学祭戦記、夏 ― 使うなら最後まで
校舎を赤い回転灯のあかりが照らす
校門には俺と渋谷 そして数人の役員
そして―パトカーと 手錠をはめられた男
3人の制服警官がいた
先程から警官のひとりが誰かに連絡をとっている
「…そして なぜ俺もここにいなければいけないのだ?
ついでに言えばいつになったら手枷を外してくれる?」
ふてぶてしく渋谷が問う
「お前にはまだ仕事があるんだよ」
俺はにやりと笑った
時計を確認する
…もうすぐだな
すると 警官のひとりが喋りかけてきた
「ご苦労様です」
見事なまでの敬礼だ
「我々はいまからこの男を署に連行しますが まだ何か用件はありましたでしょうか?」
「そうだな…せっかくならもう少し待っていかないか?」
俺の提案に 案の定クエスチョンを浮かべる警官
渋谷の頭上にもそれは浮かんでいた
「そろそろですから」
そして再びにやりと笑い 視線を星空に移す
―すると
ひゅ~ばんっ!!
夜空に―花が咲いた
「なっ…長谷川…止めたんじゃなかったのか?」
渋谷が驚きの声をあげる
「誰がそんなことを言った?
そんな無粋なマネはしないぞ
お前が頑張って用意したんだからな」
その間も夜空に幾つも花が咲いた
「元々花火部はこの時のために尺玉を調達してたそうだ
別にお前が花火部から盗まずとも花火は打ち上げる予定だったんだ」
「長谷川…お前…」
しかし感極まる渋谷の隣で警官が言った
「あれって…尺玉すよね?
…申請 通したんですか?」
「申請だと?」
渋谷が聞き返す
「はい 尺玉を打ち上げるのには手続きが必要ですよ
それがないと…犯罪なんですけど」
そんなことは知っている
俺は渋谷の肩にぽんと手を置いた
「警官さん 尺玉打ち上げの責任者はこいつです
まぁ詳細はこいつに聞いて下さいな」
「なっ…長谷川!!」
これが渋谷の最後の仕事だ
まぁ少しは痛い目にあってもらわないとな
「そうか じゃ君からも署で事情を聞くことにしようか さぁ 乗りたまえ」
「な…長谷川…謀ったな!!」
「なに 自業自得さ」
渋谷は悔しげに唸ったが 次の瞬間思い出したように表情が明るくなった
「はーっはっは 長谷川よ
お前 すっかり忘れているだろう?」
「…なにをだ?」
パトカーに乗り込む渋谷に問い掛ける
「なにって この俺の減点をだよ!!
このまま俺が連行されれば お前は俺を減点できない」
渋谷がにぃと笑う
「取引だ 長谷川
俺の冤罪を晴らして俺に減点をくれるか 俺に罪をなすりつける代わりに減点を見逃すか
さぁ どっちだ!!」
渋谷は勝ち誇ったように宣言した
だが
「悪ぃがどっちも遠慮だよ まだまだ甘いな 渋谷」
そう言って俺は 胸ポケットから1枚のカードを取り出す
「これ なんだと思う?」
一瞬で渋谷の顔が青ざめた
そして自分の体中をまさぐり―
「ない…俺のIDが…ない…!!」
「悪ぃな渋谷
お前にはがっつりしっかり減点をくれてやる
…警察で頭冷やしてきな」
「そ…そんなバカな…」
渋谷の呻き声は閉まるドアの音に掻き消された
パトカーが発車する
俺はそれが視界から消えるまで見つめていたが 見えなくなると同時に振り返り
「さて…反省会するか」
呆気にとられていた役員にそう告げた
満天の星空が 俺たち生徒会の勝利を祝福しているようだった
…あ あいつに手枷付けたままじゃん
…ま いっか