」
『はっ…失礼いたしました。
皆様方のためにもその段ボールは丁寧にお運びいただきたいのですが』
「なんでよ?」
『だってそれ、皆様方のディナーの食材だから』
「戻ってる、口調戻ってる!!」
『えー、もういいや、めんどくさい』
こいつ…めんどくさいって……。
『とりあえず丁寧に運んどいてね』
「つまり、俺達にディナーの食材を運ばせてると」
「つまりは楽したいだけかよ!!」
『そ…そんなことはございませんよ皆様!!
決して運ぶのが面倒だとか、この際あいつらを使ってやれだとか、全然!!全く!!これっぽっちも思ってないですよ!!』
なんとバレバレな言い訳っぷり。
「へぇ~そうなんだ?」
『や…あの…なんと言いますか…。
とっ、とりあえず!!丁寧にお願いしますね?
あ、それと、このミッションのみ失敗しても最後までやり通してもらいます』
「は…?」
『いや、ですから、
途中で追跡者に捕まったらミッション失敗になりますが、ミッションは続行。
つまり、なにがあろうと厨房に食材を運んでもらいますから』
「って、結局楽したいだけじゃねぇか!!」
『いやいや、そんなこと――』
「あーっ。見付けましたよ先輩!!」
『あ~あ、ドンマイ!!
とにかく運んどいてね』
「おいっ、畜生!!」
「では会長、俺もこの辺で
会長が俺のケータイを使ってるから代わりに会長のを借りる」
「おま…いつの間にそんな遠くに!!
ってか俺のケータイ!!」
いつのまにかポケットに入ってるはずのケータイがない。
「じゃ、私も。
アンタを殴るのはまたの機会にしといてやるよ」
「お前も逃げるのか!!」
「別に私が逃げなくても、まひるはアンタを捕まえるでしょうけどね」
「ぅぐ…それは」
確かに初日にNMSとか言ってたしな…。
とは言えあれっきりアピールというアピールはない気がするけど。
「それじゃ、せいぜいがんばりな」
「うぅ…仕方ないな…」
とりあえず逃げるのは諦めるか。
「さて、先輩。
とりあえず危ないですから荷物を下ろしてください」
いつの間にか目の前までまひるが詰め寄っていた。
「いやもう、捕まえるなら早く捕まえてよ」
「やんっ、自分から捕まえてほしいだなんて…。
とうとう先輩も…うふふっ」
「や、違うから」
「うぅ…全面否定しなくても…。
と、とりあえず、荷物置いてください」
「はぁ…、置いたけ…どぅあ!!」
「つ~かまえたっ!!」
次の瞬間、まひるが俺の首にしがみついていた。
「ちょ…まひる…」
「ふふ…逃がしませんよ?
悩殺するんですからっ☆」
「いや、これは…首が……」
やばい。
悩殺と同時に絞殺される…。
「ふふっ、せ~んぱい!!
大好きですっ!!」
それでも――
…もう少しだけ このままでもいいかも。
なんて、思ってしまった。