学祭戦記、夏 ― 星の丘で
「わー綺麗ですね…」
屋上から打ち上げ花火を見ていた
「おにーさんなら勝てるって信じてたよぉ
花火のこと教えた甲斐がありましたぁ」
「当たり前ですよ!!
何て言ったって私の先輩なんですから」
「もぉ そんなにがっついてたらおにーさんに嫌われるよ?」
「そっ…そんなことないですよ!!
私と先輩は相思相愛なんですから!!」
「相思相愛かぁ…
ほんとにそうなればぁ きっとみんな幸せになれるのにねぇ…」
「もーなんで急に寂しいことを言うんですか?
るーちゃんらしくないですよ」
「だってさぁ…おにーさんはまだ何も知らないんだもん
ほんとのことは…なんにもね…」
2人の間に沈黙が流れる
「私が…私が先輩を助けてみせます…!!
真実を知った先輩が…ちゃんと生きていけるように…
もう二度と同じ過ちを繰り返さないように!!」
「…うん まひるちゃんしかできないよぉ
だってさぁ…もう―」
「るーちゃん…それは言わない約束でしたよ?」
「…そうだったねぇ
まだ…時間はいっぱいあるよね?」
「…大丈夫ですよ きっと大丈夫です!!
何てったって先輩ですから!!」
「そーだね…いまは信じようかぁ」
再びの沈黙
『役員は直ちに本校生徒会室に集まること
まぁ簡単な反省会と今後の日程について連絡をしたいからな』
おにーさんの声が静寂を破った
「呼ばれちゃった」
「そうだねぇ じゃあ また今度にしようかぁ」
「うん またです」
そう言ってまひるちゃんは去っていった
「おにーさん…」
ぽつりと呟き 仰向けになる
世界には私と星空しかないような錯覚に陥る
ほんとはそんなことありえないのに
"世界は誰にでも平等に残酷"
だから不幸だと思っちゃいけない
「ほんとかなぁ…」
私は―そうは思わない
思えない
まるで世界中の不幸がすべて―おにーさんに降りかかってるようにしか…思えない
「頑張ってねぇ まひるちゃん…」
限りある時間のなかで おにーさんを救えるのはきっとまひるちゃんだけ
なにもできない私は ただ見守ることしかできないから…
「まだ…大丈夫だよねぇ…?」
誰に言ったわけでもない
この世界に尋ねた
「まだこんなにも輝いているんだからさぁ…もう少しくらい夢を見させてよぉ…」
一瞬だけ 星がいつも以上に瞬いた気がした