学祭戦記、夏 ― 甘酸っぱい?
たったったったっ…
「ま…待ってよ ハセ君」
「あんまり悠長なことは言ってられねぇんだけどな…」
階段を駆け上がる
少し後ろからサヨがついて来る
「…まだ来てなきゃいいけど」
「だから…さっきから何をぶつぶつ言ってるのさ
ちゃんと私にも説明してよぉ」
後ろから抗議の声が上がる
「着いたら話すよ だから早くしろって」
階段を登りきった俺は右手でドアノブを握る
左手にはID
サヨが追いつくと同時に俺は扉横のリーダーにIDカードを一気に滑らせた
がちり と 鍵の開く音
ドアノブを回し 外に出た
「…間に合ったみたいだな」
オレンジに染まり始めた空が俺達を出迎えた
特別教室棟 屋上
先客はいない
「…勝った」
不意に笑みが零れる
「もぅ 説明してよ なんで笑うの?」
「…これが笑わずにいられるか?」
扉を閉め 再びIDを使って鍵をかける
「この勝負 俺たち生徒会の勝ちなんだぜ?」
サヨは驚いた
そりゃ当然だろう
まだ終わってもないのに勝利を確信したと言われたのだから
「えっ…ほんとに?」
「あぁ この場所に奴の…渋谷の切り札がある
…それこそが俺の切り札だ」
サヨの頭上に?が浮かぶ
「奴は必ずここに来る その時を待つだけでいい」
「じゃあしばらくここから動かないの?」
「ん?そりゃそうだろ
問題でもあんのか?」
「え…えっとぉ…」
何故かもじもじするサヨ
「だからどうかしたのか?」
「あ いや…そのね」
そして顔を赤らめる
はっ…まさか
夕方の屋上
思春期真っ盛りの男女がふたりっきり
扉に鍵がかかっていて 誰も来れない
…つまり そういうことか?
「うぅー やっぱり無理っ!!」
そう言ってサヨは自分のIDを取り出して鍵を開けようとした
サヨも生徒会の重要人物として あらゆる場所の鍵を開ける権利を持つ
…って なにやってるんですかお嬢さん!!
「おい どうしたんだよ!!」
とっさに肩を掴んでしまった
「あ…悪ぃ」
「う ううん 大丈夫だから…」
「どうしたんだよ急に」
「だって…言うの恥ずかしいし…」
恥ずかしいって…やっぱりそうなのか…?
だからって逃げなくても…
「と…というか察してよ!!」
そして何故か怒鳴られる俺
…いま渋谷が来たら計画がパーだな
しかし…察しろって…やっぱりそうなのか?
すると開き直ったサヨが半ば叫ぶようにして言った
「仕方ないでしょ?
あんなに食べたりしたんだからお手洗いくらい行きたくなるじゃない!!」
そりゃそうだ
なにせあんなに食べたんだから―…って
「…お手洗い?」
…あれ 予想外
「もうっ 恥ずかしいんだから何回も言わないでよ!!」
「わ 悪ぃ…あ ここからなら附属棟のが近いぞ」
「あ う…うん じ じゃ行くね」
そう言ってサヨは脱兎の如く去っていった
…悪いことしちゃったかな
や まぁ いまのは仕方ないよな
いまのシチュエーションじゃ勘違いもするよ
そう自分に言い聞かせて俺は再び鍵をかけた
さてと…渋谷が来るまでなにをしようか?
話し相手もいないし
…そうだ 筋トレをしよう
取っ組み合いでも負けないような美しい肉体を作り上げてみせるぜ!!
「まずは…腕立て伏せでもやるか」
そういって腕立て伏せの体制になった途端に―腹の虫が鳴った
目の前にはサヨが買ってきたホットスナック
「まずは腹ごしらえだな…」
サヨが買ってきた物が詰まっている袋を見る
しかし買ってからずいぶん時間が経ってるからな…
フランクフルトを1本手にとり かじりつく
「見事に冷めてるな…まぁ仕方ねぇな」
相当空腹だったみたいですぐに焼きそばのパックにも手をつける
10分もしないうちに俺の胃は満たされ 袋はずいぶん軽くなっていた
…しかしサヨは遅いな
…まぁあれだ きっと他の役員に捕まったりしたのだろう
うん きっとそうだ
変な想像するのは失礼だしな
うん うん…
すると次の瞬間 扉の鍵が開く音がした
…サヨか?
いや…
違うと本能が告げている
とっさに立ち上がる
夕日を背に仁王立ちになる
扉が…開いた
その先にいた人物は…
「ようこそ 貴様の終焉の地へ なぁ…渋谷」
俺たちの…勝ちだ!!