学園祭準備編 ― 夢を見る者 見せる者
物凄い勢いでいまさらですが
基本的に場面が切り替わる毎を一章扱いにしているので一章が結構短かったりしますが勘弁してください笑
暑い
そしてまぶしい
屋上のドアを開けた感想だ
先に来ていた彼女は
沈みゆく夕日を眺めていた
「…ごめんね
急に呼び出して」
それは
どこか聞き覚えのあるセリフだった
夕日を背に佇む彼女
そのせいで表情はよくわからなかった
肩が震えているように見えたのは気のせいだろうか?
「…話したいことがあってさ」
それは今日見た夢と
同じシチュエーション
同じセリフだった
…だけどどこか引っ掛かる
何かがあの夢とは違う
相手の雰囲気とか―
それに
あの夢は確か…
…そうだ
俺が告白され―
「…引っ越すんだ 遠くに…っ」
それは
今日の夢との違いを決定付けるひとことだった
「………え?」
もしかしたら
声にならなかったかもしれない
それだけ彼女の言葉は
俺を動揺させていた
そんな俺を前に彼女は言葉を続ける
「もう 長谷川君とは…」
後半はもう聞き取れなかったが
言いたいことはわかった
そりゃそうだろう
この学園の生徒は全員寮生活
遠くに越すとなると
もう会えなくなると云って間違いはないだろうから
いいたいことはいろいろあったが
思い浮かぶ言葉はどれも俺の口から言葉として発されることはなかった
「その…
学園にはいつまで…居るの…?」
やっとの思いで紡ぎだした最後の希望
「…今日まで」
その希望も虚しく散った
あまりに急すぎる
あまりに残酷すぎる
あまりに虚しすぎる…
だってさ
これからだろ?俺たち
これからが楽しいんじゃないか…!!
「ごめんね…
なかなか言えなくて…」
彼女は両手で顔を覆っているため
声がしっかりと聞こえない
でもわかる
俺と彼女は半年間ずっと一緒にいたのだから
「………っ!!」
俺は奥歯を噛み締める
もうどうにもならないとわかっているのに…
ふと彼女が歩きだす
一歩
二歩
ゆっくりと
そして立ち止まる
俺の正面で
俺は何も云えず
何もすることができず
ただ立ち尽くす
相変わらず逆光のせいで
この距離になっても顔は見えなかった
だけど
彼女の頬に
光る一筋の雫があったのは見間違いじゃないはずだ
彼女は俺を抱き寄せた
次の瞬間
ほんの一瞬だが
俺の唇に何かが触れた
俺から一歩さがった彼女は…笑っていた
表情は見えなかったけど
俺には笑ったように思えた
俺の彼女との最初で最後のそれ―実質俺はファーストキスだったが―は涙の味がした
いつのまにか日は落ち
辺りは薄暗くなりつつあった
はるか頭上で
一番星が輝いていた
まるで
ひとりになった俺をじっと見つめるように
細長い月が現れていた
まるで俺を嘲笑うかのように…