NMS ― 情け容赦は川に流せ
「さてと…どこにいこうかな――ん?」
独り言を呟くと ポケットに入ってるケータイの 聞き慣れた着信音に気付いた
この着信音は電話 しかもまひるからだ
「おう どーしたよ?」
なんの躊躇もなく電話に出る
『あっ先輩 いま大丈夫ですか?』
「ん?まぁ大丈夫だけど」
いったいなんの用だ…?
『ユキ先輩とサヨ先輩がいまどの辺にいるかわかりますか?』
「あいつらの場所?
さぁ…わかんねぇなぁ」
ちなみにユキとサヨが最初の追跡者だ
まぁユキはともかく サヨの居場所なんて知っても逃走者にたいしたメリットは無いわけだが
あ いいコト思い付いちゃった♪
「まぁさっき集会室付近で見かけたけど ずいぶん前の話だからなぁ」
『そうなんですか?
じゃあ私のいるところは大丈夫そうですね』
「そうなのか?
とりあえずいまどこにいるんだ?」
『私ですか?いま厨房に隠れてます』
「厨房!?
おいおい…いくら建物全体を使った"戦争"だからって 勝手に入って大丈夫かよ…」
『それがですね ちょっと頼んだら入れてくたんですよ』
「頼んだのか!!そしてOKだったのか!!
まったく…お互いなにを考えてんだよ」
『いやー女って罪な生き物ですね』
まひるがふふっと笑う
一瞬背筋がぞっとした
『先輩も来ます?
ここならきっとしばらく大丈夫ですよー?』
「そ…そうだな いまからそっち行くから待っとってくれ」
『りょうかいですー
はやく来てくださいねっ』
「おう じゃいったん切るぞ」
なんだろう…女って怖いな……
いや それさえも武器ってか?
いいだろう こっちにも手があるんだ
まひるは油断してるわけだし 少し厳しさってものを教えてやらねぇとな
今後の生徒会活動でまひるにはいままで以上に活躍してくれないと困る
そのための"経験"ってことで
そう思いながらも 顔は自然と綻ぶ
なにせSですから にやにや
それから約10分歩き 目的地にたどり着く
思ってた以上に建物が広くて時間がかかった
近くにいた従業員に許可をもらい 厨房へ入る
「おう 無事だったか?」
まひるは何の警戒心もなく厨房の隅っこに椅子を用意して座っていた
「あっ 先輩!!もちろんですよ
先輩は大丈夫でしたか?」
「俺はまぁこの通りだ
ってかよく厨房なんて考えついたなぁ…」
「それがまぁ おいしそうなにおいにつられて来ちゃっただけですから」
照れながらえへへと笑う
畜生…可愛いじゃねぇか!!
「そ そうなのか…
まぁとりあえず無事でよかったよ」
平静を装い ふぅ…と溜息をつく
2つの思いが込められた溜息を
「もしかして先輩…心配してくれてたんですか?」
「ん?まぁ…一応な」
心配っちゃ心配だ
「そんな…嬉しいじゃないですかっ…!!」
頬を赤らめて喜ぶまひる
完全に気付いてないな…
仕方ない お説教モードに入るか
「心配だよ…こんな警戒もなにも無しで
仮にも附属生徒会の4柱のひとりなんだから もっとしっかりしてくれないと」
「………え?」
まひるの笑顔が凍りつく
「俺が追跡者だという可能性は考えなかったのか?」
「えっ?だって…追跡者はユキ先輩とサヨ先輩で――」
「考えてなかったのか…」
やっぱりな…
「えっ…だって…」
「仕方ないな…これが現実の厳しさだよ」
そう言ってまひるの肩を軽く叩く
「捕まえた」
「……………」
状況が掴めないのか 呆然としているまひる
「あっ…あははっ
やんっ 捕まっちゃった☆」
そしてごまかすようにスマイルを浮かべた
「可愛く言ったってダメだからな?」
「うぅ~騙すなんて酷いですよっ!!」
「だけど実際の戦場で相手は手加減も躊躇いもまったくないぞ?
これがいい失敗だと思って これから頑張ればいい
そうだろ?」
しかも騙したというより一方的にまひるが俺が逃走者だと思い込んでたわけだし
「うう~」
「これはあくまでゲームなんだからさ そんな顔すんなよな
安心しろって 俺はいつでもまひるの味方だから」
そう言って 今度はぽんぽんと頭を叩く
「先輩…
私もずっと…ずっと味方ですから…」
「ん…?おぉ 頼んだぞ?」
あれ…?
いままひるの表情が…なにか思い詰めたような感じだった気が……
気のせいか…?
…まぁいいか
「とりあえず 俺はもう行くぞ…?」
「あ…はい そうですね
絶対に先輩を捕まえますから!!」
「お…おぅ 覚悟しとくわ
じゃあな」
「はい!!それでは」
これで少しはまひるも警戒って言葉を覚えてくれるかな?
さて…んじゃ逃げるかな
俺は厨房を後にした